東京、パリ、ニューヨーク――常に何かが起こっている世界のメトロポリタンは、ビジネスや文化活動が盛んな場所としてエキサイティングな魅力に満ちている。

しかし、その一方では高騰する家賃や物価、押し寄せる観光客による混雑や汚染といった弊害も目立っているほか、新型コロナウイルスの拡大で自宅生活が中心になると、高い家賃を払って大都市に住む必要性に疑問を持つ人たちも出てきた。

そんな中、注目されているのが「小都市インデックス」。人口25万人以下の小都市を対象としたこのインデックスは、都市生活のクオリティを失うことなく、スケールダウンした街で新たなスタートを切りたい人たちの指標となっている。どのような都市が評価されているのだろうか?

ライフスタイルマガジン『Monocle』による「小都市インデックス」は、大都市の生活クオリティを保ちながら、自然やスペースを楽しめる都市にフォーカスしている(写真:Monocle)

ランキング首位はポルト市

「小都市インデックス」は、イギリスのライフスタイルマガジン『Monocle』が調査しているもので、今年で2年目となる。人口25万人以下の都市を対象に、外国・他都市からのアクセス、市長のリーダーシップ、外国人の住みやすさ、自然環境、ビジネス機会を総合評価している。今年のランキングは以下の通り。

  1. ポルト(ポルトガル)
  2. ルーベン(ベルギー)
  3. 糸島(日本)
  4. ルツェルン(スイス)
  5. ビクトリア(カナダ)
  6. ローザンヌ(スイス)
  7. バーゼル(スイス)
  8. ボルツァーノ(イタリア)
  9. オールボー(デンマーク)
  10. ベルゲン(ノルウェー)
  11. アイントホーフェン(オランダ)
  12. ヘント(ベルギー)
  13. バーリントン(アメリカ)
  14. インスブルック(オーストリア)
  15. ヴィ―スバーデン(ドイツ)
  16. 青森(日本)
  17. バース(イギリス)
  18. 台東(台湾)
  19. フローニンゲン(オランダ)
  20. アヌシー(フランス)

以下、上位3位の都市の特徴を見てみよう。

ポルト:クリエイターが集まる古い港町

首位となったのは、ポルト市。ポルトガル北部に位置する歴史ある港町で、甘くて濃厚なポルトワインが有名だ。人口22万人のこの小都市では、勤勉でビジネスマインドの強い市民が活発な経済活動を繰り広げているが、コミュニティ感覚は大切にされており、ランチには同僚とポルトワインを楽しむ人々の姿がみられる。

中世の曲がりくねった小道を歩けば、古いポルトガルのタイル張りの建物や廃屋に最先端の家具やファッションのギャラリーが軒を連ねる。街には芸術や工芸品が溢れ、海外からも多くのクリエイターが集まり、国際的で活気ある雰囲気を街に与えている。

ポルトから南行きの電車に乗れば、スペインにも楽々アクセス。国際空港も車で20分と便利な立地でもある。ポルト市長のルイ・モレイラ氏は市長として高く評価されているほか、ポルトガル北部の経済的地位を高めた政治家として、全国でも評価が高いという。

ポルトは古い港町だが、新しいクリエイティビティに満ちている(写真:Monocle)

ルーベン:若者の活気あふれるイノベーティブでサステナブルな街

首都ブリュッセルや国際空港から電車でわずか20分。人口10万人の小さな町だが、ヨーロッパで最も古く、最も有名な大学の1つであるルーベン・カトリック大学があり、グローバル志向の強い若者の活気であふれている。

「ステラ・アルトワ」などビール醸造所が30カ所もあり、ナイトライフで世界クラスのビールが楽しめるのも魅力。

ヨーロッパ有数のテクノロジー、イノベーションハブでもあり、ビジネス機会が豊富なことから海外からも多くの専門家が集まる。街の住民の国籍は、171カ国に及ぶ。多くの住民が英語を話せるほか、海外から移住した外国人やその家族に対し、住宅や社会統合、雇用機会の面でサポートも厚い。

モハメド・リドゥアーニ市長は進歩的で、街のイノベーションとサステナビリティの促進に積極的。

彼は市内中心部の自動車を一掃するためのモビリティ計画で、街の歩行者ゾーンと新しい自転車レーンを設置し、バスのネットワークを拡充。これにより、わずか1年の間に市民の自転車での移動回数が32%増加し、空気がきれいになり、子供や高齢者が歩き回るのに安全な環境を作り出した。

同市は「ルーベン2030」計画の中で、600以上の組織を結集して、気候変動の影響に対処するための取り組みを支援する方針だ。

人口10万人のルーベンは、世界中から優秀な人材を惹きつけるイノベーションハブとなっている(写真:Monocle)

糸島:大都会と自然の狭間、食生活も充実

福岡県西端の半島に位置するこの街は、人口約10万人。自然と都市生活の両方が楽しめる生活クオリティが評価されている。ここでは糸島ブランドの豚肉、牛肉、鶏肉、有機農産物が生産されているほか、玄界灘で獲れる美味しい安価なシーフードも魅力的だ。

酒屋や製塩業者、 そして若い農民が集まり、小規模ながらもクオリティの高い製品を提供。工芸文化への投資も積極的で、多くのクラフトマンや訪問者を惹きつけている。今やバイヤーが東京や大阪から訪れる街にもなっている。

市の周辺ではサイクリングロードがあるほか、サーファー天国として知られる二見ケ浦のビーチや人気のハイキングスポットである立石山もあり、豊かな自然に恵まれた環境。一方で、福岡市や国際空港へは車で35分のアクセス。糸島に住んで福岡で働く人、糸島でビジネスを起こす人、どちらにも便利で快適な環境を提供している。

糸島は都会生活と自然を両方楽しめるロケーションと地元ブランドの農畜産物が評価されている(写真:Monocle)

サステナブルな環境は人を集める

上位3都市に加え、4位以下の都市にも共通しているのは、大都市や外国へのアクセスがよく、経済活動が活発である一方、周りは自然が豊富で、きれいな空気や余暇のレジャーが楽しめる環境にあることだ。

市のリーダーたちが主導するサステナブルな環境づくりに対する評価も高い。前述のようにルーベン(ベルギー)で歩行者や自転車に優しい街づくりがなされているほかに、8位のボルツァーノ(イタリア)は「自転車フレンドリー」な街である上、公共交通網で周囲のハイキングコースやスキー場へのアクセスも良い。

同市はレンゾー・カラマッシ市長のイニシアティブで、向こう10年間で二酸化炭素排出量を半減させる目的で、再生可能エネルギーへの投資を加速しているという。

ボルツァーノは自転車道が整備された「自転車フレンドリー」な街(写真:ウェブサイト「Bolzano Bozen」より)

20位までにランクインしているオランダの2都市もサステナブルな取り組みを強化している。

北部に位置するフローニンゲンでは、市の中心部から自動車を一掃。現在、市民の移動の60%は自転車となっている。同市では天然ガスが重要な稼ぎ手になっていたが、ガス採掘により引き起こされる地震の弊害が大きく、天然ガスの採掘は段階的に廃止されている。この経済的打撃を埋めるため、現在は文化活動に重きを置いているのも人気の背景にある。

またオランダ南部のアイントホーフェン市は世界で最も早く「電気バス(eバス)」を導入した都市。市内への自動車数を減らすため、市の周辺に「モビリティ・ハブ」を作り、そこで高速道路を下りた車を駐車して、「eバス」や「eクーター」に乗り換えて市内に移動できるような仕組みづくりに取り組んでいる。

若者が集まる活気ある街

ルーベンをはじめ、街の大学が若者の活気を生んでいるところも多い。

6位のローザンヌ(スイス)や9位のオールボー(デンマーク)、11位のアイントホーフェン(オランダ)、12位のヘント(ベルギー)、13位のバーリントン(アメリカ)、18位の台東(台湾)などは、大学が街の看板的存在になっており、世界中から集まる若者たちが国際的でオープンな、活気ある街の雰囲気を形作っている。

さらに、こうした大学の卒業生に対して、豊富な就職や起業のチャンスを提供している街も多い。

例えば、ルーベンやアイントホーフェンは都市と企業、大学の連携でイノベーションを支援しており、大学発のスタートアップ企業も注目されている。特にテクノロジー系の企業が多く、世界中から専門家を惹きつけているのもこれらの都市の特徴だ。

アイントホーフェンでは毎年秋に「Dutch Design Week」が開催される(写真:筆者撮影)

テクノロジー以外では、文化・芸術活動が盛んなのも人気小都市の特徴。

首位のポルト、3位の糸島が多くのデザイナーやクラフトマンを惹きつけているほか、アイントホーフェン(オランダ)は世界的に有名な「デザイン・アカデミー・アイントホーフェン」を中心に「デザインの街」としてのプレゼンスが高い。

また、10位のベルゲン(ノルウェー)もアート、クラフト、デザイン関連に力を入れており、コロナ禍により打撃を受けた文化セクターに向けて2770万ユーロ(約34億円)の支援金を確保したという。

一方、5位のビクトリア(カナダ)は、大学生のみならず、若い家族や外国人の誘致に成功している。

これまで同市は「落ち着いた政治の街」といったイメージが強かったが、リサ・ヘルプス市長のイニシアティブで導入した、子供向けの無料バスパスや市内の自転車レーン拡大が奏功し、「若い街」に変貌したことが評価されている。

コロナで再評価される住環境

新型コロナウイルスの影響で外出が制限され、自宅生活が中心となる中で、2020年は住環境が再評価される年となった。

リモートワークも定着してくると、大都市のオフィスの近所に住む必要はなくなり、人々はより大きなスペースと、新鮮な空気のある静かな住環境を求めるようになってきた。実際に大都市から郊外や田舎に引っ越す人も増えてきて、ロンドンやニューヨークなど、大都市の家賃は下がってきているという。

大都市の生活クオリティを下げずに、バランスの取れた都市生活を送れる上記の小都市では、すでに人口増も見られ、家賃も決して安くはない。しかし、それでも大都市に比べると家賃は安く、古い由緒ある中心部の建物でもまだ市民の手の届く範囲にある。

コロナ禍の状況を受け、『Monocle』は今年のインデックスについて、「これまでより重要になったと信じている」と述べている。このインデックスは、留学や引っ越しを考えている人にとっての指標となる以外に、私たちの住環境を考えるきっかけを与えてくれる。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit