気候変動や食糧リスクにより注目が高まる昆虫食。昨年、無印良品よりコオロギの粉末が入った「コオロギせんべい」が発売され、話題を呼んだことは記憶に新しい。

日本ではまだ「ゲテモノ」扱いの昆虫食だが、フードテックの世界では、日々着々と研究開発が進められている。

そんな中、オーストラリア・クイーンズランド大学から、「“ハエの幼虫”は栄養価が高く、将来的には代替肉になる可能性がある」という、驚くべきニュースが発表された。

栄養価は肉や牛乳に匹敵する「ハエの幼虫」

食用として知られる虫の種類はまだわずかである。コオロギ、イナゴ、バッタ、蚕あたりがメジャーだろうか。しかし一説によると「栄養価の高い昆虫」は、世界に約2,000種類もいるという。そして実際、さまざまな昆虫が次々と「食材」として参入してきており、その中の1つがハエ目に属する「アメリカミズアブ」である。

クイーンズランド大学のルー・ホフマン教授によると、アメリカミズアブの幼虫は、赤身の肉よりも亜鉛と鉄を多く含み、カルシウム含有量は牛乳に匹敵するという。実際、アメリカミズアブの幼虫はすでに家畜の飼料として使用されており、昆虫食の世界では珍しい存在ではない。

今はまだヒト向けの食材として開発されていないが、教授は「将来的には、ハンバーガーのパテやソーセージの肉として、部分的に使用することを考えるべきである」と述べている。

昆虫は環境・食糧問題をクリアにするスーパーフード

昆虫食が叫ばれる背景には、温室効果ガス削減と人口増加による食糧問題がある。

牛をはじめとする家畜生産の過程では、膨大な量の温室効果ガスが発生される。飼育には広大な牧地と飼料が必要であり、牧地開拓のために森林が伐採されていることも問題となっている。また、2050年には世界人口が100億人に達し、2030年を境にタンパク源の供給量が需要量を下回るという予測も出ている。

昆虫は、それらの問題をさらっとクリアする。たとえば、コオロギの飼育を牛のそれと比較すると、同量のタンパク質生産のために必要な土地は牛の3/40、飼料の量は1/5500で、発生する温室効果ガス量は1/28だという。さらに、コオロギのメスは1回の産卵で100個の卵を産み、約1ヶ月半で成虫になる。主に穀類や野菜を食べることから、食用としてのクリーン性も高い。

「虫を食べる」ことへの心理的ハードルを除けば、昆虫は未来の人類を救うスーパーフードにもなり得るだろう。

欧州の食料機関が「安全食材」として承認

伝統的に虫を食さない西洋諸国でも、昆虫を食材として認める動きが相次いでいる。

今年1月、イタリア・パルマに拠点を置くEUの専門機関である欧州食品安全機関(EFSA)は、ミールワーム(ゴミムシダマシの幼虫)をタンパク質や脂肪、繊維が豊富な「安全な食材」として認定した。

EFSAには他にも認定申請中の昆虫が14ほどあるが、ミールワームはその認定第1号となった。主にミールワームは粉末にされ、パスタや麺類、プロテインバーなどに利用されている。

カナダ食品検査庁は昆虫を「ノベルフード(新規食品)」として認めており、スウェーデンの食品安全局も2020年11月に食品として認可した。

大手メーカーの参入やスーパーでの販売も続々

大手食品メーカーでも、昆虫を取り入れる動きは活発だ。ネスレのペットケアブランド「ピュリナ」は、昆虫を使った新しいラインBeyond Nature’s Proteinを立ち上げた。同ラインには、鶏肉・ソラマメ・アメリカミズアブの幼虫を使った犬・猫用のフードがある。昨年11月にスイスで発売され、国内大手スーパーCoopにも卸されている。

スイスの老舗食肉加工会社「Micarna」は、昆虫食を使った商品開発に着手。ミールワームを30%配合したバーガーパテや、粉末コオロギを使ったミートボールを製造している。

英国の昆虫食スタートアップEatGrubが製造するクリスピーな昆虫スナックは、国内の大手スーパーSainsbury’sやドイツのディスカウントチェーンLidlなどでも販売し、シェアを拡大しているという。

アメリカの調査会社Global Market Insightによると、食用昆虫のマーケット規模は2019年時点で1億1,200万米ドルを超え、2026年までに年平均47%以上の成長が期待されている。今はまだ「ブルーオーシャン」だが、今後は競争の激しい「レッドオーシャン」に変貌していくかもしれない。

昆虫由来の代替タンパク質を開発

市場の拡大とともに、投資家から資金も集まってきている。昨年12月、スウェーデンのフードテックスタートアップ「Tebrito」は、事業拡大のため80万ユーロ(約97万米ドル)の資金調達をしたと発表した。投資ファンドを含めると、調達額は総額125万ユーロ(約150万米ドル)にのぼるという。

Tebritoはスウェーデン農業大学の協力のもと、2年間かけてミールワームから油とキチンを分離する技術開発に取り組んできた。結果、無味無臭で含有率88%の代替タンパク質の製造に成功した。

同社によると、食物としての昆虫の魅力は「家畜に比べて簡単に生産でき、資源を必要しないこと」だという。Tebritoの生産施設は屋内に設置した垂直型のトレイであり、必要なスペースは少ない。生産過程で極力無駄を省き、カーボンフットプリントを最小限に抑える努力をしている。

Tebritoの昆虫由来タンパク質には多くの期待が寄せられ、現在は北欧の食品メーカーと共同で商品開発に取り組んでいるという。

育てて食べる「昆虫食キット」

昆虫食のバリエーションが広がる中、ひと際ユニークな商品が登場した。2020年、英国のスタートアップBeoBioは、自分でミールワームを育てて食べる「昆虫食キット」を発売した。

BeoBioの昆虫食キット「Re_」は、生きたミールワーム100〜300gが小さな飼育トレイに入った状態で注文者に届けられる。注文者はトレイ内でミールワームを育て、「食べごろ」に成長したら、自分で調理をしていただく。

挑戦的ともいえるこのアイデア。昨年7月に行なったクラウドファンディングでは、開始後7時間で目標額を達成。その斬新さに多くの注目が集まった形だ。

BeoBioは、英国ラフバラー大学に通うThomas Constantが、在学中に立ち上げたスタートアップだ。食肉生産における環境汚染を解決したいと考えたThomasは、昆虫食に着目。「地球環境を損なうことなく、持続可能な食品を生産・消費する」というミッションを掲げ、アイルランドゲール語で「food for life」を意味するBeoBioを社名につけた。

持続可能な食糧サイクルを体験

都会に住んでいる人々とって、自分で「食べものを捕まえる、取りに行く」という機会は皆無に等しい。多くの人は食料生産と切り離された日常を送っている。Re_では、生きた虫(食材)を自分で育て、獲って、調理し、食べて、土に戻すという、食の一連のサイクルを体験することができる。

Re_自体もゼロウェイストな循環型商品である。ミールワームのエサには、料理の際に出る野菜の皮や切れ端を与える。糞は植木の肥料として利用でき、飼育トレイはでんぷん由来のバイオプラスチックのため、土に戻すことが可能である。Re_は、都会や自宅にいながら、持続可能な食糧サイクルを手軽に体験できるキットなのである。

ちなみに育ったミールワームは、焼いてピザにトッピングしたり、粉にしてスムージーに混ぜたりするのがおすすめだそうだ。同社のサイトには、ミールワームの調理法を紹介したレシピブックも販売されているので、気になる方はチェックしてもいいかもしれない。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit

<参考>
https://www.sustainability-times.com/green-consumerism/yummy-fly-larvae-could-be-an-ecofriendly-and-nutritious-foodstuff/
https://www.dw.com/en/eu-food-agency-approves-mealworms-as-human-food/a-56216471
https://thespoon.tech/swedish-edible-insect-startup-tebrito-raises-e800000/
https://www.foodanddrinktechnology.com/feature/34232/edible-insects/