新型コロナウイルスの感染拡大によりテレワークが定着した2021年。自宅・オフィスを兼用するハイブリットな勤務形態や、サテライトオフィスの活用などがニューノーマルな働き方となりつつある。

テレワークによる移動時間の短縮や感染リスクの低減、そこに伴うストレスレスなどメリットがある一方で、作業効率の低下などデメリットを実感しているという声も挙がっている。特に仕事と生活が混在しがちな在宅勤務では本来のパフォーマンスを発揮できず、生産性を落としているビジネスパーソンは少なくない。

withコロナの時代に主流となっていくのは、感染リスクを最低限に抑えながら、一人ひとりがワークスペースや時間を選択できる働き方だ。企業のオフィスも、そんなワークスタイルに合わせて機能を変えていくことが求められる。社員同士が密を避けながら、集中と交流をフレキシブルに使い分けられるフリーアドレススペースや、心身の健康を支えるウェルネス環境の整備もオフィスづくりに欠かせない視点となってくるだろう。

そんな中、パナソニック ライフソリューションズ社は、光・音の使い分けによる新たな「ゾーニング」の考え方を取り入れたフリーアドレススペースや、リフレッシュゾーンを構築。実証実験を推進し、このたび興味深い結果が表れた。今回は、これからのオフィスの在り方のヒントになりそうなその実証実験結果と、同社の取り組みを紹介する。

約65%のビジネスパーソンがテレワークによる生産性の低下を実感

株式会社パーソル総合研究所が2020年11月に実施した「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、オフィス出勤時の仕事の生産性を100%としたとき、テレワーク時の生産性は全体平均で84.1%。回答者の内約65%は、職場への出勤時と比べてテレワークでの生産性低下を実感していることが分かった。自宅を含むリモート環境は、慣れた場所であったとしても、必ずしも仕事場として適しているとは言えない状況が浮き彫りになっている。

出典:パーソル総合研究所「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」

社員同士のコミュニケーション不足による業務への弊害や、一人きりで仕事を進めることでのストレスの影響は大きく、100%テレワークで生産性の高い働き方を実現するのは容易ではない。今後はオフィスを無くすことではなく、社員の自宅やサテライトオフィスなどに分散するワークプレイスをつなげ、より柔軟に集中業務や交流できる機能を備えた、センタープレイスとしてのオフィスが必要となってくる。

そこで、パナソニック ライフソリューションズ社が、2020年12月に“『働く』を実験する”をテーマとしてパナソニック東京汐留ビルに開設したのが、ライブオフィス「worXlab」(ワークスラボ)だ。

同社の社員が実際に勤務するこの新たなオフィス空間には、既存設備の改修だけで実装可能な、光、音、映像、気流を駆使した各ソリューションを設置。同時に、オフィス内に実装した200個以上のセンサデバイスによる情報や空間内のCO₂濃度・湿度などの環境データ、機器の稼働状況といった設備データ、位置や生体情報などのヒトデータを取得・解析している。今回、2019年6月から実証実験を進めていた他のオフィスのデータと合わせて解析したところ、「フレキシブル ゾーニング ソリューション」と「短時間リフレッシュソリューション」に今後のオフィスづくりのヒントとなりえるポジティブな結果が表れたという。

「密度」の表示と空調改革…感染リスクを低減させるオフィスづくり

上記2つのソリューションにおける実験結果の紹介の前に、まずは「worXlab」でどんな設備が、そこで働く人々をサポートしているかをお伝えしたい。「worXlab」では、「breathing」をコンセプトに「換気」「気流」「調湿+除菌」を改善し、コロナ禍以降特に重要視されている空気環境への取り組みを実施。また、センタープレイスとしてのオフィスに求められる機能を「安全」「交流」「集中」「回復」の4つのテーマに分け、各テーマに基づいたソリューションを点在させて、多様化する働き方をサポートしている。

入り口には今や必須となった検温を兼ねる顔認証システムを設置。このシステムでは、一度登録をするとマスクをしていても顔認証され、逆にマスクを着けていないと注意喚起のメッセージが表示される。認証システムと並ぶサイネージには、各種センサデバイスや利用者が付けるビーコンなどのデータを元に計算された出社率や時差出勤率などが表示され、現在のオフィスの状況を確認できる。オフィス内にはスペースごとのさらに詳細な人密度や、騒音センサーを元にした快適性、CO₂濃度といった情報を見られるサイネージも設置。通常は見えにくいデータ観点の安全・快適も考慮して、その日、その時間に働く場所を選ぶことができるのだ。

新たな空気環境の一つとして取り入れられているのが、「エアリーソリューション」だ。長机が置かれたミーティングスペースの天井に細長い板状のルーパーが複数枚取り付けられ、そこから下に向かって吹き出される「ダウンフロー気流」が、ミーティング参加者のエアロゾルを下に落とす仕組み。対面する相手との間に、何層もの“空気の膜”が流れている状態をイメージすると分かりやすいだろう。

ルーパーの下に座ってみると、上空から降りてくる風は決して不快なものではなく、そよ風のようで心地よい。今後は気分の切り替えにアロマを加えるといった新たなアレンジも検討されているという。

他にも窓際に置いて外気とオフィスの汚れた空気を入れ替えられる床置型の熱交換気ユニットや、ダウンフロー気流で下に落としたエアロゾルを回収する床面設置型の吸い込み口、次亜塩素酸の除菌システムなど、空調管理を推進するソリューションがいたるところに点在。「worXlab」では健康を基軸とした空間設計・運用の評価認証システム「WELL認証」の中でも、新型コロナウイルスに対応した「WELL Health-Safety Rating」を取得している。

実証実験で立証! 光と音の「ゾーニング」が実現する、流動性の高いフリーアドレススペース

実証実験の結果が得られたうちの一つ「フレキシブル ゾーニング ソリューション」は、フリーアドレススペースの活性化に着目し、開発された設備だ。

昨今テレワークとともに導入企業数を増やしているフリーアドレス制。省スペース化や稼働性の向上に加え、社員がさまざまな席を利用することで幅広い交流を促すことも、各企業が導入する大きな目的の一つだ。ところが、その目論見とは裏腹に、導入企業では個人向けスペースに使用者が偏ったり、各人の使用する席が固定化されるといった課題が多く上がっている。

そこで「worXlab」は、照明の色温度や照度とサウンドの違いによる人への影響を分析し、その組み合わせをエリアごとに切り替えることで、目的別の環境ゾーニングを実現。利用者が毎回同じ席ばかりを利用するのではなく、その日の気分や状況でよりアクティブに選択したくなるような、フリーアドレススペースを生み出した。

「worXlab」執務エリアは、隣り合ったオープンスペースの机が3種類の光と音の組み合わせで区切られ、その時々の状況や気分で使い分けられる。さらに照明とサウンド装置はクラウドシステムに接続され、タブレット操作で一瞬にして違うモードへの切り替えが可能だ。実証実験においては、各スペースの利用度からクラウドシステムが今必要なゾーン設定を自動判断し、切り替えて運用している。

その結果、広島オフィスでは、状況によってゾーン変更を行うことで、変更をせずに運用したときの3倍の利用者に「よく使うゾーン」の変化が見られた。また汐留オフィスでは、フリーアドレスの共有スペース使用率がオフィス全体の23%に上り、従来人の集まりやすかった各個人用スペース(テレワークゾーン13%、マグネットカウンター14%、集中ゾーン2%)より高くなるという結果が出たという。

フレキシブルゾーニングソリューション

現在用意されているモードは「Café-mode」「Nature-mode」「Booth-mode」の3種類。「Café-mode」は、オレンジ系の温かみのある照明に、ジャズ・ボサノバの音楽が流れ、周りの人とのコミュニケーションを取りやすい雰囲気。「Nature-mode」は、明るめの照明に野鳥など自然の音が流れさわやかな気分に。個人スペースでの集中業務や会議後リフレッシュしたいときにもちょうどいい。

そして、「Booth-mode」は、周りの照明を落とした中で利用者の周囲にだけライトがあたるタスクアンビエント照明を採用。周りを流れる音は“マスキングノイズ”と呼ばれる、耳に入ってきても集中の邪魔にならない流水系の自然環境音で、オープンスペースにいながら非常に集中しやすい空間となっている。

実際にこの「フレキシブル ゾーニング ソリューション」を体感すると、各ゾーンに座った時の感覚の違いは驚くほどだった。光の違いによる影響は想像よりも顕著で、白系の明るいライトの元では、眠気の強い時間帯でも目が冴え、すぐ隣のスペースであってもオレンジ色の穏やかな明かりの中に来ると、一気に気分がリラックスする。

「Booth-mode」に関しては、他のモードとオープンスペース隣り合っていたら、そちらの音が聞こえてしまい、集中しにくいのではないか。そんな疑問を感じていたのだが、実際に座って見ると、マスキングノイズによる効果で、他のブースの音は全く耳に入らなくなった。また、タスクアンビエント照明で作業スペース以外が暗くなっていることから、自然と周りに意識がいきにくくなり、生産効率も高まる違いない。光と音の組み合わせ次第で、オープンな場所でもパーソナル化できることを実感した。

会議室が一瞬でリフレッシュ空間に! 光、映像、音、風、香りが作り上げる数分間のリラクゼーションプレイス

同じく光と音、さらには気流を使って、短い時間で高いリフレッシュ効果をもたらす休息法にアプローチし、実証実験において心身の疲労感の低減を確認できたのが「短時間リフレッシュソリューション」だ。

適度で効果的な休息が仕事の効率や生産性を上げるのは、オフィスでもリモート環境も変わらない。とはいえ、リフレッシュに特化した空間をオフィス内に備えるのは難しいという企業も多いだろう。このソリューションは、普段会議室として使用している場所で、映像や音、空気の組み合わせによる環境刺激を与え、リラックス・リフレッシュ効果を高めることを目指している。

具体的には、会議室に備えた大型プロジェクターに渓流や夜景といった映像を流し、映像に合わせた音と気流(空調調整)、さらには香りをプラスしてリラックス状態へと促す状態を作り上げる。閉鎖空間に自然などの美しい風景が映し出されるだけでもリラックス・リフレッシュ感はあるが、アンケートによる実験結果では、そこに音、気流、香り、カラー照明が加わったことでさらにポジティブな効果が表れた。

身体的疲労感については、映像や音などが何もない会議室で休憩した時は、退出時の低下率が1.7%だったところ、映像と音が制御された空間では21.4%、気流、香り、カラー照明が加わった空間では14.6%と大幅な差が見られた。心理的疲労感の低下率はさらに顕著で、制御なしの空間では5.6%だったところが、映像と音が制御されると21.8%、そこに気流と香りとカラー照明が加わると実に23.3%の変化が見られた。

「短時間リフレッシュソリューション」による心身への効果

映像に音、気流、照明が掛け合わされた時の没入感や、目の前の世界に引き込まれていく感覚は、4DX対応の映画を体験ことがある人なら想像しやすいのではないだろうか。そこに香りまでが加われば、視覚、聴覚、気流による触覚に加え、嗅覚にも心地よい刺激を受けながら心身を休ませることができる。

今後の課題は、リラックス状態を誘うことで眠気が高まるといった実験結果にどう対応していくか。また、映像ではなくカラー照明と音を組み合わせた形で、よりリラックス状態を感じさせる空間制御についてもまだまだ実証実験を進めているという。会議の前に同ソリューションを利用し、すっきりした頭で集中するか、会議後の疲れを一気にほぐして次の業務にあたるか。映像テーマやそのほかの環境との組み合わせ次第で使いどころはいくらでもあるだろう。

今回紹介した各ソリューションはすべて大がかりな工事を必要とせず、既存の設備を改修で取り入れられる。さらに、フリーアドレススペース活用においての企業課題解決に寄与する「フレキシブル ゾーニング ソリューション」と、短時間の休憩で心身の疲労感を低減させる「短時間リフレッシュソリューション」は、今回の結果をもってその効果が立証されたといえるだろう。

パナソニック ライフソリューションズ社は今後も引き続き実証実験を進め、“人”を起点とした、企業ごとの課題に最適なソリューションの組み合わせや、活用法も合わせて提案していけることを目指している。自社の環境や社員状況に合わせ、ニューノーマル時代に向けてオフィス改良を始めたい企業は、スモールスタートからでも導入を検討してみてはどうだろうか。

「worXlab」(ワークスラボ)について詳しくはこちらから

文・渡部 彩香(Playce)