昨年12月、JNTO(日本政府観光協会)が発表した「月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)」によれば、2018年に日本を訪れた外国人の数は3,000万人を突破したとされており、ここ数年でインバウンド需要が急激に高まってきている。

また、2020年に開催される東京オリンピックでの訪日外国人目標4,000万人を達成する見通しも立てられており、旅行関連のビジネスは、今後さらに発展していくことが期待されている。

そのような背景の中、旅行検索エンジン「KAYAK(カヤック)」は近年、目覚ましい成長を見せているWebサービスの一つだ。

2004年にアメリカで発表されたこのサービスは、数ある旅行予約検索サイトをさらに“横断・比較検索(メタサーチ)”し、ユーザーにとって最適な旅行オプションを提供してくれるという特徴を持っている。

今回は、現在KAYAKでAPAC地域統括ディレクターを務める山下雅弘(やました・まさひろ)氏(以下、敬称略)に、いま日本市場にアメリカの旅行サービスが参入する理由と、KAYAKの成長戦略についてお話を伺った。

山下雅弘
KAYAK APAC地域統括ディレクター
KAYAK入社以前は、レゴランド・ディスカバリー・センター大阪のジェネラルマネージャー、ホテルズドットコム ジャパンのマーケティングマネージャーを務める。イギリスのダラム大学にて科学の修士号を取得。2017年より日本カントリーマネージャーとして4月より同社に入社。

単なる値段比較サイトではない、旅行ツールとしてのKAYAK

――本日はよろしくお願いいたします。まずは、サービスの概要と特徴について教えてください。

山下:我々が運営する「KAYAK」というサービスは、2004年にアメリカで作られた旅行商品の値段比較サイトになります。

リリース当初は航空券から取り扱いを始めたのですが、現在では航空券、ホテル、レンタカー、航空券+ホテル(パッケージ)なども取り扱っています。

弊社では、半分以上の社員がエンジニアとして働いており、非常に旅行好きでもあるので、彼らの力を借りながらユーザーが本当に求めている追加機能やアプリ開発なども行っています。

例えば、KAYAKには「Trips(トリップス)」という機能があるのですが、これは予定管理機能でして、航空券の購入やホテル予約をした後に送られてくる予約確認メールをAIが読み込み、ユーザーの予定をアプリ内で自動的に作成してくれる、というものです。

その機能も当然弊社エンジニアやスタッフが日常的に使っており、機能をどのように改善していったら、より使いやすく良いものになるのかを考え抜き、システムに反映していっています。

そのような意味でも、KAYAKは単なる値段比較サイトというよりは、旅行の前後もサポートしてくれるような旅行ツールとして、ユーザーには活用してもらいたいと考えています。

――まさに、旅行者にとってのサポーター的な機能ですね。

山下:そうですね。もちろん旅行に行かれる際には使っていただきたいですし、その前の旅のプランニングの時点からTripsを役立てていただければと思います。

AR技術を使って荷物の大きさを測れる機能や、飛行機が遅延した際にお知らせをしてくれる機能もありますので、家から旅先へ、旅先から家へ着くまでずっとKAYAKを使って旅をしてほしいなと思うサービスですね。

――APAC地域統括ディレクターである山下さんのミッションとは、どのようなものでしょうか。

山下:KAYAK自体が日本で正式にサービスを開始したのが2017年です。

まだ新しいサイトであるということもあり、今最も力を入れているのがマーケティング・PR活動です。

弊社は海外展開をすでに14年間行っており、14年間分の分析データもありますので、そうしたデータを活用しながら日本市場でサービスを知ってもらう努力をしています。

幸いなことに、KAYAKはかなりリピート率が高い傾向にあるので、一度知ってもらえれば「これ便利だね」と使い続けていただけると確信しています。

3年を経て、日本市場へ進出する準備が整った

――最近では、旅行サービスのテレビCMなどが目立ちます。多くの競合相手がいる中で、KAYAKが提供できる価値とはどのような部分になるのでしょうか。

山下:もちろん値段比較という部分で負けない自信はあるのですが、それ以上の付加価値を提供できると思っています。

例えば、いまテレビCMで宣伝しているようなサイトでは値段比較のみの機能を持ったものが多いですが、KAYAKでは航空券、ホテル、レンタカーであったりとパッケージで値段情報を提供しているので、包括的に旅行サポートができるという強みがあります。

また弊社は日系の値段比較サイトさんと比べても、世界60カ国で海外展開を広く行っており、ユーザー数、提携機関の多さも強みです。

――すでに世界中で使われているKAYAKですが、なぜ2017年のタイミングで積極的に日本でサービス展開をしていこうとお考えになったのでしょうか。

山下:一言で言うと、日本市場へ参入する準備が整った、と考えたからです。

そもそも日本の旅行市場はとても大きく、3年ほど前からコミットする準備を進めていました。

具体的には、必要なプロバイダー、エアライン、旅行会社さんとの提携などです。

また、旅行で必要な予約をオンラインで行うという体験やツールに、ユーザー自体が慣れていないと使ってもらえないという事情がありました。

それこそ20〜30年前のようにパッケージツアーで、フランスに行って予定通り美術館を巡る、といったスタイルが主流の時代だとやはりKAYAKの良さが生かせません。

一方で近年では、女子一人旅がはやったり、ホテルと飛行機をバラバラに予約することが普通になってきたり、スマホが普及してオンライン予約が当たり前に行われたり、といった価値観の変化が起きました。

そういったさまざまな背景のもと、2017年くらいがちょうど良いタイミングだと考え、日本市場に進出しました。

また日本はスマホの普及が他国と比較して遅いこともあり、展開が若干遅めになったのかなとも感じています。

――最近では急激なインバウンド需要拡大で、ホテル不足も国内で起こっていると言われています。そうした状況の中、旅行サービスにはどのようなビジネスチャンスがあるのでしょうか。

山下:ホテル予約に限って言うと、一般的にホテルは残りの部屋数が少なくなってくると、当然需要があるので、運営会社は部屋の値段を上げることができるんですね。

ユーザーからすると安く良い部屋を取りたいと考えるので、似たような条件で比較をしたいという気持ちになると思います。

そうすると、1社しか値段を見られなかった人は、KAYAKに来ていただくと一括で値段比較ができるので、ぜひそうした使い方をお勧めしたいです。

例えば、100円しか値段が違わないのであれば、普段使い慣れているサイトでホテル予約をするということも考えられます。

しかし、家族で予約をするなど複数人の場合、その合計金額は大きくなります。

普段見ているときは安いのに、今日検索したら高くなっている、といったこともあるので、旅行需要が増えるにつれて旅行比較サイトは今後もさらに重要になってくるのではないかと思います。

値段比較に必要な時間は5分くらいなので、例えばA社で予約すると決めていても、一瞬KAYAKで検索してみたら1000円、2000円もしくは数万円安くなる可能性もあるので、ぜひ試していただきたいですね。

ユーザーに最適な旅行の選択肢を与える、トリップサポーター

――より多くのユーザーに知ってもらうために、どのようなマーケティング戦略を行っていく予定でしょうか。

山下:弊社の考えでは、必要なお金を使ってできるだけ効率的に事業を伸ばしていこう、という方針があるので、いたずらにいきなり何億円といったプロモーション費用は掛けるつもりはありません。

マスに一気に展開するというよりは、ツール自体に強い自信を持っているので、それを知ってもらう努力をしていくという感じですね。

現在、KAYAKのユーザーは順調に伸びてきているので、その方針は間違っていないと考えています。

――なぜ、ユーザー数が順調に伸びてきているのでしょうか。

山下:KAYAKを使っていただけるユーザーは、単純に一番安い値段だから使うのではなく、自分に最も合った旅行プランを見つけられるから、と言えるのではないかと思います。

ユーザーの中には、一番安い料金で旅行をしたいと考える方もいらっしゃいます。ですが、例えばヨーロッパに行くのに空港で12時間待つ必要があるといった条件の場合、多くの方は値段よりも快適さを選ぶのではないでしょうか。

ですので、KAYAKが目指すところは、ユーザーに最適な旅行プランを立てるサポーターとしての役割を果たすことです。

そういった価値を理解していただいている方に、少しずつ選ばれてきているのかなと考えています。

――その他に、KAYAKがユーザーのトリップサポーターであることを示す機能などはありますか。

山下:いま社内でも人気なのですが、Tripsには自分の過去旅行したデータを読み込む機能があります。

2018年に合計何キロ飛んだとか、何泊したとか、地球を何周したとか、月まで行けたなどですね。

そうして自分の旅行の記録を振り返ってみると、僕なんかは1年間に100泊以上していることが分かったり、一緒に多くの旅をしてきたなという感じがしますね。

その他、Booking Holdingsが運営するオープンテーブルというレストラン予約サイトも併せて利用することもできます。

こちらは現在、そのサービス展開をしているのはアメリカだけなのですが、それを使うとレストランで食事をするたびにポイントが付与されます。

そしてそのポイントは、ホテル予約の値段を安くするために使える、というサービスもすでに始めているんですね。

――それは旅行者にとってはありがたい機能ですね。

山下:海外でレストランの予約をするのって、外国人にとっては結構ハードルの高い行為だと思います。

もし自分が外国人だとして、一度も行ったことがない日本のお寿司屋さんに予約するのは、相当勇気がいることですよね(笑)。

そういった旅の途中もずっと楽しめるようなサービスを展開していくつもりです。

好きになり、信じ続けることで、サービスは成長する

――KAYAKは日本ではまだ新興のサービスだと思います。そうした新しいサービスを広める、もしくはグロースさせるためには、どのようなことが大切だと思いますか。

山下:やはり自分がそのサービスを本当に好きで、信じているか、というのはとても大切なことだと思います。

すでに地盤を築いている企業であろうと、スタートアップであろうと、誰でも仕事が大変になる時は必ず訪れます。

また、どんなに良いサービスや潤沢な資金があったとしても、辛く苦しい瞬間は必ずやってきます。

その時にいかに自分で頑張っていけるかというのは、本当に自分が売っているサービスに自信を持てているのか、自分が提供している価値に対して好きという気持ちがあるか、ではないでしょうか。

僕は、本当に好きなことでないと、サービスを広める、グロースさせていくというのは難しいと思います。

お金もうけのことだけを考えて成功できるのは、レアなケースです。

いま自分はKAYAKという素晴らしい海外のサービスを日本で広めたいと思っていますが、そのような思いやパッションが先にあって、結果的にお金をいただけたり、成功への道につながっているのではないかと考えています。

――2019年、これからKAYAKが実現していきたい目標やビジョンについて教えてください。

山下:まず直近の目標としては、どれだけKAYAKという旅行ツールを、より多くの人に知ってもらい、触っていただけるかですね。

そして長期的な目標では、旅行をしたいと考えたときに、日本人の誰もが「とりあえずKAYAKで検索してみるか」といった気持ちや行動を起こすような世界を実現していきたいです。

そのために旅行者やユーザーの声をできるだけ多く取り入れ、サイトに反映させていき、日本人にとって使いやすく便利なサービスを創っていくことが大切だと考えています。

――本日はありがとうございました。

取材・文:花岡カヲル
写真:西村克也