UberやNetfix、Spotfyなど、必要な時に必要な分だけサービスを利用できるアプリが、スマホに少なくとも一つはインストールされているのではないだろうか。ほしい時に必要な情報やサービスが手に入る恩恵を、多くのユーザーが享受している。

アプリを使って「利用したい時に好きなだけ利用する」というオンデマンド体験は、様々な領域において現実のものになってきた。これからは「保険」においても、オンデマンドが当たり前になっていくかもしれない。

今、海外で生まれた「オンデマンド保険」サービスの波が、日本にも訪れようとしている。

必要な時だけ加入できるオンデマンド保険アプリ「Warrantee Now」

先日、保証書のクラウド管理アプリを運営するWarrantee社が、東京海上日動火災保険と提携して、オンデマンド保険アプリ「Warrantee Now」を提供すると発表した。三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険、代理店の三井物産インシュアランスの3社と連携していく予定だ。同サービスの提供は8月から。

Warrantee Nowは必要なモノに必要な時間分だけ保険をかけるサービス。1日わずか10円台から、アプリ経由で24時間いつでも保険加入および解約が可能だ。例えば、旅行中だけ一眼レフカメラに保険を掛けられる。若者をメインターゲットに、サービス開始1年間で契約者数10万人、2020年までに100万人を目指すという。

Warrantee社が現在運営しているアプリ「Warrantee」は、2014年に開始した保証書のクラウド管理アプリだ。家電製品から不動産、自動車の保証書まで、アプリ内で管理が可能。修理依頼や中古売却査定もアプリ内で行なうことができるようになっている。

同サービスは、「個人の保有する製品や資産の購入後に始まるライフサイクルを管理するプラット フォーム」を掲げており、すでに数万人の利用者を抱える。

保証書もオンデマンド保険も製品の故障に対応するという点では同様だが、保証書には購入後1年など一定の期限が設けられている場合が多い。オンデマンド保険ではユーザーがいつでも必要な時に保険を利用できるため、今後はより幅広いニーズに対応することができる。

大手保険会社との連携、保険領域へのサービス拡大は、製品のライフサイクルを支えるプラットフォームの強化につながるだろう。

国内InsurTechはどう変わる?大手保険会社とスタートアップの協働

オンデマンド保険アプリの領域は、すでに海外で実際にサービスの提供が始まっている。

オーストラリア発の「Trov」は、昨年5月よりオーストラリアで、年末にはイギリスでローンチした。Trovが公開した統計によると、保険が掛けられた製品の総額は36億ドルを超える。保険を掛ける製品の半数がスマートフォンで、利用者のうち3分の2が35歳以下だったという。この数字から、若者を中心に利用されていることが伺える。

国内では、Trovのようにオンデマンド保険アプリを提供している事例はまだないが、Warrantee Nowのように国内大手保険会社が外部パートナーと連携する動きが起きている。

例えば、損保ジャパンは今年に入ってTrovへの出資を発表。出資の理由について、保険分野で起こりうるイノベーションに備え「彼らが何を考えているか知ると同時に、場合によっては彼らと共に破壊的イノベーションを起こしていく」ためだと述べている。

オンデマンド保険は「保険対象の細分化」で変化をもたらす

オンデマンド保険はInsurTech(保険領域におけるテクノロジーを活用したサービスやビジネス)の一つだ。

野村総合研究所のレポートでは、InsurTechを「テクノロジーに裏付けられた新たな保険商品の提供」と「保険に関する新たな価値・経験の提供」の大きく2つに分類している。Warrantee Nowを含むオンデマンド保険サービスは前者に入り、テクノロジーによって「保険対象の細分化」を行い、利用者にとって最適な保険を目指すサービスに位置付けられる。

オンデマンド保険と同様に「保険対象の細分化」に分類されているのが、「P2P保険」だ。これは通常の保険ではカバーしきれない場合に、同じニーズを抱えた加入者を集めて保険料金をプールしておく仕組み。保険会社が設定したプランの代わりに、利用者の抱えるニーズから中身が決まるため、通常の保険ではカバーできない要望にも応えることができるという。

例えばイギリスのP2P保険サービス「Bought By Many」では、シングルマザー向けの所得保証保険や、珍しいペット向けの保険、70歳以上の人高齢者向け海外保険などが提供されている。

人々のライフスタイルや価値観が多様化するなか、オンデマンド保険やP2P保険など個人に合わせて自由に選べる保険サービスの需要は今後も増していくだろう。

利用者だけでなく供給者側にもメリットは大きい。オンデマンド保険やP2P保険サービスの利用データからは、これまで可視化されなかったニーズが浮かび上がってくるかもしれない。また、Trovの利用者が若者中心であったことを踏まえると、新たな保険サービスは、「若者の保険離れ」に悩む保険会社に若年層との接点を与えるはずだ。

利用者側と供給者側、両方にとってメリットと可能性に満ちた新しい形の保険サービス。日本でのサービス開始は保険業界全体に新しい動きを生み出す推進力となるのだろうか。