AIはなぜ「その情報」を選ぶのか?

ChatGPTやPerplexity、Google SGE(Search Generative Experience)など、生成AIが情報を直接提供する時代が急速に広がっている。検索してクリックするのではなく、「最初から回答が提示される」──そんなゼロクリックの時代において、情報発信の在り方も大きく変わりつつある。

実際、これまでWebサイトへの主要な流入経路だったGoogle検索からのトラフィックが、徐々に減少していると感じている企業や個人サイト運営者は多い。これは生成AIが検索結果を代替し始めていることの証左であり、従来のSEOだけでは対応しきれない現実が訪れている。

この変化の中で注目すべきなのが「E-E-A-T」である。Googleの評価基準として知られてきたこの概念は、今やAIに引用されるコンテンツを設計する上でも重要な役割を果たしている。

もちろん、生成AIに選ばれるために必要な要素はE-E-A-Tだけではない。情報の鮮度、構造、質問との適合性、フォーマット、そして技術的な実装(構造化データやマークアップなど)も不可欠である。しかしその中でも、最も根本的な”土台”となるのが「この情報は信頼できるか?」という問いへの答えであり、それを構成するのが E-E-A-T なのだ。

E-E-A-Tとは何か?なぜ生成AIに重要なのか

E-E-A-Tとは、以下の4つの要素で構成される信頼性の評価指標である。

Experience(経験):実体験に基づいた情報かどうか
Expertise(専門性):その分野に関する深い知識を持っているか
Authoritativeness(権威性):業界や社会的に認められている存在か
Trustworthiness(信頼性):正確で安全な情報として信頼できるか

もともとはGoogleの検索品質評価ガイドラインで導入されたこの指標は、今や生成AIにとっても重要な判断軸となっている。なぜなら、AIもまた大量の情報の中から、最も信頼できそうな情報を選ぶ必要があるからである。

生成AIは、単にキーワードが含まれているかどうかではなく、「誰が語っているか」「どんな体験を元にしているか」「出典は明確か」といった要素を、文脈的に判断しようとする。その際、E-E-A-Tを備えたコンテンツは圧倒的に有利なのである。

ZendeskはなぜChatGPTに94%も引用されたのか?

AIに選ばれるコンテンツの実例として注目されたのが、Zendeskのケースである。

2025年にBusiness InsiderとGPTrendsが行った実験では、「おすすめのカスタマーサポートツールは?」という質問をChatGPTに100回投げかけ、その回答を記録した。その結果、Zendeskが94回登場し、最も頻繁に引用されたブランドとなった。

この結果には複数の要因がある。

・ZendeskのコンテンツはFAQ構造で整理されており、Q&A形式で明快な説明がされている
・Webサイトに実績、導入企業、サポート内容などが体系的に掲載されており、「信頼できる情報源」として文脈的に強い
・第三者レビューや導入事例の掲載も豊富で、社会的信頼(権威性)が確立されている
・著者情報や会社情報も整備され、企業としての実在性・責任体制が明快である

また、調査の方法は単純ながら説得力がある。異なるタイミングでChatGPTに同じ質問を繰り返し投げ、その回答内に登場するブランドを頻度ベースでカウントすることで、AIが「誰を信頼しているのか」が可視化された。

この事例は、生成AIが重視するのは単なるコンテンツの有無ではなく、「構造化された信頼」だということを明確に示している。

既存コンテンツをE-E-A-T視点でどう改善するか?

「E-E-A-Tを高めるために新しい記事を書かなければならない」と考える必要はない。すでにあるコンテンツにも、E-E-A-Tの観点を加えることで十分に最適化は可能である。

Experience(経験)

・実体験ベースのエピソードを追加する
・「使ってみた感想」や「現場の声」を記事に挿入する
・スクリーンショットや現物写真を加える

Expertise(専門性)

・著者プロフィールを本文またはページ下に追加する
・専門的な視点や知見を明文化し、監修者がいれば明記する
・執筆歴、資格、実務経験などの経歴情報を記載する

Authoritativeness(権威性)

・他メディアの掲載歴、外部からの被リンク情報を補足する
・導入企業、提携機関、団体との関係性を明示する
・メディア掲載・SNSでの言及実績も記述する

Trustworthiness(信頼性)

・出典やリンク、情報の更新日を記載する
・誤情報の訂正履歴や情報の改訂記録を追加する
・企業概要やプライバシーポリシー、問い合わせページへの導線を整備する

これらを加えるだけで、AIにとって「信頼できる情報」として認識される可能性が大きく高まる。

E-E-A-Tは“信頼の設計図”──AIは「人」ではなく「構造と一貫性」を見る

生成AIが引用する情報には一貫した傾向がある。それは、「誰が書いたか」よりも「どんな信頼性設計がなされているか」を重視するという点である。

たとえば、どんな専門家であっても、出典が不明瞭で情報が古く、文脈に矛盾がある場合、AIはその情報を避ける傾向にある。

逆に、名前も知られていない個人のブログであっても、実体験に基づいて丁寧に記述され、出典が明確で、構造的に読みやすければ、AIに引用される可能性は十分にある。

E-E-A-Tは“実在の人の信頼性”ではなく、“コンテンツとしての信頼構造”を設計するための指針であると言える。

AIに“選ばれる”ために、私たちは何を意識すべきか

生成AI時代において、情報は単に届けられるのではなく、AIによって「選ばれる」ことで価値を持つようになった。そのとき、問われるのはテクニックではなく「この情報は誰のどんな経験に基づいているのか」「どれだけ信頼されているか」という根源的な問いである。

今日からできることは、必ずしも大きな施策ではない。自身の経験を言葉にして書くこと、著者としての立場や専門性を明示すること、情報の更新や出典を丁寧に記すこと──こうした小さな積み重ねが、信頼の構造を形づくり、AIの評価に応える土台となっていく。

E-E-A-Tは、目に見える順位や数値を追う前に、情報の“在り方”そのものを問い直すための指針である。それは単なる評価軸ではなく、読み手やAIとの関係性を築くための設計思想でもある。

生成AIという新しい読者に対して、私たちはどのように語りかけるべきか。その問いに対するひとつの答えが、E-E-A-Tにほかならない。

文:岡徳之(Livit