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LGBTQなど性別の多様化を認める流れが世界的に強まるなかで、そのような価値観をどのように育児に取り入れるのか。
先進的な国や都市では、ジェンダー(性別)に関わる固定観念を子どもに植え付けない教育が始められている。「ジェンダー・ニュートラル」という考えをもとにした教育である。
ジェンダー・ニュートラルとは何か
「ジェンダー・ニュートラル」とは男性的、女性的といった考えに偏らない考え方のことである。
たとえば、アメリカではLGBTの人々のために「男性」「女性」と2つに分けていないトイレも近年増えてきている。一番初めに導入したのはイリノイ州のノース・ウェスタン大学。女性、男性、その他、と3つから選んで入ることができる。
また日本国内でもジェンダー・ニュートラルの取り組みは存在する。
2018年4月に千葉県柏市に新たに開校した市立柏の葉中学校では、男女の性別の差を極力なくす制服を採用すると決められ、これは日本国内だけでなく、世界的にも関心を呼んだ。
ブレザータイプの制服で、男子用と女子用の制服が作られ、女性用のほうが細目にできているが、男子が女子用を選んで着てもよい。夏服もワイシャツ、ブラウス、ポロシャツの3つから自由に選ぶことができる。
また、ジェンダー・ニュートラルの動きは、文化や生活圏を超えて、言語にも影響を与えることもある。
2014年にカナダのバンクーバー市があるブリティッシュ・コロンビア州では、男子と女子で異なる代名詞「He」と「She」という言葉を使用せずに、性別の概念を無くした「Xe(ゼ)」という新しい言葉を使って子どもたちに教えている。ただこれはPTAの反対の声も多く、意見がさまざまに分かれている。
そんな中で、すでに中立の代名詞がすでに一般社会に浸透しているケースもある。
北欧スウェーデンでは2012年に「Hen(ヘン)」という、男性でも女性でもない「中性」の代名詞が絵本に使われ、物議を醸した。その後2013年からその代名詞がマスコミなどでも一般的に使われ始め、2015年には辞書にも追加された。
もともと一番最初にこの中性代名詞がスウェーデンで提唱されたのは、1966年だったというから驚きだ。
こういったジェンダー・ニュートラルな言葉が国家レベルで公に認められるのは世界初であり、2019年現在ではそれがすでに一般社会で浸透しており、世界の中でもジェンダー・ニュートラル教育が進んだ国として最近注目を浴びている。
ジェンダー・ニュートラルなスウェーデンの歴史
スウェーデンは、1974年に世界で初めて両親を対象とした育児休暇を法制化した国である。しかし、それでも実際は男性の育児休暇をとる割合は1980年に全体の5パーセント、1990年になっても7パーセントにまでしか増えなかった。
その後1995年に「パパ・クオータ制度」が採用された。これは最初に隣国であるノルウェーが1993年に一足早く始めた制度だが、育児休暇のうちの1カ月を父親がとらないと、手当をもらえないという制度である。
そして2002年にはこれが2カ月(60日)に延長された。現在スウェーデンでは社会保障の範囲でとれる育児休暇の期間が両親それぞれ8カ月(240日)が保障されていて、そのうち180日分はパパママの間でお互いに譲り合うことができるが、そのうちの60日分は「パパ・クオータ」「ママ・クオータ」として、譲ることができない。
では、現実問題として本当にスウェーデンでは男女平等社会なのだろうか。
世界経済フォーラムが2006年から毎年出している世界の各国の男女間の不均衡を示す指標「ジェンダーギャップ指数」では、2018年にスウェーデンはアイスランドとノルウェーにつぎ世界で3位となっている。2017年は5位だったため2つランクアップしている(ちなみに日本は110位とかなり低いレベルにある)。
スウェーデン統計局(SBC)の2017年の統計によると、16歳から64歳で仕事をしている人は男性は79.5%、女性は76.6%という数字が発表されており、その男女格差はきわめて少ないことがこの数字からも分かる。
ただ、同じSBCの男女賃金格差の統計については、高収入になればなるほど、男性の比率が上がる傾向がある。これは、女性がパートタイムで働く割合が高く、管理職になると男性の比率が上がるためと考えられている。
ここでは微妙な男女格差が表れていると言ってよいのかもしれない。また、イスラム圏からの移住者が増え、イスラム文化が入り込んでいることも数字に影響はあるだろう。
男女平等を提唱するプレスクールの取り組み
そんな男女平等を提唱するスウェーデンでの注目されている取り組みが「ジェンダーフリー教育」である。
1998年に教育法がスウェーデンでは改正され、男女区別ないように平等に教育することが学校などの教育機関に義務づけられた。
政府は、ジェンダー・ニュートラルなプレスクールに資金を提供し、教育機関では1998年以降、ジェンダー・ステレオタイプ(男女についての固定観念)は禁止されている。
小学校に入る前のプレスクールで、「男の子はミニカーで遊んで男の子らしく」や「女の子は人形で遊んで女の子らしく」といった今までの性別の固定観念を押しつけることなく、子どもたちが遊びたいと思ったことで遊ばせる方針をとるやり方だ。
たとえば、プレスクールには「family roomファミリールーム」と呼ばれる部屋があり、そこではおままごとのセットや人形で遊んだりすることができる。ただ「女の子のための部屋」という定義はされていない。
また、「construction room(工作部屋)」と呼ばれる部屋もあり、そこでは木のブロックやレゴ、ミニカーなどで遊ぶことができ、これも「男の子のための部屋」というわけではない。
また女の子はピンク、男の子は青、といったステレオタイプの色のルールに強制されることもない。
この教育の結果、男の子と女の子が分かれて遊ぶということはなくなり、みな性別も混ぜて気の合う子と遊ぶという傾向がみられるようになったという報告もある。
ただ、リベラルなスウェーデンでもこれに反対する人も少なくない。
ストックホルム在住の精神科医David Eberhard(デイビッド・エーベルハード)氏は著書『How Children Took Power(どうやって子どもたちは権利を得たか)』の中で、ジェンダー・ニュートラル教育が導入してから、子どもたちの学校の不登校や不安障害が増え、国際的にもスウェーデンの国家レベルでの教育の質が落ちてきていることに触れ、現在のジェンダー・ニュートラル教育は大人がジェンダーの問題をより大きくし、子どもたちを洗脳しているようなやり方であり、そのやり方は間違っていると意見している。今のスウェーデンで学力などで問題があるのは男の子だとも示唆している。
現在の子どもたちはわたしたちとは違った、より柔軟なジェンダーについての観点を将来的に持っていくことは確かである。
このスウェーデンの取り組みが吉と出るか凶とでるか。教育に正解・不正解は存在しないが、今後の展開に注目したい。
文:中森有紀
編集:岡徳之(Livit)