INDEX
リーダーとは何か。これまでも語られてきたこのテーマは、未来がこれまで以上に予測不能となったVUCA時代において、重要度が高まり、誰もが新しいリーダーシップの形を求めている。その新たな時代のリーダーシップに挑むリーダーの一人がいる。2022年4月に横浜銀行の頭取に就任した片岡達也氏だ。
片岡氏はチームの成長のため、常に新たな知見を求め、インプットを欠かそうとはしない。その片岡氏が地銀の変革を目指し、真のリーダー像を探る一手として、異色の“先輩経営者”に対談をオファー。その意外な対談相手とは、実業家でもあり現代ホスト界の帝王である、ROLAND氏だ。その果敢な挑戦心と圧倒的な統率力に片岡氏が感銘を受けたことをきっかけに、今回の対談が実現。経営、マネジメント、事業創出をどう捉えているのか、二人のトップランナーが語り合う。
リーダーの使命、それは組織の向かう先を示すこと
2020年に創立100周年を迎えた横浜銀行。国内最大のマーケットである神奈川・東京エリアを地盤に、強固な顧客基盤を築いてきたトップクラスの地方銀行だ。しかし、片岡氏は現状に甘んじることなく“変革”を強調する。背景には、銀行が果たすべき役割の変化があるようだ。
片岡氏「預金と融資を基軸とした従来型の銀行業務は、時代のニーズに応えきれません。ネット銀行などの台頭により、「銀行の在り方」が変わってきています。スマホで誰もが簡単に資産を管理できるようになった一方で、高齢化やコロナ禍、物価高などによっても、事業者・生活者は大きな変化を強いられています。多様化するニーズに対応するためには、固定概念に囚われない柔軟な発想、新たな価値創造が必要なんです」
横浜銀行が掲げるのは、顧客・地域社会に深く寄り添い課題解決をしていく「ソリューション・カンパニー」への転換である。
片岡氏「お客さま一人ひとりに寄り添える地方銀行の強みを活かし、行員自らがソリューションを提案していく。証券、リース、シンクタンクを含むグループの総合力で、伝統的な貸出業務にとどまらず、事業承継やM&A、相続対策など専門領域も手掛けていく。それぞれのニーズに沿ったオーダーメイド型のサービスが、地域社会では求められていると考えています。こうした大きな方向性を示すことは、リーダーの重要な使命です」
ROLAND氏「地方銀行であっても僕のやっている接客業であっても、『お客さま』 という点では、リンクするところがあると言っても良いのかもしれませんね。良好な関係を顧客と築けなければ顧客の本当のニーズも見えてこない。高度なコミュニケーションスキルが求められるところですね」
顧客に寄り添うことの価値を最大化させ、成功を手にした経営者がROLAND氏だ。時代変化を捉えた経営判断という点においても、ROLAND氏は社会に一石を投じている。多方面でニュースにもなった、コロナ禍における歌舞伎町のホストクラブ「THE CLUB」の閉店だ。
ROLAND氏「不安を抱えるスタッフも、ガンガン働きたいスタッフもいました。最終的にはコロナウイルスについての情報が不透明な中で、社員の安全を優先した結果だったんですが、継続と閉店、どちらを選んでも正解だったはずです。スタッフの意見は十分にヒアリングした上で、決断を下すのは自分。経営者にとって本当に重要なのは、正解そのものではなく、“みんなを同じ方向に向かせる”ことなんですよね」
経営判断には、責任を負う覚悟も必要になる。決断の際、ROLAND氏が意識していることとはなんなのだろうか?
ROLAND氏「災害や疫病、不況など、何が起こるか予測できない中で、周囲の意見を聞き過ぎてしまうと、方向性を定めること自体が難しくなっていく。僕の場合は、『8割の民主主義と2割の独裁』というバランスをとっています。そのバランスは難しいし、オーナー社長だからこそできることです。独裁という言葉はかなり強く受け取られるかもしれませんが、ある程度の傲慢さやエゴイズムを貫いてでも、勇気と責任を負う覚悟を持って決断する。この決定の判断基準は変化の激しい時代には求められるんじゃないかと思っています」
「組織が進むべき方向を明確にする」。変化の渦中におけるリーダーシップを、同じ言葉で表す2人。両者は経営という概念にどのように向き合っているのだろうか。
経営者が見出すべき、無形なものの価値
片岡氏「横浜銀行には約4,000人の社員がいます。本来であれば一人ひとりに話をして私の考えを伝えていきたいところですが、大きな組織では面と向かって、私の意志を伝えることはできません。だからこそ、会社全体の方向性を示すことが重要で、この会社がどこに向かうのか、向かう中でどういう成長ができるのか、夢を実現させていくことができるのかを示すことが大切だと思います。しかし、経営の舵取りでは難しい判断を迫られることが多々あります。その際、『4,000人の社員を、5年後、10年後も守ることができるか』ということも大きな指標の一つにしていますね」
ROLAND氏「“顧客ファースト”か“社員ファースト”か。この究極の2択には、常に迷わされますね。接客業に従事している僕には、顧客ファーストを当然とする思い込みがありますけど、片岡さんがおっしゃられるようにスタッフを大切にしたい気持ちも強く持っています」
片岡氏「もちろん、お客さまをはじめステークホルダーは大事です。しかし社員がいて、初めてお客さまにソリューションを提供でき、お客さまから感謝を生む、それが社員のモチベーションにつながるという好循環サイクルが理想ですね。お客さまに寄り添い、社会に貢献していくためにも、社員を大切にするマインドは不可欠だと思います
以前、若手社員に『最近仕事は順調?』と聞いてみたところ、『忙しくて大変、勉強もしなくてはいけないし仕事は増えるし…』といった言葉が返ってきました。『でも転職しないのはどうして?』と尋ねてみると、『大変だけど、お客さまに感謝されることが、一番のモチベーションになっている』と答えてくれたんです。形のない商材を扱う銀行は、お金だけではない、目に見えない価値や社員のやりがいにも目を向けなければならない。その重要性を感じた経験でしたね」
ROLAND氏「お金、モチベーション、サービス品質は、一つひとつが大切なんですよね。僕のホストクラブでは、『まずはスタッフ全員の平均月収を100万円にしよう』をひとつの目標にしています。なぜかというと、お金を持つことができれば、選択肢が増えるのでそこで余裕が生まれ、接客の質も上がると思っているからです。その結果、よりお客さまを幸せにすることができるんですよね。自分よがりな理念だとは思いますけど、片岡さんのお話しを聞いてあながち間違っていないんじゃないかと感じることができました」
片岡氏「根本にあるのは、我々はお客さまのために全力を尽くし、満足していただくサービス業だということですね。スタッフのモチベーションは、どのように維持しているのでしょうか」
ROLAND氏「モチベーションコントロールは永遠のテーマですよね。僕は美容会社の経営もしているんですが、ある時、お客さまに提供するおしぼりの温度を1℃上げることを提案してきたスタッフがいました。正直、その点についてはどちらでも良いレベルの改善点だったのですが、頑張っているスタッフだったので、試しにグループ全社で採用してみたところ、彼のモチベーションが爆上がりしたんですよ。これって『自分を見ていてくれている、意見を聞いてくれる』っていう自己肯定感がいかに重要かを感じ取れる大事な経験だったんですよね。それ以来、店舗を視察するときはスタッフをちゃんと名前で呼んだり、誕生日が近ければお祝いをしたり、“個”を意識するようになりました。自己肯定感は、給料の何倍もモチベーションを高める要因になるという気づきでしたね」
片岡氏「社員には一人ひとり家族や友人がいて、それぞれの人生がある。自分の人生で主役になるために、経営者や管理職はそのポジションで主役にしてあげられるような“舞台”を用意すべきなんだと思います。それはエースを育てるということではなく、その部下の存在価値を明確にすること、これはリーダーに必須の資質だと思っています」
現場マネジメントで必要になる、“減点方式”を受け入れる姿勢
リーダーといってもその形態は様々だ。これまで語られてきた経営層だけではなく、現場レベルでのプロジェクトやチームを管理するリーダーもいる。ではそういったリーダーには、どのような心構えが必要になるのだろうか。
ROLAND氏「プロジェクトでリーダーを任せると、不満や離職につながるケースが一定数あるんですよ。なぜかと思ってスタッフに話を聞いてみると、リーダーになると“評価方式が変わる“ことを理解していない人が多い。部下であるうちは、加点方式で評価されます。ミスをしても持ち点が減るわけじゃなく、成果を上げると褒められる。90点をとれれば上出来なわけです。一方で上司は、減点方式。『リーダーだから当然できる』と認識されて、持ち点100から始まって、そこから点数は増えない。むしろミスをすれば、『リーダーなのにできなかった』と、どんどん評価が下がります。その違いに気づかず上に立つと、『なぜこんなに頑張っているのに……』と、士気が低下してしまうんです」
片岡氏「今の世の中全般に言えることですが課長クラスや現場マネージャーは、『やって当然』と思われ、褒めてくれる人間も感謝してくれる人間も少ないのかもしれません。減点方式は大変そうだと、リーダーを志さない社員も増えている気がします」
ROLAND氏「もちろん、評価されている側にいた方が気楽で安全ですよ。しかし普段は辛くても、何かを成し遂げた時の喜びは、部下でいるよりもリーダーでいた方が圧倒的に味わえる。僕の場合はこのリーダーであることの喜びを実感してほしいので、『騙されたと思ってやってほしい。絶対に楽しいぜ』と伝えるんです。そこに喜びを見出せず、減点方式を割り切れないタイプの人は、リーダーには向いていない。良い悪いではなく、自分の適性を見極めることも大切なことですよね」
片岡氏「私が入行した時代はリーダーを目指すことが当然でした。しかし最近は、マネージャーになりたい人間と、プレイヤーでありつづけたい人間の、両方がいます。おっしゃる通りそれを『個性』として捉え、適材適所を与える姿勢もトップには必要ですね」
ROLAND氏「僕の会社でも、リーダーを志すのは2割程度だと思います。僕自身も、最初は褒められて伸びるタイプだったので、部下だった時代はリーダーの喜びに気づきませんでした。立場が変わらないとわからない部分は必ずあるので、まずは挑戦することが大事だし、そのマインドを持ってほしいですね」
片岡頭取が訊く、ROLANDの変革マインド
対談後半では、両者が互いにリーダーにまつわる赤裸々な質問を投げかけた。片岡氏はROLAND氏に対し、「常識を破る力」を問いかける。
片岡氏「ROLANDさんの書籍や番組、YouTubeを見ていて感銘を受けたのが、常識を突き破るマインドです。金融業界はどこか保守的な文化が残っていて、新しいことをやろうとしても二の足を踏んでしまいます。それでも変革は求められる。ROLANDさんもそういった状況はあるかと思うのですが、周囲の常識を打ち破るアイデアはどこから生じるのでしょうか」
ROLAND氏「競合他社のことを考えないことですかね。『Betterをつくりたければ競合を調べる。Bestをつくりたかったら周りを見ない』が、僕の持論です。例えば絵を描くとして、素敵な作品を見た上で、それを超えるものを作りたい場合はBetter。でも、そこから新しい価値観やオリジナリティーを出すのは難しい。周りを見過ぎるとアイデアが似通ってきて、Bestなクリエイティブになれないんです」
片岡氏「なるほど。私の場合、A・B・C案を比較し、リスクなどを検討しながら消去法で考える場合が多いです。突き抜けたオリジナリティを発揮するならば、ROLANDさんのような発想も見習うべきだと感じますね。アイデアを実行に移し、周囲を巻き込んでいくためには、どのようなことを心掛けていますか」
ROLAND氏「組織を動かすためには、日頃から『この人が言うならついていこう』と思ってもらうことが大切だと思っていますね。例えば社長に何かを提案して、『やってみよう』と言ってくれたのに、数日後に何も変わっていなければ、『忙しくて忘れているんだろうな』と信頼が失われる。有言実行の習慣があるからこそ、『成功するかわからないけど、やってみようぜ』と言った時、『社長のわがままだったら付き合ってやろう』とみんなが感じてくれる。そんな組織でありつづけることが重要なんだと思います。もちろん成功しないケースもあるんですけど…(笑)」
片岡氏「私も失敗はします(笑)。ただ、その際には自ら潔く認め、軌道修正していきます。判断を変える決断もトップにしかできない役割だからです。その勇気もトップには必要だと思いますね。ROLANDさんはその点、いかがでしょうか」
ROLAND氏「『選んだ道は確実に正しかった』という姿勢を貫くことですかね。数年後に本当に間違っていたら、深々と謝罪すべきだと思うんですけど、決断を下した直後って『あれ、あっちの方が良かったかも……』と迷いが生じるじゃないですか。それが顔に出ると、意見がブレる人だと思われて、スタッフの信頼を失うと思うんです。だから絶対顔には出しません(笑)」
“裸の王様”にならないための、大型組織のコミュニケーション術
一方のROLAND氏は、4,000人を束ねる片岡氏に対し、大きな組織のリーダーシップにおける質問を投げかけた。
ROLAND氏「現在僕が抱える社員は300人程ですが、今後はより大きな組織に拡大していきたいと思っています。ただ、組織が大きくなるほど自分が意思疎通できる範囲は限られてきますよね。片岡さんは、どこまで自分の意志を正しく共有できていると思っていますか?」
片岡氏「役員や部長などとは日々頻繁にコミュニケーションをとっていて、これはマストです。そして彼らが現場へと意志を浸透させてくれるわけですが、必ずしも正しく伝わっているかはわかりません。なので私は、直接現場と接するボトムアップ型の対話も重視するんです。支店へ顔を出し直接新入社員と雑談するのもそのためで、私の意志が伝わっていない場合は、コミュニケーションをゼロからやり直します」
ROLAND氏「組織が大きくなればなるほど伝言ゲームになって、自分の言葉が隅々まで正しく伝わっているかが不安になりますよね」
片岡氏「ほとんど変わっていると考えた方がよいかもしれませんね(笑)。でも諦めてはいけません。組織を間違った方向に導かないためには、緻密な対話が必要なんです」
ROLAND氏「大きな組織では個人のすべてを見られるわけじゃないので、人材への評価基準も難しいじゃないですか。どうやって能力を見極めて昇格などに反映してるんですか?」
片岡氏「人材の持つ能力にはさまざまなものがあり、主観だけで正確に判断することはできません。組織が大きくなるほど、人材に対する評価を多面的にすべきだと考えています。当行でも360度評価を取り入れており、複数の人間が一人の社員を評価しています。実は私自身も匿名の360度評価を受けており、客観的な視点と向き合うようにしました。例えば『周囲の意見を受け入れすぎ』という意見もあれば『頑固すぎる』など、さまざまな意見が集まるのですが、裸の王様にならないために、ネガティブな意見ほど重視して自分のノートに貼っているんですよ」
ROLAND氏「頭取も評価を受けてるんですか!?これはちょっと驚きでした…。確かに、周囲から言われなければ気づかないことって本当に多いんですよね。匿名で率直な意見を集めるという手法も、とてもおもしろいですし、トップに立つ者として、自分の欠点は怖くても受け入れていくことが重要なんだとすごく勉強になりました」
片岡氏「組織が大きくなればなるほど、誰も何も私に意見しなくなるんです。なので自分から社員と同じフィールドにおりて若手からも意見を聞き、そして良い意見や考え方を取り入れていく。そういう姿勢はトップには重要ですね。」
自分自身を超えていく。次世代の育成を目指して
対談では最後に、それぞれが目指すリーダー像を聞いた。ROLAND氏は次世代の育成を視野に入れているようだ。
ROLAND氏「自分にとっての課題は、良くも悪くもインフルエンス力を利用して会社を築いてきたことですね。僕のカラーが強くなりすぎて、世間から『ROLANDの会社』だと認識されてるんですよ。僕への憧れや崇拝から入社してくれた人間も多いので、トップを越えようとする反骨精神が育たないんですよね。だからといって自分が身を引くことを考えてるわけではなく、『自分がやった方がうまくいきます』『ROLANDを超えていきます』と言ってくれるような二番手をどうやって増やしていけるか。組織を強くするための次のステージをつくれるリーダーになっていきたいですね」
片岡氏もまた、人材育成に力を入れていくビジョンを示した。
片岡氏「就任からの1年は、自分が会社を背負う責任感を重視してきました。しかし、私一人が背負っていても、組織は成長しません。社員一人ひとりが、会社を背負うということをどれだけ自分事にできるかが、当行の成長や魅力にもつながると思います。特に私たちの場合は、ROLANDさんの会社のように、トップに憧れて入行する人間はいません。だからこそ、一人ひとりが主役として成長し、失敗を恐れずにチャレンジできる環境を気概をもってつくりたい。トップやマネージャーの役割は、そうした機会を創出し充実させることに尽きると思っています」
明確な経営哲学を備えながらも、どこか人間味を帯びた感情が見え隠れする片岡氏とROLAND氏。二人は決して完成されたリーダーではなく、さらなる高みを目指す一人のビジネスパーソンなのだろう。激変の時代に対応するために、自分自身をも変革していく。組織を未来へ導くリーダーには、そうした資質が必要なのかもしれない。
取材:相澤優太
撮影:小坂貴宏