昨今、あらゆる学習コンテンツが広がりをみせている。

漫画やゲーム、動画などの学習とは一見疎遠なコンテンツから学ぶユニークな学習の形が世間に浸透し始めている。

最近では、累計発行部数3,600万部を突破している人気漫画キングダムから学ぶビジネス書などが書店に並ぶようになり、学び方に多様性がみられるようになってきた。

このような背景のなか、ゲームコンテンツによる学習で地域創生を図るプロジェクトが発表された。

地元高校生にワークショップを展開、シムシティが築き上げる新しい地方創生のかたち

宮崎県小林市(市長:宮原義久)とエレクトロニック・アーツは今までにない地方創生プロジェクト、「※シムシティビルドイット」とのコラボによる「シムシティ課」を設立することを発表した。

※『シムシティ ビルドイット』
プレーヤーが市長となり、自分の理想のまちを作り上げていくスマホゲーム。

「シムシティ課」というのは、理想のまちを「シムシティ ビルドイット」でかたちにして議論する市⻑公認の新たなまちづくりを行うバーチャル組織だ。この取り組みには、若い世代に、まちづくりを親しみやすい形式で考えてもらおうとする狙いがある。


小林市シムシティ課 イメージムービー

「シムシティ課」は、小林市職員と宮崎県立小林秀峰高等学校の有志で結成され、同校では、総合学習の時間を活用した学習プログラムとして、シムシティを教材に活用するとのこと。ワークショップは9月下旬から始まっており、約3ヶ月をかけて、生徒それぞれが理想とする街の創造と、その過程で発生する課題の検証や解決方法を提案する。

これらの内容をとおして、学生が街づくりを親しみのある「ゲーム」で体験することで、街づくりに参加することの魅力や意義を学び、未来を担う若者による地域創生を目指す。

今回のプロジェクトに至った背景や意気込みなどを宮崎県小林市 市長 宮原義久氏、小林氏市役所地方創生課 主幹 柚木脇 大輔氏が語ってくれた。

——まず今回の経緯に至ったきっかけや背景を教えてください。

宮原市長(以下敬称略)「今までさまざまなプロモーションを行ってきた小林市に、電通からシムシティのプロモーションの打診がありました。市長の出演や予算が伴わないという点があり、またPR効果が見込まれるということから、今回事業を実施する運びとなりました。」

——ちなみに今回高校生がプロジェクトに参加するとのことですが、それによって若者へ期待する具体的な内容はありますか?

宮原「このワークショップをとおしてまちづくりや政治に関心を持ってもらいたいと考えています。

まちづくりを体験することで、まちの問題点を自分らで考えなければなりません。またまちづくりには政治が密接に関わるため、18歳から権利が与えられる選挙にも意識を向けて欲しいと思っています。

地域の問題や政治について直接的に考えるには早い年齢かもしれませんが、ゲームをとおした空想のまちづくりでも未来を描けるわけです。その過程で起こる問題点に対して向き合うことは彼らにとって、また政治に関心を持ってもらういい機会になると考えています。」

——政治に興味を持って欲しいとおっしゃっていましたが、そうなってくると人口の流出の歯止めも大きな目的になるのでしょうか?

宮原「私は、大学進学のために外に出てしまうとか、外に出て地元の良さを知るための“流出”は大事だと思っています。若いうちからこのようなゲームをとおしてでも良いので地域の問題点などを一度でも考えて、いずれは地元に帰ってきて欲しいと思っています。」

——どの地方もそれが課題ですよね。例えば企業誘致や起業の教育をして、小林市で利用してもらう施策も必要になると思うのですが、小林市で働ける環境づくりは考えられていますか?

宮原「地方でも困っているのは人手不足。誘致企業が来るのは嬉しいが、必要なだけの人数を集められるかという問題があって、地方でさえ、東南アジアの人たちが研修生ということで入って来て、仕事することも多いわけですから。

そこはそこで企業が入って集められない環境じゃダメなので、どういうものを彼らが望んでいるかというのを分析しながら、誘致企業は図る必要があると思います。

起業にも力を入れて、若い人たちが何かをやりたい、そういう元気の良さがあると人は寄ってくるのではと思います。」

——実際にこのプロジェクトは始められているのですか?

柚木脇主幹(以下敬称略)「そうですね、今準備期間で。来週から本来目指すべきワークショップが始まっていきます。」

——実際に体験することでわかることですが、高校生にどのような関わりかたをしていきたいですか?

柚木脇「今回のワークショップは対象が高校3年生なので、卒業する前に一度小林市について考えて欲しいと思っています。進路を決める時期に郷土愛、小林市の魅力を理解することで、地元就職や市外からの応援の動機付けになってくれればと思っています。

また今回のプロジェクトではコピーライターさん、プランナーさんとかに関わっていただくため、ひとつのキャリア教育になると考えています。

この二つとプラス、自分の理想の小林市を思い描くというまちづくり感。この3つが効果として出てくるといいなと考えています。」

——ちなみにそのまちづくりに高校生がとても興味を持たれて、一緒になってやっていきたいとなったときに、関わる機会はあるのでしょうか?

柚木脇「行政だけでまちづくりをやっているような時代ではなくなって来ています。

例えばNPOがあったりとか、まちのおもしろいグッズを作って売っている団体がいたり、どんな形でもまちづくりは関わろうと思えばすぐ関わることができる時代になりました。

行政に入って欲しいというよりも、行政に入らなくても、このまちをおもしろくするために頑張ろうという気持ちが芽生えてくるといいなと思います。」

——最後になりますが、今回の施策への心意気を教えてください。

宮原「若い人たちがそういったゲームを通じて、政治に興味を持ってもらい、その上で自分が住むまちについて関心をもち、まちづくりについて考えて欲しいと思っています。そして次代の小林市を創造していく人材が育って欲しいというのが願いです。」

ゲームが切り開く小林市の未来

地方では都心への人口流出が大きな課題となっており、どの自治体も課題解決方法に頭を悩ませている。

そのようななか、小林市が取り組むゲームコンテンツによるユニークな地域創生は、期待と注目が集まるだろう。

インタビュー時に聞いた話によると、このワークショップで生まれたアイデアは事業化の可能性もあるという。小林市の将来を担うであろう高校生の発想が、小林市にどのような影響を与えるのか。今後の動向に注目していきたい。

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