就職・転職を検討する人々にとって、重要となる要素の1つが給与・年収だろう。転職市場やメディアでは、いつからか切りの良い年収「1000万円」がベンチマークとして用いられるようになっており、この水準を目標に転職活動をしている人は多いかもしれない。

今後のこの水準を目指す人々にとって、「労働市場の需給」は非常に重要な視点だ。今後需要が減少するであろう職種のスキル・知識・経験を得る努力をしても、需要の減少によって職を探すのが困難になるだけでなく、その職の給与水準も下がる可能性があるからだ。

労働市場においてどの職業の需要が高まるのか把握しておくと、将来のリスクを軽減できるはずだ。

米労働統計局が発表している統計データは、日本を含めた世界の労働市場の動向を把握するための重要な足がかりとなる。

最新のデータでは、詳細に分類された職種の給与水準だけでなく、2030年までにそれぞれの職種で、人材がどれほど増減するのかという予測も行っており、需要が高まる可能性のある職種を簡単に見つけることができる。

この米労働統計局のデータから、2030年の労働市場の姿を覗いてみたい。

急速になくなる職種

米労働統計局のデータは、各職種における2020年の雇用数と2030年の予測雇用数を記載している。

2020年米国の雇用総数は1億5353万人だったが、2030年には1億6541万人と、1187万人増える見込みだ。

全体的には米国の雇用数は増加するとの予測だが、その増減の幅は各職種の需要を反映し大きく異なっている。

減少率が最も高い職種は「ワードプロセッサー/タイピスト」。2020年の雇用数は4万5200人だったが、2030年には2万8900人と36%減少するとみられている。年収の中央値は、4万1050ドル(約457万円)。このほか「駐車場警備員」「テレフォンオペレーター」「データ入力」などの雇用減少率が高くなっている。

看護師需要2030年までに50%以上増加、高齢化で伸びる医療人材需要

一方で、雇用増加率が高いのはどのような職種なのか。ここでは特に、年収中央値が10万ドル前後の職種をピックアップしてみたい。

まず目に入ってくるのは「看護師(Nurse Practitioners)」だ。現時点の年収中央値はすでに11万1680ドル(約1244万円)と高い水準にある。

注目すべきは、看護師の雇用増加率だ。2020年の雇用数は22万人だったが、2030年には33万5000人と52%以上も増加することが予想されているのだ。

2020年にはコロナ禍で看護師需要が急拡大したが、米国の医療分野では慢性的な人材不足が続いている。また、高齢化によって、将来的に看護師の人材不足は続くとみられ、給与水準もここからさらに高まる可能性がある。

このような米国の社会経済状況を反映して、看護師以外の医療関連職も雇用増が見込まれる。

たとえば、年収中央値10万4280ドル(約1162万円)の「医療サービス管理者(Medical and health service managers)」は2030年までに30%以上雇用が増えると予想される職種だ。2020年の雇用数42万9800万人から2030年には56万9400人と13万9600人増える見込み。増加率は32.5%。

「フィジシャン・アシスタント(Physician assistants)」という職種も31%増加する見込みだ。これは医師のもとで医療を施す職業で、日本にはないもの。2020年時点米国での雇用数は12万9400人だったが、2030年には16万9500人に増加(31%増)すると予想されている。

手堅い数学・コンピュター系の職種

米労働統計局のデータでは医療系の需要増が目立つが、数学・コンピュータ系の職種も大きく伸びると予想されている。

まず、年収中央値9万2270ドル(約1028万円)の「統計専門家(Statistician)」。2020年の雇用数は4万2000人だったが、2030年には5万6900人と35%以上の増加となる。

「情報セキュリティアナリスト」の需要増も無視できない。2020年の雇用数14万1200人から、2030年には18万8300人と33%以上増加すると予想されている。

米国では深刻化するサイバー攻撃に対応するために、人材育成と雇用が急ピッチで進んでいる。年収中央値も10万3590ドル(約1154万円)と高い水準で、就職や転職を目指す人は増えていると思われる。米国土安全保障省では2000人のサイバーセキュリティ人材を急募、2021年5〜6月の2カ月間だけで、約300人の人材を確保したことを明らかにしている。

一時バズワードとなった「データサイエンティスト/数理科学専門家」も2030年までの雇用は増える見通しだ。2020年の雇用数6万3200人から、2030年には8万3000人と1万9800人増加する見込み(31.4%増)。2020年の年収中央値は、9万8230ドル(約1094万円)。

このほか「アクチュアリー(年収11万ドル)」が2万7700人から3万4500人(24.5%増)、「ソフトウェア開発関連職(年収11万ドル)」が184万7900人から225万7400人(22.2%増)となるなど、医療に加え、数学・コンピュータ系職の需要も大幅に高まる傾向が示されている。

日本・海外に関わらず、こうした包括的なデータは就職・転職を考える際の重要な参考情報になるはずだ。

文:細谷元(Livit