今年11月に仮想通貨の大手FTXが経営破綻し、価格が暴落している。創設者で、仮想通貨業界の重要人物とされたサム・バンクマン・フリード氏がアメリカで逮捕されるなど、大手の破綻劇の波紋は広がり続けている。日本の法人FTXジャパンは関東財務局から業務停止処分を受け、出金ができない状況であったが、売却することが発表された。

冬の時代と言われても人気の暗号資産

暗号通貨市場の低迷はこれからも続くと見られている中、Longitude ResearchMatrixportが2022年5月~6月にかけて実施した調査で、シンガポールや香港の富裕層の間では暗号通貨投資への関心が高まっていることが判明している。

この調査は、シンガポール、香港、台湾、オーストラリア、イギリスで資産63億3000万ドル(約8650億円)以上の投資家を対象に実施されたもの。これによると、2022年5月に実ステーブルコインのTerraUSDとLunaが暴落して以降も、富裕層はデジタル資産に最も興味を持っている投資グループであることが分かった。

調査対象者1,500人のうち60%が50万ドルから500万ドルの運用可能資産を保持する大衆富裕層、26%が少なくとも500万ドルの運用可能資産を保有する超富裕層、残りがシングルまたはマルチのファミリーオフィス(大富裕家族が家族のためだけに雇う、資産や法律の手続きを行うチーム)という構成。

仮想通貨の冬の時代と称される中、全体の53%がポートフォリオの75%から100%をデジタル資産に投資すると回答している。それも、前述TerraとLunaの暴落後というタイミングでの調査実施にもかかわらず、暗号資産に「強く」興味をもつとする回答が2.2倍に上昇しているのだ。

デジタル資産への移行

シンガポールでは、超富裕層とファミリーオフィスがデジタル資産に手を出すことに、中程度から高度な興味を示している一方、大衆富裕層の興味は大幅に増幅。仮想通貨冬の時代と言われる中で、大衆富裕層のデジタル資産への興味は6.67倍に膨れ上がっていると調査は発表している。

なお、シンガポールの投資家は他の地域の回答者と比べて、アルトコインや新興仮想通貨の保持を好むことも分かっており、こうした通貨の約半数がシンガポールに集中しているとも言われている。

香港でも暗号通貨投資への関心度が上昇した。投資への関心度は、前回調査と比べ「高い」が27%から34%に上昇、「非常に高い」は29%から33%に上昇した。

暗号資産に積極的なのは、遺産継承による富ではなく自ら富を築き上げた比較的若い層、起業家に多いこともこの調査で裏付けられた。

今や世界の富裕層コミュニティは、84%が遺産相続ではなく自力で成功した富豪であり、こうした層がよりリスクが高く値動きの荒い暗号資産のような資産への投資にオープンな傾向は、今後も続くとされている。

台頭する若年富豪と従来型金融機関

特に18歳から25歳の投資家が暗号資産に傾倒するのは、従来型の資産への幻滅が背景にあるとされている。

26歳以上からのどの年齢層も、「従来型の金融機関による暗号資産への参入」が暗号投資への投資意欲を高める、と回答する割合が高い一方、18歳から25歳の層だけが「投資意欲を高める」と「投資意欲が下がる」と答えた割合が同等であったことも興味深い結果としている。

従来型の資産へ幻滅している層が、従来型の金融機関による参入をデメリットととらえていることが判明。この層がハイリスクの投資を恐れておらず、規制の整備されていない暗号資産をかえって価値あるものとして理解しているのだ。

暗号資産に関しては、「よく分からないまま投資している」と回答した65歳以上の層がわずか10%にとどまった一方、この若年層では64%がそうだと回答。さらに58%が「この12カ月間の規制の変更に伴い、暗号資産市場へのアクセスが難しくなった」と回答している。

調査ではこの層が、従来型金融に失望していることが暗号資産へのモチベーションであると共に、莫大な利益の可能性に惹かれているとしている。彼らの投資が暗号資産の中でも、もっとも投機的なNFTとアルトコインに集中しているからだ。

ただし、リスクに関しての意識も高まっている。

ある投資家は「最大の難題は、投資先が多すぎることとそのうちどれが詐欺であるか、分からないこと」と語り、「新しいコインや新しいテクノロジーよりも、膨大な利益に興味がある」と答えた。下調べせずとも、ギャンブルのような投資は着手しやすく、時に莫大な利益をもたらす魅力があると捉えているからだ。

また、投資家の情報入手先にも変化が起きている。デジタルチャネルからの情報収集が圧倒的に多く、もともとはゲーマーのために開発されたコミュニケーションツール「Discord」を使用している人が多いのも興味深い。暗号資産投資に関する活発な意見交換がされ、情報があふれているそうだ。

調査ではこの若年層の35%が「個人のネットワークを通じた推薦」に基づいて投資のモチベーションが上がると回答し、口コミ、ソーシャルネットワークへの傾倒が顕著だ。

一方で、全体的な回答を見ると「従来型の金融機関が暗号資産関連のサービスを提供」するなら、暗号資産への投資をする可能性が高まるとした回答が53%あり、暗号資産にまだ着手していない人にその傾向が高いことも判明している。

これは個人投資家と比較して、特に富裕層がデジタル通貨交換所を通じた取引に懐疑的であることも原因とされる。

資産管理に利用している銀行が、暗号資産に参入していないということは「信用できないもの」と受け止めている様子。実際に、手数料がかかっても銀行やウェルスマネージャーを介した取引を好む傾向はまだ強い。

なお、富裕層を対象にした今調査で、18歳から25歳の層が圧倒的に多かったのはシンガポールと香港だった。両国での暗号資産への投資人気は、株式に次いで第2位というのも、この層の厚さが影響しているだろう。シンガポール金融管理局は、暗号資産における規制強化をしているにもかかわらず、人気は衰えていない。

事情通のマチュアな投資家は少なくとも投資資産の4分の1をデジタル資産にしており、試験的に投資をしているビギナーは最大4分の1、という結果もある。前述のとおり、このうち3人に1人は「何に投資しているか完全に理解していない」。

明るい見通しが多い理由

暗号資産の暴落は市場に衝撃をもたらしたものの、今後は規制の強化とテクノロジーの成熟によって安定化するとする向きも多い。同時にこれは、短期に莫大な利益が手に入る時代も終わるという意味でもある。しかしながら、暗号資産に積極的な18歳から25歳の若年層の投資が、投資市場を形成する時代が間もなくやって来る。

調査では、この層の53%が今後3年以内にポートフォリオの実に75%から100%を暗号資産投資にすると回答しており、半数近くが「未来の資産のほとんどがデジタル化する」と回答しているのも、今後の投資市場の全体像を大きく左右することだろう。

暴落し、不信感が付きまとう暗号資産だが、若年富裕層、つまりこれからの市場を形成していく層にはまだ魅力にあふれる投資先に変わりないことが判明した調査結果。長期的に見て今後、安定化や規制強化によって今の時代を「転換期」だったと振り返る日もそう遠くないと分析されている。

また、この先このアセットクラスがまちがいなく「繫栄する」とほとんどの専門家が分析しているのは、将来の市場をけん引するこうした層による動きが背景のようだ。予想通りとなるかどうか、こちらも投機(ギャンブル)的要素が強そうだ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit