マスターカードがweb3音楽プログラムを開始

web3領域において、大手企業による取り組みが増えつつある。主に金融、ゲーム、サプライチェーン、ヘルスケアなどでの投資が活発だが、音楽も例外ではない。

2023年1月6日には、マスターカードがデジタルエコノミーで、音楽アーティストとファンの繋がりを強化するweb3プログラム「Mastercard Artist Accelerator」を今春から開始することを発表した

このプログラムは、楽曲リリースやファンの獲得、NFTの発行などでアーティストのweb3ツール利用を支援し、デジタルエコノミーでの活躍を後押しするもの。web3分野の主要企業の1つであるPolygonと提携する。

web3音楽分野では、音楽をアップロードしたアーティストにクリプトトークンを発行する機能などを持つ音楽web3プラットフォームが多数登場しており、今後Spotifyなどの大手プラットフォームに取って代わるものも出てくるのではないかと、その動向に注目が集まっている。

2022年には、web3音楽の試金石となる試みが多数実施されており、2023年は、こうした知見・経験を踏まえ、音楽におけるweb3関連の動きはさらに加速してくるものと思われる。

web3が音楽業界の課題を解決

音楽業界ではweb3やブロックチェーンに対してどのようなことが期待されているのか。

1つは、分散化された音楽著作権管理システムによる、ライセンス管理の簡素化とアーティスト収益の向上が挙げられる。

ブロックチェーンによって音楽著作権やライセンスを管理するシステムを使えば、管理の透明性と正確性を高めることによって、無駄な仲介を排除、複雑な管理・運営にかかる費用をなくし、アーティストの収益を高めることが期待されている。

アーティストの収益性が低いことは、現在音楽業界の課題の1つと認識されており、改善が急務となっている。

たとえば、アーティストが音楽を配信する手段で最も多いのがストリーミングだが、ストリーミングによる収益は非常に少なく、ストリーミング1再生あたりに支払われる額は、0.003〜0.01ドルといわれている。0.003ドルの場合、1カ月の生活費を3000ドルした場合、100万回の再生が必要となり、ほとんどのアーティストはストリーミングだけで生計を立てることが非常に難しい状況となっているのだ。

アーティストの収益という観点では、ブロックチェーンを活用したトークンエコノミーも課題の解決策の1つとして注目されている。

ブロックチェーンベースのNFTやトークンをつくり、ファンが購入・投資できる仕組みをつくることで、アーティストの収益が高まるだけでなく、NFT保有者への先行販売や独占販売などを通じて、アーティストとファンのつながりを強めることが可能となる。

現在、AudiosやSound.xyzなどさまざまなweb3音楽プラットフォームが登場しており、こうしたプラットフォームを通して、上記のようなことが可能だ。一方、プラットフォームの認知が低いことや利用者が少ないのが現状であり、今後どのように認知を高め、利用者を増やすのかがweb3音楽プラットフォームの大きな課題となっている。

このほか、ブロックチェーン技術を活用することで、音楽利用にかかるロイヤリティのトラッキング精度を高め、公正な形でアーティストがロイヤリティ収益を得られるようになることや分散化システムによる音楽検索によって、新しい形のキュレーションやレコメンドが登場することなどが期待される。

著名アーティストらによるweb3の取り組み

2022年には一部の著名音楽アーティストらによって、web3の利点を見極める試みが実施されており、2023年はこれらの経験・知見をもとにした新たな取り組みが増えるものと思われる。

注目された1つは、米国の著名ヒップホップアーティスト、ナズ(Nas)とweb3音楽プラットフォームRoyalによるNFT発行の取り組みだ。

Royalは、ブロックチェーンを活用し、音楽の所有権/ロイヤリティを分割しNFTとして販売できるプラットフォーム。ファンはお気に入りのアーティストが発行するNFTを購入することで、楽曲から発生する収益の一部を得られる仕組みだ。アーティストはストリーミング以外に、NFT販売による収益源を得られるようになる。

このRoyalで2022年1月、同プラットフォーム初となるナズによるNFT販売が実施された。NFTは1870個から成るコレクションで、合計販売額は56万ドルを超えたという。

Hypermoonによると、2022年11月時点で同プラットフォームにおけるNFT購入者に対する収益配当は、計10万ドルを超えたとのこと。

このほかにも、著名ヒップホップアーティストのスヌープ・ドッグが楽曲をNFTとして販売したり、人気DJディロン・フランシスが音楽イベントでのパフォーマンスの対価としてNFTを受け取る契約を結ぶなど、音楽業界で影響力を持つアーティストがNFT関連の取り組みを行っている。

音楽大手ワーナー・ミュージックがweb3音楽プラットフォームに参入

著名アーティストによるweb3の取り組みが増える一方で、一般消費者の間では、web3音楽プラットフォームの存在や認知が浸透していないのが現状だ。

これに関しては、世界3大レーベルの1つといわれるワーナー・ミュージック・グループ(WMG)によるweb3プラットフォームの立ち上げで、これまでweb3音楽プラットフォームを知らなかった層の取り込みも幾分進むことが見込まれる。

2022年12月、WMGがブロックチェーン企業Polygonと提携し、web3音楽プラットフォーム「LGND Music」を開設する計画が報じられたのだ。LGNDは、楽曲などの音楽関連のNFTを売買するためのweb3プラットフォームで、2023年中に開設される見込みとなっている。

デビッド・ゲッタやティエストなど世界的に知られるアーティストが所属するWMG傘下のダンスミュージックレーベルSpinnin’ Recordsとの連携も取り沙汰されており、一般層へのリーチも深まり、web3音楽プラットフォームの認知が一気に広がる可能性が見えている。

web3音楽プラットフォームは、すでにAudius、Gala Music、Opulous、Rhythm、Sound.xyzなど多数の競合がひしめき合う状態。LGND Musicはこの中でどう差別化していくのか、また市場全体としてどこまで一般消費者にリーチできるのか、今後の動きからも目が離せない。

文:細谷元(Livit