INDEX
静的コンテンツをインタラクティブコンテンツに変換するツールが登場
マーケティングにおいて重要度が増している動画コンテンツだが、その編集には多大な時間とコストがかかる。動画配信先のプラットフォームごとに最適化するプロセスを加味すると、その手間はさらに増大することになる。この領域では、こうした手間を大幅に省いてくれるAIツールが続々登場しており、動画マーケティングのハードルは大きく下がりつつある。
コンテンツのインタラクティブ化を推進するVerusが発表したAIプラットフォーム「Vivi」は、動画マーケティングの最前線を象徴するものといえるだろう。
このプラットフォームは、記事やソーシャルメディアなどのパッシブなコンテンツを、リアルタイムでエンゲージメントの高いインタラクティブな体験に自動変換するもの。たとえば、記事、サイト、ソーシャルメディアなどのコンテンツを与えると、Viviは、それらを理解し、主題となるトピックに関するゲーム、クイズ、投票などを生成するという。
強みの1つは、リアルタイム性だ。同社の創業者ジョン・ヴィッティCEOがVentureBeatに語ったところでは、パッシブコンテンツのインタラクティブ化は1秒以内に行われ、これが消費者体験を大きく改善しているとのこと。同氏は、適切なコンテンツとは、最適なタイミングで提供されるものだと強調している。
Versusのパートナー企業が示すデータは、Viviプラットフォームの有効性を示唆するものだ。ディズニーなどのパートナー企業では、一部のコンテンツで94%のエンゲージメント率を達成。マイクロソフトでは65%のエンゲージメント率だったと報告されている。また、コンテンツのインタラクティブ化により、セッションタイムは平均11分増加したとのこと。
Versusはマイクロソフト、USA Today、NFL、Billboard、Forbes、グラミー賞、UFCなどのブランド企業とすでにパートナーシップを組んでおり、各業界で注目される存在になりつつある。同社の広告ベースのビジネスモデルにより、個人を特定するのではなくデータのトレンドに注目しながら、CPMベースでパートナー企業と収益を分配するビジネスモデルも特徴的だ。
インタラクティブコンテンツの需要が高まる中、Versusは最先端のAIテクノロジーと大手企業とのパートナーシップにより、この潮流を捉えるのに有利な立場にあるといえるだろう。元グーグルCEOのエリック・シュミット氏や元Huluマーケティング責任者のスコット・ドナトン氏など、著名なアドバイザーやエグゼクティブを擁していることも同社の強みとなる。
進む動画マーケティングの自動化、動画編集系のAIツール続々
Viviとは少し異なるが、AIによる自動化で動画マーケティングを支援するプラットフォームは複数存在している。
Vidyo.aiは、AIを活用して長い動画から短いクリップを自動作成するツールを提供している。ソーシャルメディア向けのクリップを自動的にカット&キャプションをつけることで、時間と労力を90%節約できるというものだ。
同社は、あらゆるソーシャルメディアサイト向けの無料テンプレートを用意しており、ビジネスユースケースに合わせてカスタマイズできる。マルチカメラや複雑な動画も、フレーミングやシーンチェンジ検出機能により、簡単に編集できるとしている。
また、自動字幕生成機能により、フォントスタイル、色、絵文字の自動追加、特定の単語のハイライトなどのカスタマイズも可能で、グローバル展開もしやすいという。ブランドテンプレートやアウトロの追加により、動画をブランディングに合わせて仕上げることも可能だ。
ロイヤリティフリーのストック画像、動画、音声を使って、ストーリーテリングを強化するB-roll映像の追加も容易。AIを活用したコンテンツアシスタントにより、動画をブログ記事、リンクトインの投稿、ツイートなどに再利用することもできる。さらに、フェイスブック、インスタグラム、リンクトイン、YouTubeなど複数のソーシャルメディアアカウントへの動画の同時投稿機能も備えている。独自のAIが算出する「バイラリティスコア」も提供。ショート動画、リール、TikTok動画などがどの程度バズるかを事前に予測できるという。
利用料は、月間300分まで動画生成できる「エッセンシャル」プランで月額35ドル、600分まで生成できる「グロース」プランで50ドル。
Vidyoの直接競合Submagic
Vidyoと直接的に競合するのがSubmagicだ。
SubmagicもVidyo同様に、キャプション、B-roll、ズーム、サウンドエフェクトの自動追加機能を提供。最新のトレンドテンプレートを使ってコンテンツを向上させ、自動絵文字でエモーションを加え、キーワードのハイライトで要点を強調できる。
自然言語処理アルゴリズムにより、48言語で動画のキャプションを自動生成できるという。Vidyoが現時点で、英語、スペイン語、ドイツ語、フランス語に制限されていることを考慮すると、対応言語の数ではSubmagicが優位だ。
AIを活用したストック動画やトランジションの自動追加も可能。戦略的なズームや自動カットで、重要な瞬間を強調し、視聴時間を伸ばす工夫を自動で追加できる。また自動生成される説明文とハッシュタグで、リーチとエンゲージメントを高めるキャプションも簡単に作成できる。
リンクトインが2024年に新しい動画機能をリリースする予定であることを踏まえると、これらのAI動画ツールの重要性はさらに高まると思われる。リンクトインの新機能は、他のソーシャルメディアプラットフォームと同様の縦型動画を中心としたもので、短い動画で、アテンションとエンゲージメントを狙う機能といわれている。
Submagicは、このリンクトインの動向を注視しており、リンクトイン動画に特化したテンプレートなどをリリースする可能性もある。
マーケティング専門家であるモーリス・A・デイビス氏は、リンクトインがこの機能を導入する理由について、ユーザーのプラットフォーム滞在時間を増やすためだと指摘。もし、リンクトインユーザーが、月に1回多くログインし、1セッションあたりの滞在時間が数分伸びるだけで、広告主にとっての価値は100倍になるという。
リンクトインでは現在、ユーザーの48%が少なくとも月に1回はログインしており、1セッションの平均滞在時間は7分40秒。新しい動画機能の導入により、ユーザーのリピート率と滞在時間の向上が見込まれる。
B2Bマーケティングにおいても、動画コンテンツの重要性は高まっている。ピエール・エルベル氏の調査によると、回答者の66%が、コンテンツマーケティング戦略の一環として、短尺の縦型動画コンテンツに投資する予定だという。
高品質インフォグラフィックを生成できるAIツールも登場
対コンシューマ、対ビジネスに関わらず、インフォグラフィックもエンゲージメントを高められるコンテンツだ。このインフォグラフィックの作成を自動化する生成AIアプリケーションも登場している。
Piktochartは、AIを活用して、高品質のインフォグラフィック、ポスター、バナーなどを瞬時に生成するプラットフォーム。ブランドのトーンやスタイルに合わせて自動調整できるのが特徴だ。
通常インフォグラフィックスを作成するには、PhotoshopやIllustratorを学ぶ必要があり、そのトレーニング期間は数カ月を要する。一方、Piktochartでは、1時間ほどトレーニングすれば、誰でも高品質のインフォグラフィックを作成できるという。グラフィックデザインの経験は不要で、ドラッグ&ドロップ方式のエディタにより、インフォグラフィック、パンフレット、プレゼンテーションを数分で作成できる。
コンテンツはPNGやPDF形式でダウンロードし、社内でメール共有することが可能。プレゼンテーションはPPTファイルとしてダウンロードし、PowerPointなどのソフトウェアでオフライン発表することもできる。またCSVやExcelファイルなどのデータをPiktochartのグラフメーカーにコピー&ペースト/アップロードするだけで、簡単にデータビジュアライゼーションコンテンツを生成することも可能だ。
生成AIアプリケーションの登場により、ハードルが下がる動画マーケティング。エンゲージメント向上と業務効率化が同時に達成できることが認知されれば、生成AIを活用した動画マーケティングは一層拡大していくことになるだろう。
文:細谷元(Livit)