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SDG16と司法サービスにおける効率性
「すべての人に司法へのアクセスを提供する」ことを目標とする持続可能な開発目標(SDGs)16。この目標実現において、司法サービス/プロセスの効率性改善は重要課題の1つといえるかもしれない。
奇しくも、司法分野ではAI・ロボットの活用が増えており、目をみはる成果をあげている。
たとえば、イスラエルのリーガルテックスタートアップLawgeexのロボット弁護士は、人間の熟練弁護士を上回る精度とスピードで、秘密保持契約書(NDA)のリスク分析を実行することができる。
Lawgeexは2018年に、米国で数十年の経験を持つ企業弁護士20人と同社ロボット弁護士の精度・速度を競う実験を行ったところ、企業弁護士の精度が平均で85%だったのに対し、ロボット弁護士は94%の精度を達成。
また、5件のNDA分析に要した時間は、企業弁護士の平均が92分だったのに対し、ロボット弁護士は26秒と圧倒的なスピードで分析を完了したのだ。
Hacker Noonの調査では、この結果を受けて、弁護士らの間では定型的な分析作業から開放され、より複雑な課題に取り組める時間が増えるとポジティブな意見が聞かれたと報告されている。
司法へのアクセス、その敷居を大きく下げるスマホロボット弁護士
Lawgeexは法人向けのロボット弁護士だが、一般消費向けのロボット弁護士も登場しており、司法へのアクセスは以前に比べ格段に容易になりつつある。
現在23歳の起業家ジョッシュ・ブローダー氏が17歳のときに立ち上げたDoNotPayは、フードデリバリーの返金、駐車違反の異議申し立て、オンラインサービスの利用停止など、日常でよく起こる問題を取り扱うロボット弁護サービスを提供するスタートアップだ。
一般消費者にとって、弁護士を雇ったり、裁判を起こすことは、資金面や知識面から容易ではない。しかし、オンライン/スマホアプリを通じて利用できるロボット弁護士であれば、敷居は大きく下がるであろうことは想像に難くない。実際英語メディアSifted(2020年12月7日)によると、DoNotPayのユーザーは、米国を中心に、このところ毎月10万人増加しているという。
具体的にどのような弁護士サービスを展開しているのか。
主要サービスの1つが駐車違反に対する不服申立て代行サービスだ。駐車違反の標識が木々で見えなかったり、罰金額が間違っている場合、不服を申立てることができる。しかし、書類準備の手間を惜しんで、不服申立てを行わないことがほとんど。DoNotPayのロボット弁護士は、利用者との質疑応答を通じて書類を自動作成してくれる。
このほか、航空チケットの返金、サブスクリプションサービスの停止なども取り扱っている。
カスタマーサービスの言い逃れは即時ソーシャルメディアでシェア
また2019年末には「Skip Waiting on Hold」という機能を追加。
商品やサービスの不備・不足があった場合、カスタマーサービスに電話し、返金などの対応を求めることになるが、自動受け付けで何分も待たされることがほとんどだろう。また、たらい回しにされることも少なくない。
「Skip Waiting on Hold」は、当該企業の電話番号をアプリに登録すると、DoNotPayが代わりにその企業に電話し、人間の担当者に代わったところで、利用者に電話をつなぐ機能。自動受付で時間を無駄にせずに済む。
この機能、通話の録音もしており、カスタマーサービス側が言い逃れをしようとした場合、その通話記録を即時ソーシャルメディアにシェアすることも可能だ。
通常であれば、企業側が「通話の録音」をしており、消費者側は身構えてしまう。しかし、消費者側も通話録音することにより、対等な立場に立てる施策といえる。
違法な迷惑電話にリベンジするロボット弁護士
さらに、2020年2月には迷惑電話撃退ロボット弁護士「Robo Revenge」をローンチ。
米国などでは、自動システムを使った迷惑電話が横行している。中には巧みに、クレジットカード番号を聞き出すものもあり、個人情報の流出につながる社会問題として深刻化している。
迷惑電話防止テクノロジー企業First Orionの分析によると、2017年米国の全通話における迷惑電話の割合は3.7%だったが、2018年には29%以上に拡大。2019年には50%に達すると推計していた。
米国では連邦政府が運営する「Do Not Call Registry」というデータベースがある。ここに電話番号を登録しておくと、マーケティング目的の電話は違法となり、個人は迷惑電話をかけてきた企業(米国所在)を告訴することができる。しかし、法律上は訴えることができても、実際は書類の準備などから、泣き寝入りするケースがほとんど。
Robo Revengeは、文字通りそのような迷惑電話に悩まされる消費者の代わりにリベンジするために登場したロボット弁護士だ。
Robo Revengeを利用すると、まず利用者の電話番号はDo Not Call Registryに登録される。もし迷惑電話がかかってきた場合、利用者はDoNotPayが発行する仮のクレジットカード情報を迷惑企業に伝える。
そのクレジットカードによるトランザクションが起こった場合、ロボット弁護士は、その迷惑企業の情報を収集し、米国通話消費者保護法(TCPA)違反で訴える書類を自動で作成してくれるのだ。これにより、消費者は3,000ドルを求めることができる。
ブローダー氏は、現在の司法サービスについて、特に米国ではお金があるほど、より多くの権利を持つことができる状況であり、公平ではないとの意見を持っている。月額3ドルで利用できるDoNotPay。このようなロボット弁護士は「すべての人に司法へのアクセスを提供」する上で欠かせない存在といえるのではないだろうか。
文:細谷元(Livit)