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- 本コラムは、企業・団体などから寄稿された記事となります。掲載している取り組みやサービスの内容・品質、企業・団体などをAMPが推奨・保証するものではありません。
企業の成長過程における「分岐点」に焦点を当て、直面した困難やその後の成長に迫る企画「Turning Point」。今回登場するのは、AIコール「Mico Voice AI」を運営する株式会社Micoだ。生成AIの急速な普及を受け、同社はSaaS中心の事業からAI関連の新規プロダクトへと舵を切る。そして、わずか3カ月というスピードで開発を完了させ、その後半年で事業の売上を確立した。限られた時間のなかで、市場のニーズを把握し成長に導くまでにどのような変遷をたどったのか。「Mico Voice AI」の開発責任者であるJames Mesbur(ジェームズ・メズバー)氏に話を聞き、そのターニングポイントに迫る。
| 設立 |
2017年10月30日 2025年6月に株式会社Micoに社名変更 |
|---|---|
| 本社所在地 | 大阪府大阪市北区曽根崎新地1-13-22 WeWork御堂筋フロンティア |
| 事業内容 | LINEマーケティングツール「Mico Engage AI」、LINE 1to1 ビジネスチャット「BizClo」、デジタル会員証 LINEミニアプリ「ミコミー」、AIコール「Mico Voice AI」の企画・開発・販売 |
| 企業の成長過程における ターニングポイント |
主力事業であるSaaSが成熟期を迎えるなか、急成長の起爆剤としてAIを活用した新規事業をわずか3カ月でローンチ。当初の仮説とは異なる現実を前に「顧客のバーニングニーズ(切実な課題)」を徹底的に掴み、新サービスの展開を推進した。 |
SaaS から AIドリブンへの転換 限られた時間で事業立ち上げを行うプレッシャー
2017年に大阪で創業した株式会社Micoは、2019年に提供開始したLINEマーケティングツール「Mico Engage AI」といったSaaS事業を中心に成長し、2023年末にはシリーズBで約35億円の資金を調達した。しかし、生成AIの普及を受けて市場環境が急速に変化。同社はSaaS中心だった事業方針を刷新し、第二の主力事業としてAI音声ソリューションの新規立ち上げを決意した。このプロジェクトを率いたのが、日米両国で約20年間、音声AIのビジネス開発に携わる、事業責任者のJames氏だ。
2024年4月の入社直後に与えられたミッションは、3カ月という短期間で新規事業をローンチし、顧客へサービスを提供開始することだった。
「MicoのビジョンはアジアNo.1の企業になること。そのためには、起爆剤となる新サービスを展開することで、企業全体の成長をより加速させる必要がありました。限られた時間のなかで顧客ニーズを深く理解し、AIコールのMVP(実用最小限のプロダクト)をできるだけ早くローンチすることが求められました。
そのために、私は2つのことを注力しました。まずは、強力な成功事例をひとつ作り上げること。そして初期顧客を見つけ、彼らの欲求を明らかにし、具体的な活用シーンへ落とし込むことです」

短期間で爆発的な成長を実現する「バーニングニーズ」の捉え方
事業責任者のJames氏は、1カ月間にわたり毎日、Micoの既存クライアントへのヒアリングを実施。そこで見えてきたのは、ヒアリング前に考えていた仮説と実際の顧客ニーズとの大きなギャップだった。
「Micoの顧客は、これまで私が担当していた顧客と全く異なるニーズを持っていました。
これまでの顧客は、何百万件もの電話を取り扱う2,000席以上のコンタクトセンターを運営し、複雑なオペレーションをサポートする技術チームや開発チームを持ちながら、電話応対の最適化やコスト削減を目的としていました。
一方でMicoの顧客は人材エージェントや不動産会社、金融機関といった高単価商材を扱う事業会社です。ほとんどの場合、大規模な技術・開発チームを持っておらず、AIコールに求めるビジネス目標も新規顧客獲得や、離反防止など事業売上につながる指標が多い。特に印象に残ったのは、彼らが最先端の音声AIという技術にそれほど関心がなかったことです。彼らが強く求めていたのは『どんな方法であれ、自社の業務課題を解決してくれること』でした」
この発見を受け、顧客へヒアリングする際に、バーニングニーズ、つまり顧客が切実に解決を望む課題を捉えることに注力した。「業務においてどのような成果を出したいのか」「実際に業務はどのように進めているのか」といった、顧客が達成したいビジネス目標や日々の業務フローに焦点を当てた質問を行ったのだ。そして、顧客と対話していく中で、「顧客のフォローアップを行う架電業務が行き届いていない」という事業会社の共通課題が浮き彫りとなった。人による架電では追客できる顧客数に限りがあり、それが売上の機会損失につながっていた。
この課題を解決するため、「休眠顧客の掘り起こし」と「面談・予約のリマインドコール」の2つを初期リリースの最優先ユースケースに決定。
顧客ニーズがあり、優先度の高い目的・用途を徹底的に絞り込んだプロダクト開発を行ったことで、短期間でのサービスローンチに繋がったのだ。

AIは手段、顧客の課題解決と真摯に向き合う
Mico Voice AIは開発スタートからわずか3カ月後の2024年7月にベータ版をローンチ、2025年2月から正式提供を開始した。正式提供開始から約半年間で導入企業も順調に増え、大手企業の利用も進んでいる。人員を増やさずにフォローできる顧客数が3倍に増えたケースも出ている。
事業としては、初期顧客の課題発見期から利用用途の拡張期へと移行し、顧客あたりの平均収益(ARPU)拡大や新機能開発に注力している最中だ。
AI関連サービスがひしめくなかで、顧客に求められるサービスづくりには何が重要なのか、James氏はこう語る。

「AIが流行しているからという理由だけで、ビジネスに飛びつくのはやめたほうがいい。常に『顧客の課題』を出発点にして、そこから逆算して最適なソリューションを考えるべきです。
顧客が求めているのは『テクノロジー』ではなく、『業務課題の解決』です。また、その業務課題は、多くの場合シンプルで投資対効果の高いアプローチで解決できる可能性があります。それには開発スピードはもちろんですが、品質にもこだわることが重要です。Mico Voice AIでも顧客の課題解決に必要なクオリティを担保しており、重大なインシデントは未だゼロです。
今後は「AIコールといえばMico」と言われる存在となることを目指しています。将来的には電話に限らず、会話が価値を生むあらゆる場面でAIが活躍するプラットフォームを創造していきます」
AIの進化を追いかけるのではなく、目の前にいる顧客の課題と真摯に向き合うこと。それが、ビジネスにおいて根源的な競争力を生むための確かな一歩となりそうだ。
- James Mesbur/ジェームズ・メズバー
- 株式会社Mico VPoP,Conversational AI
- 2006年からニューヨークのSpeechCycleで会話デザイン・プロダクトの責任者として音声認識と自然言語理解を活用したIVRシステムを開発。2020年からは楽天グループで対話型AIプロダクトの責任者を務め、100名のチームを率いて対話型AI事業を推進。2024年にMicoに入社。
