米国カリフォルニア州を拠点とするPika Labs社が昨年12月、動画生成AIの最新版として「Pika 2.0」を発表した。10月に「Pika 1.5」をリリースしたばかりだが、このアップデートは業界の各方面から、テキスト・画像からの究極の動画生成AI技術だと賛辞がひっきりなしに聞こえてくる。

さらに、「Pika 2.0」の公開はオープンAIの「Sora」が一般に公表されてから、わずか数日後と、「Sora」を意識していることは確実だ。競合との差別化を図り、動画制作上のユーザーが主導するカスタマイズ性が大幅にアップした点が特徴。動画生成AIツールにおける競争の激化を助長しているようにも見える。

幅広いクリエイティブニーズに対応

Pika Labs社は、「Pika 2.0」を単なるアップグレードではなく、AI動画制作における「革命」だと位置づける。シーンのあらゆる素材を細かくコントロールできるようにすることで、ユーザーにとって動画制作を完全にカスタマイズ可能な体験に変化させるという。

「Pika 2.0」のユーザー層は広い。プロのクリエイターが、制作費を抑え、労力をあまりかけずにクオリティの高い企業のための動画広告を創る場合にも、アマチュアのクリエイターが、ソーシャルメディアでほかの人々と共有して楽しむために創る場合にもと、幅広いクリエイティブニーズに対応している。

動画のパーソナル化を支える「Scene Ingredients」

「Pika 2.0」がほかのツールを寄せ付けない革新的な点は、新たに追加になった「Scene Ingredients」と呼ばれる機能だ。「Scene Ingredients」とは、動画のシーンを構成する一つひとつの素材のこと。登場人物やオブジェクト、背景などがそれに当たる。

高度な画像認識テクノロジーを採用し、動画に自分が撮った写真やお気に入りの写真を素材として、シーンに取り込むことができる。

さらには、デフォルトとしてシーンに入っている登場人物・オブジェクト、シーン素材を変更することも可能。ユーザーが独自の写真に置き換えようとアップロードした際、背景と不釣り合いであっても心配ない。シーンに馴染むよう、Pika 2.0が処理・統合してくれる。

登場する人物やオブジェクトのシーン内の位置や、各々がどのようなインタラクションを行うかもユーザー次第。さらにプロンプトを微調整し、カスタマイズをさらに深めることも可能だ。

「Scene Ingredients」こそが、動画のパーソナル化を支え、ユーザーが思い描くままの世界を手軽に創り出すのに役立っているといえそうだ。

テキストからの動画制作をレベルアップ

ほかに「テキスト・アライメント」機能も充実しており、テキストからの動画制作を新たなレベルに引き上げている。

「Pika 2.0」は、どんなテキストプロンプトも細心の注意を払って解釈し、ユーザーの意図やアイデアに忠実で、視覚的に魅力的かつ、まとまりのある動画に仕上げてくれる。スムーズなトランジションと、筋が通ったわかりやすいストーリー展開で、総合的なビジュアル体験を向上させることに成功している。

資金調達総額211億円、ユーザー数1,100万人と人気の「Pika」

2023年に女性起業家2人によって設立されたPika Labs社は、昨年6月に8,000万米ドル(約125億円)のシリーズB資金調達ラウンドを発表した。ベンチャーキャピタルであるスパークキャピタル社が主導。グレイクロフト社やライトスピード社などの著名な投資会社に加え、俳優ジャレッド・レト氏が参加した。

これで、資金調達総額は1億3,500万米ドル(約211億円)という驚異的な数字に達した。AIによる動画生成が秘める可能性と並び、ユーザーが利用しやすいツールを開発・提供しようとしているPika Labs社に、投資会社は期待を寄せていることが分かる。

ユーザー数も「Pika 1.5」の発表後、1カ月で500万人以上のユーザーを獲得し、ユーザー数は合計1,100万人を超えたそうだ。

有名ブランドとパートナーシップを組んだ例もある。バレンシアガやフェンティ、ファッションとライフスタイル雑誌『Vogue』などだ。ソーシャルメディアキャンペーンのために「Pika」を利用し、「Pika」の認知度アップに貢献している。

自分が求めていた動画と違うものができる可能性は低い

「Pika 2.0」の競合は、オープンAIの「Sora」とされる。「Sora」はプロのクリエイター、マーケティング担当者、起業家などがプロ級の動画を手軽に作成するのに助けになるというのが、一般的な見方だ。

「Pika 2.0」の働きを「Sora」と比較した人は多いはず。生成AIに詳しいEric Hal Schwartz氏による『TechRadar』への寄稿記事によれば、「Pika 2.0」と「Sora」は人気を取り合っているという。 

「宇宙でサーフィンをする猫」の動画を創る場合を例に挙げ、「Pika 2.0」の「Scene Ingredients」を使えば、プロンプトを用意する必要はないそうだ。

また「テキスト・アライメント」機能が向上したために、手間を省くことも可能。気に入っている猫の写真、星空の背景画像、サーフボードの写真をアップロードするだけで、「Pika」はまとまりのある、素敵なシーンを作成してくれる。

自分が求めていたものとまったく違うものが出来上がってしまう可能性は非常に低いとSchwartz氏は言う。モーションレンダリング機能がアップグレートのおかげで、シーンに登場するキャラクターが浮いていたり、体が関節ごとに切れていたりといったこともないという。

「Sora」だけでなく「Pollo AI」「Runway」「Stability AI」など、「Pika」の競争相手とされる動画生成AIツールは多いと指摘。複雑にならずに一般人がオリジナルの動画制作ができるように作られていることを考えれば、「Pika 2.0」は悪くないと評価している。

カメラで撮影されたかのような動画

また、『Tom’s Guide』のAI専門家、Ryan Morrison氏の「Pika 2.0」に対する評価も高い。

「実際、カメラで撮影されたかのような動画を創り出すことができるだけでなく、パーソナル化までできる」と機能に満足する。同氏もご多分にもれず、「Scene Ingredients」や「Pikaeffects」などの追加機能が、ほかの動画生成AIツールと一線を画していると評価する。

同氏は、「宇宙服を着た猫が月面におり、背後で地球が上ってくる」というプロンプトをほかの動画生成AIツールで作成させたところ、どれもひどい出来だったそうだ。さらにこのプロンプトで「Ideogram AI」で生成させた画像を素材を「Pika 2.0」に処理させると、新作映画のスタジオ映像のような、素晴らしい仕上がりになったと言う。

「クリエイティブアイデアを形にするのがAI」

昨年12月『フォーブス』誌は、Pika Labs社の創設者2人のうちの1人、Demi Guo氏にインタビューをした。シリコンバレー生まれの彼女が、プログラミングを始めたのは小学生のころだそう。家には小さなアートギャラリーがあり、姉妹の1人はフィルム、もう1人はファッションデザインを勉強していた、アート嗜好が強い家族のもとに育ったという。

そんなバックグラウンドを持つGuo氏は、「AIはアーティストの代わりになるものではない」と明言する。

開発するのは、AI動画が自動的に創れるツールではなく、作り手を助けるAI動画ツールだそう。「クリエイティブアイデアを形にするのがAI」であり、アーティストがビデオを制作する際の方法を、新たに提案したいと語る。「Pika」はそんな方法の1つなのだ。アーティストに、より多く、質の良いアイデアを集中して考えてもらうために、アイデアからそれを実行するまでの間のマニュアルワークの部分をAIが請け負えるようにしたいと言う。

また、今後はアート関連の知識やスキルがまったくない人が、AIビデオを制作するためのツールなども模索していきたいと話している。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit