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“100年に一度”の変革期を迎えている長崎。2022年秋には西九州新幹線が開業し、23年秋にはJR長崎駅の新駅ビルが誕生した。観光客の受け皿として、21年に「ヒルトン長崎」、24年に「長崎マリオットホテル」が開業、24年秋にはジャパネットグループが主導する複合型スタジアム「長崎スタジアムシティ」も開業した。
今回は長崎県が主催する「プレスツアー」に参加し、ドラマの舞台になった「軍艦島」や新施設「長崎スタジアムシティ」を含む長崎市の観光スポットを複数訪問。取材を通じて得られた現地の状況をレポートする。
大迫力のスタジアムに食や体験も。充実の複合施設
プレスツアーの目玉の一つが、長崎スタジアムシティへの訪問・宿だ。2024年10月に開業した同施設は、ジャパネットグループで地域創生事業を担うリージョナルクリエーション長崎が運営しており、総事業費用は約1,000億円にのぼる。JR長崎駅から徒歩約10分に位置し、約7.5ヘクタール(東京ドーム1.5個分)の巨大施設内にサッカースタジアム、アリーナ、ホテル、商業施設、オフィスビルが入る。
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こけら落とし公演では、長崎県出身の福山雅治さんのフリーライブが開催され話題に。応募人数は53万人以上にもなった。来場者は開業後3カ月で140万人を超え、多方面から注目を浴びるスポットだ。
ジャパネットホールディングス(HD、長崎県佐世保市)では、2019年に通信販売事業に並ぶ2つ目の柱として、スポーツ・地域創生事業を掲げた。同社のグループ会社では、バスケットボールBリーグの「長崎ヴェルカ」とサッカーJリーグの「V・ファーレン長崎」を運営しており、長崎スタジアムシティは両チームのホームスタジアム・アリーナとなる。
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約2万席を備えるスタジアムは、ピッチとの距離が全方向最短約5メートルで日本一短い。実際に芝生に降り立つと、その距離感に驚かされた。一部の座席は選手と同じ目線で試合を観戦でき、目の前でプレーを眺められるのだ。
スタジアムは「公園のように使ってほしい」という思いで建設されており、試合がない日は誰でも観客席に入場できる。夜間にはピットでレーザーショーが行われ、客室やレストラン、フリースペースなどから自由に鑑賞できる。地元の若者がデートで訪れるなど好評のようだ。
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アリーナはイベント準備中で見学できなかったが、約6,000席を備え、可変式の設計でコンサートやイベント活用も可能だ。大迫力の音響・照明設備で高揚感のある空間をかなえる。
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飲食施設もバラエティに富んでおり、長崎の名物も堪能できる。そのうちの一つ「THE STADIUM BREWS NAGASAKI」(ザスタジアムブリュウスナガサキ)は、レストラン内にビールの醸造所が併設されており、できたてのビールを味わえる。年間で約100種類のオリジナルクラフトビールを醸造しており、長崎の柑橘“ゆうこう”を使用したフルーティーな味わいの「ヴィ・ビール」が一番人気だ。
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日本初のサッカースタジアム上空を滑走するジップラインも、注目の体験コンテンツ。同社調べでは、ビルとビルの間をつなぐジップラインも国内初とのこと。スタンダードな「着座型」と「スーパーマン型」があり、体験した人によれば「足が固定されていない着座型のほうが怖い」そう。料金はいずれも2,500円で、身長は2mまで体重は40kg以上110kg以下の人が体験できる。
ホテルや温泉からもスタジアムビューが満喫できる
今回は施設内にある「スタジアムシティホテル長崎」への宿泊体験も実現した。客室は、スタジアムの眺めを楽しめる「スタジアムビュールーム」と、長崎の山々と街並みを鑑賞できる「シティビュー」の2種類が4つのグレードに分けられ、さらにバリアフリー対応客室を含め、合計243室がある。
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今回宿泊したのは、スタジアムをコンセプトにした「スタンダードスタジアムビュー エキサイティングツインルーム」で、芝生が敷かれたバルコニーから迫力満点のスタジアムが眺められる。その背後には、長崎市のシンボル・稲佐山も見える。
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さらに、バルコニーとスタジアムの座席がつながっており、専用のスタジアムVIP席と同じスタンド席も利用できる。試合がある日は試合を観てもいいし、夜のレーザーショーを鑑賞してもいい。スタジアムシティホテル長崎ならではの特別感がある仕様で、サッカーファンにはたまらないホテルかもしれない。サッカーファンでなくとも高揚感に浸れるだろう。
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館内にある大浴場やプールからもスタジアムの風景を楽しめる。プールには半露天ジェットバスやサウナもあり、水着着用のため家族や恋人同士でも利用可能だ。
同ホテルの朝食会場で見た限りでは、小さな子どもを連れた家族より大人同士で訪れている利用者が多い印象で、外国人観光客の姿はほとんど見かけなかった。
ジャパネットHDの広報・キャスティング部の徳永麻梨奈氏に聞いたところ、「まだ国外での知名度は高くなく、インバウンド誘致に取り組み始めたところ」だという。国内からは県内や九州を中心に老若男女が多く訪れ、飲食や買い物、体験コンテンツなどを楽しんでいるそうだ。
ドラマの舞台となり話題の「軍艦島」へ上陸
世界遺産の軍艦島も、長崎県で訪れたい観光スポットの一つ。海底石炭の採炭の島として栄えたが、石炭から石油へ主要エネルギーが移行したことで衰退し、1974年に閉山。その後は無人島になり、構造物の老朽化や崩壊が進んでいる。
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無人島となった後、整備工事を経て一定の安全性が確保され、2009年4月に上陸が解禁。多くの人が訪れる人気観光地となり、2015年7月に世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産〜製鉄・製鋼、造船、石炭産業~」として正式登録された。
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ロケ地としてもたびたび採用され、B’zなど人気ミュージシャンのミュージックビデオや2015年に公開された映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』で利用されたほか、2024年10月〜12月に放送されていたTBSテレビ 日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』では、ドラマの舞台となった。ドラマでは正式名称の「端島」で登場し、石炭産業で躍進した1955年からの最盛期の時代が描かれた。
さらに、2025年1月には、「フォートナイト(Fortnite)」の常設ステージ「GUNKANJIMA ARCHIVE(軍艦島アーカイブ)」として公開されたというニュースも発表された。同ゲームはステージの利用者数に応じて運営者からゲームの収益が還元される仕組みで、収益は軍艦島の保全や修復に利活用するという。
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軍艦島へは風速や波高などの条件をクリアしなければ上陸できず、長崎市によれば2023年の上陸率は約80%とのこと。島内で見学が許可されているのは3カ所のみで、上陸後の見学時間は30分ほどだ。晴れていても上陸できない日があるようだが、この日は運良く上陸がかなった。上陸不可の際は、軍艦島周遊クルーズに変更となる。
今にも崩れ落ちそうな壁や柱…記憶に残る風景
やや遠目から見ても廃墟ならではの異様な雰囲気が感じ取れたが、上陸するとドラマや映画の世界に迷い込んだかのような気持ちに。ガイドの説明を聞きながら3カ所を順番に回っていく。ガイドによれば、端島の最盛期の人口は約5,300人で当時は子どもの数が1,000人を超えていた。島内には保育園、幼稚園、小中学校があり、公園や海水を使ったプールなどもつくられた。
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海底炭坑として栄えた歴史にも触れられ、1891年から1974年の閉山までに約1570万トンもの石炭が採掘された。作業員たちは気温30℃、湿度95%の過酷な環境下で採掘作業をおこなっていたそうだ。作業員の社宅として1916年に建設された30号アパートは、日本最古の7階建て鉄筋コンクリート造の高層アパートと言われている。
そうした説明を聞きながら、当時の人々の暮らしを想像した人も多かっただろう。歳月を経て朽ちていった建造物は今にも壁や柱が崩れ落ちそうで、多くの参加者が貴重な光景を写真や動画に収めていた。約30分間の見学があっという間に感じた時間だった。
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現在、軍艦島ツアーを提供しているのは5社で、各社ごとにガイドの内容や乗船時のサービスなどに違いがある。乗船料は4,000円前後で、上陸時の施設見学料は大人個人の料金が310円(小学生は150円)、上陸不可の際は見学料と乗船料の一部を返金する会社もある。
ツアーの運営会社によると、ドラマ等の影響で注目度が急上昇したことからツアーの問い合わせや予約数が増えているているという。ただ、冬場は海況が厳しいことなどもあり、参加者数・上陸者数を急激に増やすことは難しいようだ。筆者が参加したタイミングでは20〜30代のカップルなど若年層が多い印象で、中国からの観光客も多かった。
「市内への周遊」や「アクセス」は、今後の課題
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長崎市内には他にも見どころがあり、「出島(国指定史跡 出島和蘭商館跡)」もその一つ。徳川幕府の命により築造された人工の島で、1641年から1859年までの218年間、鎖国時代に唯一西ヨーロッパに開かれた窓として、出島を通じた貿易が行われた。現在は当時の建物と当時の建物を復元した建物が並び、その頃の暮らしを知ることができる。
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グルメを楽しむなら市内中心部にある「長崎新地中華街」が有名だ。店ごとに味わいが異なるという長崎ちゃんぽんや皿うどんをはじめ、中華スイーツや角煮まんじゅうなどの食べ歩きも堪能できる。
このように長崎市内だけでも複数の観光スポットが点在しており、旅先としての独自価値につながっている。長崎県としても観光事業の促進に注力しており、2023年の延べ宿泊者数は約732万人で前年比15.9%増に。観光消費額も3,535億円で前年比29.4%増となった。これはコロナ禍で中止されていたイベントの再開や全国旅行支援、また外国人観光客の増加などが影響しているそうだ。
一方で、市内の周遊やアクセスには課題が残る。長崎スタジアムシティなど長崎駅周辺の商業施設や有名な軍艦島、長崎新地中華街などには訪れても、知名度が低い商店街や神社などにまで足を運ぶ人は現状少ない。
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今回、2社14寺が建ち並ぶ長崎市の隠れた名所・寺町や長崎最古の商店街・長崎中通り”四百年商店街なども訪れたところ、ミシュランガイドに掲載されたレストランや地元の人が営む和菓子屋や食堂など、多くの見どころがあった。長崎市にはこうしたエリアまで足を伸ばしてほしい思いがあり、プロモーション強化が求められるという。
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アクセス面では、2022年秋に西九州新幹線が開業したものの、現在は長崎駅と佐賀県の武雄温泉間の短距離運行にとどまる。福岡・博多まで移動するには、武雄温泉駅でホームの向かい側を走る在来線特急列車に乗り換える必要がある。同じホームで乗換を行う「対面乗換方式」で手間は少ないが、外国人観光客などにとってはハードルになるかもしれない。
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長崎駅周辺は、ここ数年で新駅ビルや高級ホテル、長崎スタジアムシティと新施設が続々と誕生したことで注目度が上昇。以前とは様変わりするほどのにぎわいが生まれている。今後、長期滞在や周遊を促すアプローチを積極展開していくことで、駅からやや離れたエリアにもにぎわいが波及していく可能性はありそうだ。
取材・文・撮影:小林香織
編集:岡徳之(Livit)