JWTが毎年発表するレポート『The Future 100』では、2019年のトレンドの一つに、”freelancer first(フリーランス・ファースト)”が挙がった。

ここ数年、世界でフリーランスは増え続けている。例えば、現在全世界で33%の労働者がフリーランスとして働いており、2020年までにはその割合は50%になると予測されている。フリーランスの爆発的な増加を受けて、フリーランスをより働きやすくするためのサポートサービスが続々登場。

こうしたトレンドの高まりを受けて、仕事の生産性をあげるための「働く場所」に関する考え方や、幸せな働き方をするための繋がりの作り方、フリーランスと企業の新たな関係づくりなど、日本でも実践できる働き方のヒントを考察する。


過去10年間でOECDのなかでもっともフリーランスの増加率が高かったオランダ(写真:著者撮影)

働く場所の選択肢は着実に増加

コワーキングスペースは、過去5年間で200%の割合で成長している。ロンドン、ニューヨーク、シカゴなどの主要都市では年率20%もの割合で拡大。アメリカでは女性向けのコワーキングスペースの成長も著しい。

世界各地でコワーキングスペースが増加したことで、フリーランスにとって働く場所の選択肢が増えている。

ニューヨーク、スペイン、オランダと働く場所を数年に一度のペースで変えてきた日本人のフリーランス女性は、「旅先でも利用できるから」とWeWorkに申し込んだそう。WeWorkの会員であれば他国でも施設を利用できるからだ。

旅行先で仕事をする場合、ネックになるのが安定したWi-Fi環境の確保。インターネットが安定している場所を探すのは意外と手間だ。信頼できるコワーキングスペースに登録していることで、ストレスなく安定した環境で仕事ができるだろう。

世界で注目を集める“ワーケーション”

ワーケーションという言葉をご存知だろうか。欧米だけではなく、日本でも少しずつ取り入れられている働き方で、work(仕事)とvacation(休暇)を組み合わせた造語だ。旅行しながら働くことで刺激を受け、それを仕事に生かすという考え方だ。

もちろん、「旅先は完全に仕事の情報はOFFにしたい」という人もいるだろう。しかし、ライターやデザイナー、プログラマーなどにとって、非日常でかつ心地よい場所で働くことが仕事のパフォーマンスに繋がることもある。

数年前、オーロラ観測のためにフィンランドに行ったのだが、その時にオーロラが見えるスキー場のホテルで、人々がMacbookを広げて仕事をしている光景がとても印象的だった。オーロラを見て、仕事をして、サウナに入ってリラックスするようだ。


フィンランドのオーロラ。左下に見える宿泊施設にはたくさんのデジタル・ノマドが滞在していた(写真:著者撮影)

「オーロラはここからよく見えるよ」と案内してくれたオランダ人のフリーランスの男性は「僕は働きながら旅行もたくさんしてるよ。年に8回くらい旅行するかな」と教えてくれた。

彼の場合は、生産性を高めることよりもクオリティ・オブ・ライフを鑑みてこういったスタイルを取っているようだが、仕事をしながらも自分が行きたい場所にいけるのは非常に魅力的だ。

人との繋がりが生まれる場所

コワーキングスペースが運営される理由の一つに「人との繋がりを生むこと」が挙げられる。

筆者も以前WeWorkを利用していたが、会員登録した際にオリエンテーションがあった。その月に入会した人たちに向けて施設の活用方法を説明するツアーがあるのだ。イベントも頻繁に開催されている。会員向けのSNSも整備されており、単発での案件から起業まで、様々なシナジーを生み出すことを目指している。

オランダのMeet Berlageというコワーキングスペースでは、ガーナの農家の女性たちを支援するプロジェクト『SheFarms 』が立ち上げられた。運営メンバーはコワーキングスペースでの出会いがきっかけで広がっていったそう。

Tiambi Simms(ティアンビ・シムズ)というオランダ人女性が発起人で、複数のエンジニア、デザイナー、インターンとプロジェクトを運営している。


SheFarms』公式サイト

その『SheFarms』はモバイルプラットフォームのサービスで、農場におけるデータのインプット、進捗管理、将来の収穫に向けての予測・売上計算が可能だ。仕事の効率化・見える化だけではなく、これらのデータは融資を受ける際の資産としても活躍するそう。

コワーキングスペースというと、ビジネス色の強いイメージがあったため、ソーシャルグッドなプロジェクトが立ち上げられていたことに驚きを覚えた。


コワーキングスペースには、人との繋がりを作るために12:00-14:00の間でランチビュッフェが開催されている。ランチへの参加を促す看板も(写真:著者撮影)

普段はみんな黙々と仕事をしているが、ランチの際はビュッフェを食べながら話をすることができる。

自分の仕事を説明し、普段関わらない人からコメントをもらうことはなかなかない。プロジェクトが生まれるまではいかなくとも、新たな気づきがあるし、きっと何かをしようと思えばチャンスは掴める環境の中にいるのだと感じる。また、他の人たちが周りで何かアクションを起こしている様子を見るのはとても刺激的だ。

会社に所属していたり、フリーランスとして自宅やカフェで黙々と作業をしているとなかなか人の繋がりは広げられないが、自分次第で変化を生み出せる環境が着実に整ってきている。

また、こうしたプロジェクトを立ち上げる際は、お金にならなくとも仕事を引き受ける人もいるようだ。プロジェクトの理念に共感し無給で働いている人もいる。

何か一つ、社会的にも意義があるプロジェクトに参加することは、自身のブランディングやスキルアップにもなるし、何より毎日が楽しくなるだろう。長い目で見て、事業が成長すればなお良いが、それに固執する必要すらないように感じる。

フリーランスの副業・複業が拡大、課題は環境整備

これまで、フリーランスが生産性高く働くための”場”選び、周りのフリーランスとのコラボレーションについて紹介してきた。では実際、多くのフリーランスたちはどんな仕事をしているのだろう。

OECDの調査によると、OECD諸国のフリーランサーの大多数は「複業」またはフルタイムの補完である「副業」を実践している。単純な時間の切り売りから専門知識を生かしたものまで業務内容は様々だ。日本でも、この副業フリーランスの流れは加速しており経済規模は8兆円と言われている。

副業・複業形態でのフリーランスが増えれば企業と直接取引をする個人も必然的に増えていく。その際、問題になるのが企業とフリーランスの契約や仕事の進め方など実務面での問題だ。

JWTの『The Future 100』によると、「フリーランス・ファースト」なサービスが生まれた背景の一つに、こういった企業との軋轢を解決しようという価値観があるようだ。

例えばイギリスでは、フリーランスが匿名で広告代理店をレビューできるコミュニティ『Freelance Circle』が作られ、クライアントとフリーランス、双方に取ってメリットのある環境を作ることを理念としている。

企業から一方的に要求を押し付けられたり、過剰サービスを強いられることのない社会を作るためには、フリーランスからも企業をレビューしたり、仕事の進め方についてフィードバックをする機会が必要だろう。

フリーランスの増加にブランド慣行や法令が追いついていないという実情もあるが、いずれにしてもフリーランスをエンパワーメントするようなプラットフォームやネットワークが着実に構築されているのは確かだ。

この流れが加速すれば、フリーランスだけでなく副業・複業に取り組む会社員にとっても追い風になる。やりたい仕事をすることで人生の満足度を高めることや、一つの職に限らずにスキルアップをすることができるだろう。

個人にとっては、「どこで働けば自分はもっとパフォーマンスが上がるのか」「どんな仕事をしていたら幸せなのか」、自分自身について深く考える機会が増えることでもある。また、自分の仕事が本当に価値を提供しているのか、常に自問自答し学ぶことも重要だ。

ますます存在感を増すフリーランスは、無視できない規模に成長している。個人と企業、双方メリットのある環境を作ることに、お互いが意識を向けていくことが大切ではないだろうか。

文:佐藤まり子
編集:岡徳之(Livit