西洋では古くから伝わることわざ――「Time is money」。このフレーズは、果たして真なのか。

労働によって、時間はお金に換えることができる。しかし、どれほど金銭を積んでも、失われた時間は取り戻すことはできない。

「480時間」。

これは、本国の一般的な会社員が、1年間に費やしている通勤時間の長さだ(※1)。1年のうちの“20日”にもあたる時間を、私たちは満員電車の中で、ただただ無心に捨てている可能性がある。これは、個人にとっても、そして社会全体にとっても、大きな経済的損失と言えるのではないだろうか。

無為な時間の喪失に歯止めをかけ、社員が健やかに働きやすい職場環境をつくるため、近年になって各社が取り入れ始めているのが「職住近接」の取り組みだ。

「どこで働くか」を重視するカヤック、職住近接と地域創生にアプローチ

2017年4月、企業における「職住近接」の取り組みに、新たな風が吹き込まれた。“つくる人を増やす”を経営理念に掲げているクリエイター集団・株式会社カヤックは、R不動産株式会社との不動産仲介サイト「稲村ヶ崎R不動産」の事業運営をしている稲村ガ崎三丁目不動産株式会社の株式取得、および第三者割当増資を引受け、子会社化することを決定した。

本社を鎌倉に置くカヤックでは、地域に根差し、コミュニティに貢献しながら、その街とともに成長することを目指して、これまでもさまざまな活動を展開していた。「どの企業で働くか」より、「どこにある企業で働くか」を重視し、職住接近のスタイルを推奨するため、鎌倉に新開発拠点の建設も進めている。

 https://www.kayac.com/vision/kamakura

カヤックは今後、稲村ヶ崎R不動産のリソースを活かして不動産紹介などを行い、自社の社員の住環境の充実にもつなげることで、企業価値向上や地域連携のさらなる充実を目指す方針だ。今回の子会社化は、カヤックの「職住近接」や「地域貢献」の動きを、さらに推し進める一手となる。

「職住近接」は、単純な労働の最適化を図るだけではなく、企業と地域の関係性を見直す機会として、今後さらに注目されるムーブメントだ。この流れは、地域側にとっても大きな意味を持つ。“働く、住む、遊ぶ”といった人間の活動がひとつのエリアに集約されることで、街の機能に多様性と活気が生まれる。

多様性と活気――これらは本来的に、さまざまな人々が集う街に担保されるべき要素ではないだろうか。「ベッドタウン」などと呼ばれる状態は、きっと街にとっては不本意だろう。これからは人が街に愛着を持ち、寄り添う番なのかもしれない。

(※1:アットホーム株式会社『「通勤」の実態調査 2014』より。「自宅から会社までの片道の通勤時間は、全体平均が58分」とのレポート。1か月あたり約20日の出社日があると仮定して、年間の通勤所要時間は往復2時間×20日×12カ月で算出)

img: 稲村ヶ崎R不動産,Pixabay