ECサイトでも実店舗でも、いつでもどこでも同じ商品が買えるようになってきた。こういった意味では国内でもオムニチャネル化は進んでいる、といえるかもしれない。しかしECサイト・実店舗をより深く連携させ、顧客に最適な購買体験を提供するのが真のオムニチャネルとすれば、それが実現できている企業は少ないのではないだろうか。

「同じ商品が買える」という以外に、ECサイト・実店舗において特段の連携が感じられる機会は少ない。そんな中、大手衣料品メーカー「ワコール」がオムニチャネルに関する新しい戦略を打ち出した。

ワコール、顧客の購買活動を促進させる独自のオムニチャネル戦略を開始

ワコールは多様化する顧客の購買活動により柔軟かつ迅速に対応するため、独自のオムニチャネル戦略を推進しており、新たなサービスを開始すると発表した。

このオムニチャネル戦略では、実店舗での顧客サービスをデジタル技術により刷新し、実店舗とECサイトとの連携を図る。これによって、顧客一人一人と「より深く、広く、長く」つながる環境を作ろうというのが、ワコールの狙いだ。

そのために、まず販売チャネルやアイテムごとに独立していた顧客や在庫・商品といったデータを、全社一括での管理とする。これによって顧客ごとにパーソナライズされたワコール独自のサービスを実現するということだ。

なお店舗とECサイトの連携に関しては、卸先の一部百貨店と開始済とのこと。今後、ECサイトがない下着専門店とワコールのECサイトとの連携も順次開始する予定だ。

最先端のデジタルツールで新たなサービスを提供

ワコールでは、顧客がワコールのインナーウェアをより快適に体験・検索できるようにするためのデジタルツールの提供を予定している。現在開発中のデジタルツールは以下のとおり。

  • 3Dボディスキャナー

    ワコール独自の計測技術を3D計測器に適用し、正確なサイズ計測と最適な下着サイズ提案を実施。サイズ計測に関する顧客のストレスを解消する。
  • 接客AI

    販売員の商品知識や日々の応対内容をAIにインプット。このAIによってどこでも自分に合った商品の検索が可能となる。
  • パーソナライズアプリ

    顧客ごとのサイズや購買データを記録し、それをもとに美のアドバイスなどの情報を提供。よりインタラクティブな顧客との関係を構築する。

これらのツールの提供は、顧客の心や身体に関する膨大なデータの蓄積も目的にしているとのこと。それによって新しい商品やサービスの開発へつなげる。なおワコールでは、これらのツールを、2019年の春以降に使用開始する予定とのことだ。

オムニチャネル戦略の基盤となるデータベースとIoTは構築済

オムニチャネルで重要となるのは、顧客データの集約だ。その点、ワコールでは以下の基盤となるデータベースの構築を完了しているとのこと。

  • 顧客データの一元化

    直営店・自社ECサイト・得意先の顧客データを一元化。また実店舗での毎年約50万人分にもなるサイズ測定の結果をデータベース化。
  • 在庫データの一元化

    各所に分散していた在庫や商品に関する情報を統合。また各チャネル・店舗と本社の在庫データを直接的に連携させた。

またオムニチャネル戦略の一環として、ワコールではタブレット端末での接客業務支援を一部店舗で試験運用している。具体的な実施内容は以下のとおりである。

  • 顧客カルテの電子化

    紙で管理されていた顧客カルテをデータベース化。顧客対応の精度向上や、販売員の労働時間の削減などの効果が期待される。
  • 接客支援タブレット導入

    接客技術支援ソフトを使い、顧客に対する提案力を高め、購買機会の拡大を目指す。またタブレットで本社と店頭の在庫情報を連携させ、販売機会のロス削減や商品発注機能の向上を図る。

試験運用を実施している店舗では、接客以外の業務時間が削減され販売員の業務効率が高まるなど、さっそく効果がでているという。ワコールでは、本年度中にも本格的な運用を開始する予定だ。

オムニチャネルによる新たな購買体験に期待

ワコールの新しい戦略では、ECサイト・実店舗の境界をなくしたデータの統合を実現した上で、顧客の購買体験を最適化するという意味において、国内でのオムニチャネルを一歩先へ進めているといってよいだろう。

今後のマーケティングにおいてオムニチャネルという取り組みはトレンドとなっていくかもしれない。

img:TAYLOR STITCH