INDEX
2014年から繰り返し訪れている「クリプト・ウィンター(暗号資産・冬の時代)」。直近では2021年11月に史上最高値をつけたのちに暴落したもので、2023年に突入しても明るい兆しはない。この冬の時代は2024年まで継続するという悲観的な観測が依然多くみられるのが現状。一方で、多額の投資資金がweb3に投じられていることが明らかになっている。
冬の時代で動向に変化
PitchBook(本社:アメリカシアトル、金融情報サービス企業)による最新レポートによると、昨今ベンチャーキャピタルの資金が、中央集権型サービスからweb3関連への投資へとシフト傾向にあることがわかっている。
冬の時代にもかかわらず増加している投資先であるweb3のコンテンツプラットフォーム。その収益は2022年に34億ドル(約46000億円)にとどまったとみられるものの、2027年には10倍以上の390億ドルになると同社は見込んでいる。中でも特に伸びしろが大きいとされ、投資家が注目しているのがweb3ゲームだ。
まだ続くと予測されるクリプトウィンター
エクスチェンジ、カストディアル・ウォレット、オンランプ、それに中央集権型のエクスチェンジやレンディングといったクリプトサービスから撤退傾向にあるベンチャーキャピタルの投資は、約85%もの大幅減だと同レポートは分析している。
2022年末のセルシウス・ネットワークの破綻やブロックファイの破産申請などが撤退の背景とされているが、実はこの傾向はこうした破綻劇よりも前から発生し、ベンチャーキャピタルの資産はすでに別方向へ動いていたのではないかとみられており、2023年はさらに投資が減少するとの予測もある。
これはクリプトネイティブにとどまらず「誰もが」クリプトに投資していた市場が、クリプトウィンターをきっかけにクリプトネイティブでない投資の退出を促すとみられているからだ。
注目のゲーム界
では、数年後の世界を見据える投資家たちが見ているのはどのような風景なのか。そのカギとなるのがweb3ゲームだ。
投資家が今注目しているweb3ゲームないしブロックチェーンゲームは、2022年8月にクリプト界が冷え込む中でゲームの新開発に7億4800万ドル(約982億円)を集めたとするレポートがある。実に約1兆円の投資が集まるという異例の状況と言える。
盛り上がりを見せているweb3ゲームはしかしながら、開発側にとっても利用者にとってもまだ黎明期にあることも事実だ。Coda Labsが世界の約7000人を対象に2022年6月に実施した調査によるとゲーマーの半数以上にあたる52%がweb3ゲームについて「知らない」と回答し、実際にゲームをしたことがあるゲーマーはわずか12%。ゲームをしたことがないもののこの先web3ゲームに興味があるとしたゲーマーは15%にとどまった。
異なる報酬方法
ちなみにweb3ゲームには、それぞれの方法でブロックチェーンのテクノロジーを使用した次のようなカテゴリーがある。
最もポピュラーなものは、プレイしてトークンを稼ぐ「Play-to-earn」。GameFiとしても知られ、仮想通貨やNFTをゲームの報酬として受け取るもので、初回にゲームの通貨購入が必要だ。
代表的なものにバーチャルでNFTとしてのペットを購入してプレイ、ゲーム内でトークンを稼ぐAxie Infinityや、馬主として馬を保有、売買、育成や競馬に出場させて楽しむオンラインゲームZed Runなどが挙げられる。
Axie Infinityはピーク時のアクティブユーザー数が270万人超に達したが、資金流出問題やゲーム報酬の変更などによって、100万人を割るまでに急減。その後、新ゲームの登場や動向を「様子見」するユーザーが利用を控えるなどしたため現在は10万以下と低迷中だ。
「Move-to-earn」はPlay-to-earnの派生で、リアルワールドを動き回ることによってトークンを稼ぐスタイル。代表格として知られるのがSTEPN(ステップン)で、プレイの開始にはNFTスニーカーを購入ないし、レンタルする必要がある。
もはや説明不要な「メタバース」も、web3ゲームの1ジャンルだ。ユーザー主導のゲームプラットフォーム「ザ・サンドボックス」がその代表で、土地の売買やゲーム作成がゲーム感覚でできて、なおかつ報酬が得られる。
昔ながらの「ファンタジー・スポーツ」もまたweb3ゲームのジャンルとなっている。サッカーでプレイするSorareでは実在の選手のパフォーマンスがポイントに直結し、HelleboreではNFTを購入して実在のプロリーグの試合成績の予測をする。
上記のようなカテゴリーのほか、現在Web2.0で展開しているゲームがNFTを使用し始めているケースもある。
2022年夏に話題となった、ファイナルファンタジーのNFTコレクターズアイテム販売などもこのケースだ。前述Helleboreの最高執行責任者は、ゲーマーにその価値を説明するのに最もわかりやすいのがこの「デジタルコレクターズアイテム」だとしている。
手数料の見直しと大手の参入
さて、ゲーム業界の収益は、音楽と映画を足したものよりも多いという発表もあり、今後の成長に疑いの余地はない。ただ、現在のビジネスモデルではアプリ開発者が約30%を手数料として、AppleやGoogle、Steamなどのプラットフォーム側へと支払わなければならない状況(現在順次更新中)だ。総計で数兆円ともいえるこうした手数料についても、改めて注目が集まり改善を求める声が上がっている。
このように投資家とweb3から大いに注目を集めているゲーム分野。2022年6月の時点でブロックチェーンのゲーム数は1,550に上り、2022年第1四半期だけでも25億ドルを超える資金がweb3ゲームのプロジェクトに投じられている。また4月には、ソニーがフォートナイトで知られるエピックゲームズに10億ドルの投資をし、メタバースへの参入をうかがわせた。ゲーム人口は世界で今や32億人を超える規模だ。
初期段階に付き物の「問題」ももちろんある。ハッキングや搾取によるトークン価値の下落もその一つ。前述「Play-to-earn」のAxie Infinityは2022年第1四半期にハッキングされ、トークンの価値が下がったために40%ものユーザーベースを失った。
また、既存ゲーマーの仮想通貨に対する拒否反応も、ネックになっている。Coda Labsの調査でも、仮想通貨とNFTに対する感情は10ポイント中それぞれ4.5と4.3というネガティブなスコアが出ていることからも明確だ。
しかしながらこうした課題は、時とともにプラットフォームが安定し、安全が確保され、仮想通貨に抵抗のない世代がweb3ゲームの世界に参入するとともに大きく変化することも期待されているのも事実だ。
新しい形態で新規顧客を見込む
さらには、「Move-to-earn」のような、リアルな世界での動きによってトークンが稼げるゲーム形態が、フィットネスに意識の高い人たちの参加を増長させている。
STEPN(ステップン)では、マンスリーユーザー数が2022年8月の時点で300万人を超え、約70万のシューズが活動している計算になる。
さらに同社はスペインのプロサッカーチーム、アトレティコ・マドリードと仮想通貨プラットフォームのWhaleFinと契約を結び、今後共同で1001足のシューズを展開する予定。このシューズは、選手のサイン入りグッズや試合のチケットなどが当たるチャンスを付加価値として提供する可能性があり、シューズはコレクターズアイテムでありながらMove-to-earnでトークン獲得ができるため、サッカーファン層を新たに取り込む狙いがある。
同様にしてMove-to-earn型のゲームには、ポケモンGoに似た形式でARを利用したデジタルペット育成ゲームのGenopets(ジェノペッツ)がある。NFTのデジタルペットを育成、強化して遊ぶゲームで、リアルワールドで動くことによってペットが経験値を増やしていく。ゲーム内では他にハビタットやクリスタルといったNFTを構築し、賃貸価格を設定することも可能になるとされている。
このほかにも開発中、準備段階のゲームが続々と登場しており、web3ゲームの中でもMove-to-earnへの注目度は他のジャンルと比較しても高めだ。ウォーキング愛好者から、オリンピックのアスリートまで幅広い層に利用してもらえるのも特徴。これまで、クリプト愛好家とNFTトレーダーだけに関連のあったweb3は、このようにして新しい層を捕えはじめているため、成長幅が特に大きいとみられている。
明るい展望
クリプトウィンターと言われる中でも、web3ゲームへの投資は楽観的な予測が多い。システム上の課題を解決しつつ、市場規模が拡大するなど今後の広がりに期待がますます高まっている。今後web3ゲームから「キラー・アプリ」が誕生すると、試合の流れは大きく変わって来るに違いない。
Move-to-earnを好例に利用人口が増え人々の興味が高まれば、資金が集まり開発も加速する。ゲーム業界からもクリプトネイティブ層が新たにゲーム業界へと流入するチャンスと見ており、今後ウィンウィンの関係で成長を期待している。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)