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盛り上がるクリーンテック投資
「クリーンテック」や「環境テック(Climate Tech)」への投資が世界的に盛り上がっている。
PwCのレポート「The State of Climate Tech 2021」によると、2021年上半期だけで環境テックへの投資は600億ドル(約6兆9000億円)となり、12カ月前の投資額である284億ドル(3兆2657億円)から2倍以上増加したことが判明した。投資成長率は210%に上り、環境テックがベンチャー投資全体に占める割合は14%に増加したという。
同レポートによると、2013年から2021年上半期までの環境テック累計投資額は2220億ドル(約25兆5277億円)。2021年上半期だけで、投資額全体の27%を占める計算となる。
急増する環境テック投資の中でも、特に注目されているのが「移動・交通」の分野だ。2020年下半期と2021年上半期には、580億ドル(約6兆6700億円)の投資がなされたという。このうち、330億ドル(約3兆795億円)が電気自動車(EV)と低排気自動車に投じられた。
この数字が示すように、現在クリーンテックといえば電動化テクノロジーを指す場合が多く、自動車以外にも航空機や船舶、都市移動向けのエアタクシーの開発において、電気をエネルギー源として利用する試みが増えている印象だ。
造船・海運産業の動き、大型コンテナを風力で動かす試み
一方電気ではなく、風を動力とする次世代輸送テクノロジーを開発する試みも一部で始まっている。
スウェーデンで船舶のデザイン・造船を手掛けるWallenius Marineと流体移送機器企業Alfa Lavalが開発中の大型コンテナ船「The Oceanbird」は、そんなプロジェクトの1つだ。
The Oceanbirdは、約7000台の自動車を積載できる大型コンテナ船だが、動力のほとんどを風力でまかなうことができるデザインとなっており、同サイズの重油を動力とする既存コンテナ船に比べ、温室効果ガスの排出を90%も削減できるという。
実際の開発にはスウェーデン王立工科大学が携わっているほか、スウェーデン運輸局による資金援助がなされるなど、スウェーデンの国家プロジェクトともいえる試みとなっている。
大型コンテナ船を風力で動かすために必要となるのが、伸縮可能な5枚の巨大な帆だ。マストの高さは80メートルで、船体を含めた高さは最大で105メートルになる。マストには飛行機の翼と同様の材質が用いられるという。
このプロジェクトの第1弾として開発されているのが、自動車の積み降ろしを想定したロールオン・ロールオフ型のコンテナ船だ。船の全長は200メートル、上記でも言及したように最大7000台の自動車を積載できる規模となる。
2020年夏に全長7メートルのプロトタイプによる公海試験が実施された。現時点で想定される速度では、大西洋横断に約12日要するという。重油を動力とする既存のコンテナ船は8日で横断できる。
Oceanbirdにはエンジンが搭載されるが、これは主に港湾における航行や補助動力として利用される。2021年頃からオーダーの受付けが開始され、2024〜25年頃の運用開始が計画されている。
欧州ではフランスでもコンテナ船を風力化する取り組みが進んでいる。
フランスのTransOceanic Wind Transport(TOWT)社は。1000〜1100トンの積載能力を持つ風力コンテナ船の開発を進めている。
TOWT社の風力コンテナ船の全長は65〜81メートル、スウェーデンのThe Oceanbirdと比べると3分の1ほどの規模。主力動力を風力としており、既存のコンテナ船に比べ二酸化炭素排出を90%削減できるという。
海運メディアOffshore Energyの2022年1月13日の記事によると、TOWT社はフランス造船会社Piriouから風力コンテナ船建設を受注。2023年にローンチする計画だ。
日本の大手企業も熱視線の風力
一般的にはまだ知られていないが、海運・造船産業でも脱炭素・脱重油が注目されるトピックとなっており、日本企業もカーボンニュートラルに向けた取り組みを活発化させている。
Offshore Energyの2022年2月1日の報道によると、日本の海運大手である商船三井と大島造船はこのほど、タンカー用の風力推進支援システムの開発を完了し、今秋から提供を開始する計画だ。
商船三井の推計によると、このシステムを既存のタンカーに搭載することで、温室効果ガスを日本〜豪州航路で5%、日本〜北米西岸航路で8%削減することが可能という。
造船・海運産業ではこのほか、水素燃料や電動化など様々な手段を駆使した温室効果ガス削減の取り組みが推進中だ。
投資が加速するエアタクシーや水素活用によって排出ゼロを狙う航空産業など、モビリティ分野の投資・研究開発は今後さらに加速していくことになるだろう。
文:細谷元(Livit)