世界最大企業の国内回帰志向と脱グローバル化の動き

1991年のソビエト連邦の崩壊をきっかけに、西側諸国の多国籍企業の台頭で加速したといわれる「グローバル化」。30年を経た現在、その反転運動である「脱グローバル化」現象が散見されるようになり、コロナ禍をきっかけにその流れが強まりを見せている。

これはグローバル化をけん引してきた米国の企業、さらには同国の消費者の国内回帰志向から見て取れる兆候だ。

グローバル化の象徴の1つといえるのが、世界最大の小売りチェーン、ウォルマート。同社ウェブサイトによると、世界24カ国で事業を展開、米国で160万人、世界全体では230万人を雇用。雇用数では世界最大の企業だ。世界的なサプライチェーンを持っており、グローバル化の推進役として大きな影響力を有している

そのウォルマートが米国内への投資を加速させている。

CNBCが2021年3月3日に報じたところでは、ウォルマートは米国産品強化取り組みの一環で今後10年間で3500億ドル(約38兆円)を追加投資する計画を発表した。

米国の製造業を支援する狙いがあり、販売する商品の国産比率を現在の3分の2からさらに高める計画という。注力する商品カテゴリは、プラスチック製品、繊維製品、家電など、中国からの調達が多いと思われる分野も含まれている。

ゼネラルモーターズやインテルも米国内に工場新設に多額投資

ウォルマートだけでなく、ゼネラルモーターズも国内投資を注力している。

2021年2月には、ミシガンとインディアナにある工場の製造能力を強化するために1億ドル(約110億円)を投じる計画を発表。国内で人気の高いピックアップトラック「シボレー・シルバラード」と「GMCシエラ」のオートマティックギアの製造ラインを強化するという

ゼネラルモーターズ・インディアナ工場「シボレー・シルバラード」製造ライン

この発表に先立つ2020年12月には、ニューヨークとオハイオの工場に対し、計7600万ドル(約84億円)の設備投資計画を発表。直近では、2021年4月20日、オハイオで23億ドル(約2552億円)を投じEV用バッテリー製造工場を新設する計画を明らかにしている。新工場の建設はすでに始まっており、2022年に稼働開始する予定だ。

インテルも国内のチップ製造能力強化に乗り出している。

同社は2021年3月、アリゾナで2カ所のチップ製造工場を新設するために200億ドル(約2兆2200億円)を投じる計画を発表。新工場設立の背景には、世界的なチップ供給不足や国家安全保障への懸念の高まりがあるといわれている

米国の製造業指数、1983年以来の最高記録更新

こうした個別事例だけでなく、マクロ指標でも米国の国内製造が盛り上がりつつあることが示されている。

米国の景気転換の先行指標として投資判断に用いられる「ISM製造業景況指数」がこのところ好調なのだ。

50ポイント以上であれば景気拡大といわれる同指標、2021年4月には64.7と1983年12月以来最高値を記録。その後も5月に61,2、6月に60.6といずれも60を超え推移している。

ISM製造業景況指数が好調であることに加え、ワクチン普及とバイデン政権による1兆9000億ドル(約210兆円)の経済対策法、今後10年間で計2兆ドルほどが拠出されるインフラ投資、過去最高を記録した家計預金残高(14兆ドル以上)などを背景に、2021年中には米国経済は復活するとの味方が有力視されている

グローバル化から「スローバル化」へシフトする世界

こうした米国の国内回帰/脱グローバル化の動きは、実はコロナ前から指摘されてきたもので、パンデミックでその動きが加速した格好だ。

モルガン・スタンレーは2019年6月26日に発表したレポートの中で、保護貿易トレンドと地政学的リスクの高まりから、グローバル化の流れは鈍化しており「slow-balization」とも呼べる時代に突入したと指摘。新興市場消費者の購買力向上やローカルブランドを選ぶ消費者の増加などを背景に、ローカル/リージョナルな経済活動が活発化すると予想している。

この「slow-balization」とは、オランダのトレンドウォッチャーであるAdjiedj Bakas氏が2015年頃から使い始めた言葉だが、この数年、英語圏で少しずつ認知が広がり始めているようだ

世界の流れは30年周期で大きく変わるという説がある。2021年はソ連崩壊とグローバル化の加速からちょうど30年。コロナという要因も手伝い、見えないところで大きな変化が起こりつつあるのかもしれない。日本はこの大変化の中でどう舵を取るべきなのか、本格的な議論が必要なのではないだろうか。

文:細谷元(Livit