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AI(人工知能)やIoTをはじめとしたテクノロジーの発展によって時代は急激に変化し、その変化は美容業界にも大きく波及している。
今、美容業界では大企業、ベンチャー問わず多くの研究開発や広告施策に最新のIT技術を取り入れており、また異業種とのコラボレーションも盛んになっている。
最新のIT技術や異業種と組み合わさっていくことで、これから美容業界はどのようにアップデートされるのだろうか。
2019年2月21日、AMPは早稲田大学日本橋キャンパス「WASEDA NEO」にて「美容業界のアップデート」をテーマにイベントを開催した。イベントではAMP共同編集長木村和貴がファシリテーターを務め、株式会社Meily(メイリー)CEOである川井優恵乃氏と、LiME株式会社CEOである古木数馬氏が各々感じる美容業界への課題、また自社のサービスで解決したいことを登壇し語った。
自身が美容整形経験者であり、口コミの力で美容医療の情報の不透明性を解消したい川井氏。そして美容師の労働環境の改善を見据え、美容師向けに電子カルテ管理アプリを提供する古木氏。2人は今の美容業界には、どのような変化が必要だと感じているのだろうか。
アップデートに必要なのは当事者の一歩と情報の平均化
「美容業界をどうやってアップデートしていくのか。何をすれば美容業界を変えていけるのか。ファシリテーターである木村から受けたこれらの問いに、川井氏と古木氏はそれぞれが持つ美容業界への課題、また重要だと感じている点を述べた。
登壇した株式会社Meily CEO 川井氏
川井氏 「美容業界は女性をターゲットにしていることが多いのに、課題を解決する側の女性がなかなか出てこないことを課題だと感じています。IT業界もそうですが、起業家には女性が少ない。実際に整形をしているのは女性で、情報リテラシーがなかったり、ITの知識がなかったりするために問題を抱えてしまうことがある。
美容医療はニッチな分野ですが、この分野のことを少しでも分かっている人が解決しようと思ってくれなければ、なかなか解決策は出てこないです。でも最近では、友達から成分から探せるコスメを作りたいという相談を受けることもあり、そういった話を聞くのは嬉しいです。」
川井氏は2017年11月29日、株式会社Meilyを設立しており、美容医療や整形の体験、口コミをシェアできる美容医療SNSサービス「Meily」を提供している。
では、一方で古木氏が思う美容業界の課題とはどのようなことだろうか。
登壇したLiME株式会社 CEO 古木氏
古木氏 「美容業界のアップデートについて、距離が違う2つの観点から考えたのですが、近い観点でいうとまず情報が平均化されることが大事だと思っています。誰でも同じように情報を取得できるようになり、個人の情報がちゃんとネットワークに繋がっていくことが大事かなと思っています。
例えば求人業界の場合、昔は会社の方が雇用者よりも強かったと思います。そのためブラック企業も存在していられた。でも今は情報が皆に平等に流れるようになり、悪いことがしづらくなっている。それは皆に情報が流れているからなのですが、それがまだ美容業界ではできていない印象があります。情報が平均化されることによって変わると思っていますし、それを実現したくて今の事業をやっています。」
2014年8月26日に古木氏はLiME株式会社を設立し、現在主力事業として美容師向け電子カルテサービス「LiME」を運営している。
古木氏 「もう一つの遠い観点でいうと、今後美容業界の市場が拡大するには、より社会が豊かになっていくのが重要だと考えています。
市場の拡大は自分達でもできることはやるのですが、実際のところ僕ら美容業界とは別の業界の変化が関係してくると思っています。AI(人工知能) とロボットが発展すれば、あらゆることが自動化され、人間が労働から解放され、生活が豊かになります。そして人類の歴史を見ると、豊かになればなるほど美容の需要が広がっていくんです。
労働時間が減ることによって時間ができ、お金がある人は時間を買えるようになります。そしてそういった変化によって人が美容にお金や時間を使う機会が増えます。“真善美(しんぜんび)”といった哲学的な思想の言葉があることから分かるように、美容はずっと残るものだと思うのですが、芸術とか美容というものは、社会がより豊かになっていくことでどんどん市場も拡大していくのではないかと思っています。」
サービスの利用者側と提供者側、しいては業種が違うだけでも”美容業界”に関する課題は尽きない。では、両者はどのようにサービスを展開し、新たな価値観を提供しているのだろうか。
サービスの当事者だからこそ、すぐにPDCAを回せる強みがある
最近では異業種から新しく市場に参入するケースも徐々に増えてきているが、川井氏は自身が美容整形の経験者で、古木氏は起業した今も週末に美容師として働いている。2人とも美容業界の課題を肌で感じている当事者だ。
そんな2人に木村は当時者だからこそ分かるサービス作りでの強みとは何か、質問した。
川井氏 「私の場合、美容整形のためのTwitterアカウントを元々作っていたので、Twitterで美容整形をされている人達とのコミュニティができているのが強みです。プロダクトを作ったらすぐに意見をもらえるので、すぐにPDCAを回して、良いものを作ることができることに強みがあると感じています。」
古木氏 「シンプルに言うと二つあって、一つはプロダクト作りでもう一つは戦略作りです。プロダクト作りですが、最初事業を始めた時に、どこの投資家を回っても、リーンスタートアップの話をされました。僕がリーンスタートアップを理解できていなかったので、どうしたらいいか悩んでいたのですが、とにかく自分や周りの美容師さんが使いやすい、良いものを作りたいと思いプロダクトを作っていました。
そしてサービスをリリースした後、リテンションカーブが既にある一定で定着するようになり、当時それが僕は良いのか悪いのかかが分かっていなかったのですが、周りの美容師さん達から自然にニーズを汲み取っていて、気付かないうちにすごいサイクルでPDCAを回していた結果なのだと、やっと半年前か1年前に気付きました。
僕も美容師なので、美容師さん達のプロダクトへの意見がその人個人の意見か、共通意見なのかが明確に分かります。またそういった意見を拾っていくのはすごく大事だと思っています。
もう一つの戦略作りでも、僕が美容師で周りに美容師さんがいるから気付けていることがあります。様々な他の美容業界のサービスも、どのサービスが何で定着しないのか、どの点が重要なのか、美容師側はみんな分かっているんです。」
美容業界は利用者の体験価値の満足度が一番重要である。二人とも、自身が悩みを持ち、その当事者でいたからこそ、戦略やサービス設計を行うことができたのだ。また、自身と同じ悩みを持ったユーザーニーズを把握していたからこそ、方向を間違えずにサービスを改善できたのである。
当事者としての自分から、起業家としての自分になるまで
利用しているサービスを不便に感じたり、自分が働いている業界の構造に疑問を感じたりする人は多い。しかし課題を感じたても、解決に向けて行動を起こす人は実際のところほとんどいないだろう。
2人はなぜサービスの受け手側から、サービスを作るビジネス側の起業家へと踏み切ったのだろうか。当事者の立場であった2人が起業をしたきっかけを聞いた。
川井氏「私は衝動的に行動するタイプなので、とりあえずやってみようと起業しました。3年前ぐらいに美容整形アカウントをTwitterで作ったのですが、だんだん美容整形アカウントの数自体が多くなってきているのを感じました。
またその頃韓国での整形がすごくブームになっていたのですが、口コミや体験談など、詳しい情報を探すのにすごく苦労したんです。そしてその時、韓国の美容整形に特化した Web サイトだったら、自分でも作れるかなと思いWordPressを学び、サイトを作ってみました。
サイトを作った後、韓国で整形しことがある人達に向けて150通くらいレポートをお願いしたダイレクトメールを送ったら、何で悩んで、どういう手術をしたかっていうことを事細かく書いてくれる人や、中には術前、術後の写真を送ってくれた人がいました。こんなに協力してくれる人達がいるのだったら、今よりもっと良い形で世の中に出せるんじゃないかなと思い、そこで起業することを決めました。」
古木氏 「起業したのは色々な角度からの理由があるのですが、一つ選ぶなら自分がサロンオーナーの時、美容業界の構造に課題を感じたからです。僕が独立開業を考えた時、日本の中規模の店舗、鏡が7~8面くらいあって席があるサロンさんは結構苦労している所が多い印象がありました。
多くのサロンが大手検索・予約サイトへの依存状態が続き自転車操業になっているのを見て、自分もよほどの経営力がないと長く続かないと感じました。
そしてそれをきっかけに美容業界のことを詳しく調べました。調べるうちに美容業界はでは、当事者である自分としては当たり前のことだったのが、他の業種では当たり前ではないことが分かりました。特に海外の美容市場を見た時に日本に美容業界の構造がおかしいと分かり、それを変えたいと思ったので起業に向けて活動を始めました。」
個人の最初の一歩で社会が豊かになり、美容業界のアップデートも促される
美容業界をアップデートするには何が必要なのか。それはサービスを提供する人達がよりよい環境で働けるよう、情報を誰もが平等に受け取れるインフラを構築することでもあるし、サービスの受け手である当事者が見つけた課題に対して声を挙げ、一歩を踏み出すことでもある。
またアップデートは業界の外側からも促される。テクノロジーのさらなる進化によって時間とお金に余裕が生まれ、それに伴い美容の需要が拡大する側面もあるのだ。社会全体が変化し豊かな方向に発展していくことで、美容業界の市場も自然と拡大し栄えていく。
当事者だからこそ気付いた、美容業界の課題に対して登壇者の2人が踏み出した一歩は大きい。しかしそれより小さくとも、一人一人の個人が少しでも社会を変化させる一歩を踏み出すことで、誰もがセンスを問わずに美容を追求できる時代が、到来するのではないだろうか。
取材・文:片倉夏実
写真:西村克也