飲食店や宿泊先、美容室など、様々なお店の予約がスマホから可能になった。おかげで、私たちは移動中でもお店を見つけて予約し、余裕を持ってお店に足を運べるようになった。

人々が便利さを享受する裏側では、激しい競争が展開されている。事業者と利用者の双方を集めてマッチングを行うプラットフォームビジネスでは、出品する側の数を確保することが求められる。

だが、競争激化する予約サイト市場のなかで、事業者を囲い続けるのは至難の技だ。予約サービスを提供する企業は、様々なアプローチを通じて囲い込みを狙っている。

複数の予約サービスに共通したビジネスモデル

予約サイトにおけるビッグプレイヤーといえば、リクルートだ。同社は、事業者と利用者双方のニーズを満たしたマッチングを提供しようと、プラットフォームを提供してきた。同社の事業モデルは「リボンモデル」と呼ばれ、リクルートの提供するサービスの基礎構造を担っていることは有名な話だ。

この事業を展開していく上で重要なのが、商品を掲載する事業者の数だ。プラットフォームに登録する事業者数が増えれば、顧客の選択肢は増え、より細かいニーズに応えていくことが可能になる。

リクルートは、事業者がプラットフォームを使い続けるための機能を提供し、事業モデルを強化してきた。たとえば、「Airリザーブ」という電話予約・直接予約・ネット予約を一元管理できる予約管理システムもその活動の一環だ。

事業者の負担を減らすための予約管理機能を提供して、プラットフォームを使い続けるメリットを提供し、加えてリクルートは店舗の席数の在庫を把握できるようになった。店舗のデータを把握できるようになったリクルートは、さらに事業者との結びつけを強めるための一歩を踏み出した。

リクルートもオンライン融資市場へ

リクルートは2017年6月19日、インターネット上で融資が受けられるオンライン融資サービス「Partnersローン」を始めると発表した。まずは8月から宿泊予約サイト「じゃらんnet」の顧客である宿泊事業者向けにサービスを提供する。

融資をするためには、与信が必要になる。リクルートでは、グループが保有するビッグデータ解析やAIを活用し、独自のシステムを使って与信を判断する。何かしらの形で取引データを取得できているプラットフォームは、オンライン融資と相性がいい。

じゃらんnetの利用実績など、オンライン上のデータが与信の判断材料となれば、事業者は複数の予約サイトに掲載して取引データが分散される状態を避け、じゃらんnetだけに情報を出すことを検討し始めるかもしれない。

もちろん、事業者にとって融資を受けやすくなることのメリットも大きい。これまでの銀行の融資は、書類手続きの煩雑さや、開業や設備投資などにかかる高額な資金に偏り、資金繰りに必要な短期的な資金は、融資されにくい現状があった。オンライン融資は、これまでの煩雑さを緩和し、短期的な資金ニーズに応える。

事業者とプラットフォームの結びつきを強めるためのアプローチ

オンライン融資サービスは、リクルートが提供する予約サービスと事業者との結びつきを強めるだろう。リクルートはまず、じゃらんnetの顧客である一部の中小企業向けに、Partnersローンを提供する。将来的にはホットペッパーグルメやホットペッパービューティーなどを利用する、飲食店や美容院などの事業者へも拡大を検討しているという。

リクルートのように、提供するサービスとオンライン融資を組み合わせて、既存のサービス利用者を囲う動きは、差別化戦略の1つとして今後も着手するプレイヤーが増えると考えられる。そのサービスで取引することが与信につながるか否かは、事業者が予約サイトを選択する上での基準の1つとなる。融資で事業者の成長を支援すれば、サービスの成長も加速する。

FinTech領域のベンチャー投資は、全世界で223億ドル(2.5兆円)の規模に達した。国際金融の中心地と言われるニューヨークでは、FinTech領域の中でも特に融資サービスへの投資が全体の47%を占め、注目を集めている

img:リクルート、Pexel