世界の運用資産1京5451兆円の3分の1以上がESGアセットに

上場企業にとって「ESG」や「SDGs」は、資金調達という観点から無視できないキーワードになっている。

ブルームバーグ・インテリジェンスによると、世界のESG投資は拡大の一途で、グローバルESGアセットの規模は現在の37兆8000億ドル(約4171兆円)から2025年には53兆ドル(約5849兆円)に拡大し、世界の総運用資産額140兆ドル(約1京5451兆円)の3分の1以上を占める見込みがあるという。また次のESG投資の波は、日本を中心としたアジア圏で起こると予想している

この流れは、スタートアップも無視できない。ESGやSGDs関連のインパクトを投資条件とするベンチャーキャピタル(VC)が増えているのだ。

ユニコーンではなく「ギガコーン」を探す欧州のVC

スタートアップメディアSiftedは、欧州のVC業界における環境インパクト投資の動向を伝えている

たとえば、都市部のサステナビリティスタートアップに特化するVC、2150では、ユニコーンではなく「ギガコーン」に成長する見込みのあるスタートアップを探すことに注力している。

未上場かつ評価額が10億ドル(約1100億円)を超えるスタートアップはユニコーンと呼ばれる。一方、ギガコーンとはギガトン級の二酸化炭素を削減しつつビジネスで利益をあげられるスタートアップのこと。2150のパートナーが考えた造語だ。

2150では、ギガコーン企業を探すため、学術誌から情報を集めるとともに、スタートアップの創業者らのサステナビリティへのコミットメントが本物かどうかを確認するなど、これまでのVCには見られない評価軸で投資先を探している。

2150はロンドン、ベルリン、コペンハーゲンを拠点とする2020年創業のVC。2021年2月には、都市サステナビリティをテーマにしたスタートアップ投資のための資金調達を開始。ファンドの規模は2億ユーロ(約260億円)。

2150のリミテッド・パートナーには、デンマーク政府による投資総額33億ユーロ(約4288億円)のGreen Future Fundや運用総資産610億ユーロ(約7兆9277億円)のNovo Holdingsなどが名を連ねている。

2150が現在資金を投じているスタートアップの1つがCarbonCureだ。コンクリート生成時の二酸化炭素排出を削減するテクノロジーを開発するカナダの企業だ。

コンクリート生成には多大なエネルギーが必要となる。国際エネルギー機関によると、現時点で世界全体の二酸化炭素排出量の7%を占める状況。一方、都市部の人口増加に伴い、都市インフラ開発におけるコンクリート需要は2050年に現在比で12〜23%上昇することが見込まれる

CarbonCureは、二酸化炭素を鉱物化しコンクリートに貯蔵するテクノロジーを開発。同社ウェブサイトによると、これまでにこの手法で10万トン以上の二酸化炭素排出を抑制できたという。

CrunchBasePitchBookのデータによると、CarbonCureには、2150のほか、アマゾンやマイクロソフト、三菱などからの資金が投じられている。

2150では現在このような投資を増やすべく、気候変動を専門とする研究者の雇用を進めているとのことだ。

環境インパクト評価方法を模索するVC各社、環境インパクトない企業には投資しないことも

環境インパクトを投資の必要条件とするVCが増えているが、まだユニバーサルな評価基準はなく、VC各社それぞれの評価軸を模索中のようだ。

たとえば、ポルトガルを拠点とするVC、Mustard Seed Mazeでは、Imapact Management Projectのフレームワークを応用。誰に、どのようなインパクトがあり、その規模はどれほどなのか、などを明確化するのに役立つという。

一方、ベルギーを中心に活動するVC、Astanorでは、スタートアップ創業者向けの長いESG質問表を作成。資金調達狙う創業者にはその質問表の質問90%以上を回答することが求められる。

このほか、ベルリンを拠点とするPlanet A Venturesではライフサイクルアセスメント(LCA)を実施。これにより、環境インパクトを算出し、ビジネスとして規模が大きくなる可能性があっても環境に良いインパクトを与えられないことが予測される場合は、投資を行わない判断を下すという

スタートアップ関連データサービスのDealroomの最新レポートによると、欧州では2021年のベンチャー投資が過去最高を記録。2021年1〜6月だけで438億ユーロ(約5兆7000億円)と2020年通年の385億ユーロ(約5兆円)を越えるほどの活況ぶりだ

スタートアップへの環境インパクト投資がどこまで広がりを見せるのか、今後を動きから目が離せない。

文:細谷元(Livit