先日、父から実家の車を買い換えると言われた。日産の電気自動車(EV:ElectricVehicles)「リーフ」がもうすぐ納車されるそうだ。
普段、環境問題などを口にすることのない父が新車の電気自動車を買うほどに、EVが身近になってきていることに驚いた。
最近でこそ、街中でEVや充電スタンドを見るようになってきたが、日本においてのエコカーと言えば、ハイブリッドカーが主流。2015年6月に閣議決定された「日本再興戦略改訂2015」では「2030年までに新車販売に占める次世代自動車の割合を5割から7割とすることを目指す」とされ、EVは次世代自動車の1つという立ち位置だ。
世界規模で大気汚染の解決は待ったなし
インドでは、国内で販売するすべての自動車を2030年までに電気自動車のみにするという政策を発表した。ソフトバンクはEV充電用の太陽光発電の投資先としてインドを選んでいる。今後、インドではEVの市場が大きく成長していくだろう。
インドと同様に、人口の多い中国でもEVの販売が急増している。国際エネルギー機関の報告によれば、EVの世界累計販売台数約200万台のうち65万台を中国が占める。
インド政府が政策としてEVの普及を進めたり、中国でのEV販売を拡大している背景には、深刻な大気汚染の問題がある。健康影響研究所(HEI)によれば、2015年に大気汚染で亡くなった人は全世界で420万人を超えるが、中国とインドが220万人と半数以上を占めるという報道がある。
両国では、経済の拡大により、街に向かう通勤者の移動や流通などを支える交通量が急増し、エネルギーの需要に従い化石燃料での発電も増え、大気汚染が深刻になっている。
大気汚染は、他の新興国においても大きな問題であり、EVの普及に積極的に取り組む国もある。レポートによれば、タイのエネルギー省は、2036年までにEVを120万台に増加させる目標を掲げており、充電ステーションを少なくとも 700~800カ所、最大で1,000カ所整備する予定としている。
ヨーロッパを見てみよう。ノルウェーは、 全乗用車台数260万台のうちEVが約7万台。EVシェア2.7%で世界一だ。オランダでは9万台弱のEVが走り、1.1%のシェアで世界2位。環境大国のドイツでは2020年までに100万台のEVを普及されせる目標を掲げたが、メルケル首相が達成できない見通しであることを伝えた。新興国から届く革新的なニュースと比べるとトーンダウンは否めない。
トップダウンな決定が、社会問題を解決する
EVを普及させるには、インフラを整備し直す必要がある。ガソリンを中心とする内燃機関用に整備されたガソリンスタンドが全国に整備されているからこそ、今の車社会がある。EVの普及には、電気スタンドが欠かせず、現状の日本でも長距離移動や地方に行く際には不安が残る。
電気スタンドの普及も課題だが、充電時間も課題だ。現状、道の駅やガソリンスタンド、高速道路のサービスエリアなどに置かれている急速充電設備では、ほぼ空に近い状態から80%まで充電するのに30分ほど。家庭に設置できる普通充電設備だと8時間ほどかかってしまう。「レギュラー、満タンで。」という気軽さには程遠い。
新興国でのEVの強い後押しは、トップダウンで大胆な方向転換ができる新興国だからこそ可能なことだ。圧倒的な人口を持つ、中国とインドであれば、既得権益を捨てて、新しい技術やアイデアを大胆に支持できる。
インフラも全国で整備しきっているわけではないので、方向転換もしやすいだろう。一度、出来上がったインフラを別のものに換えていくよりも、新しく導入するほうが抵抗は少ない。新興国の大気汚染は目に見えて急激に悪化しており、命に関わる問題であることから大胆な政策だとしても国民の理解を得やすいという利点もある。
社会問題や環境問題も、マーケットとして考える時代が来ている。とくに環境問題は新しい技術革新によるところもあり、シェアをとることができれば企業にも大きなメリットがあるだろう。
最近ではイーロン・マスクが太陽電池を使った強力な出力の急速充電システムを開発中というニュースもある。この技術があれば、電気スタンドの設置場所に関してのハードルが低くなり、EV普及の起爆剤にもなりうる。
最新技術と、新興国のメリットを活かせば、先進国では成しえない大きなイノベーションが可能になる。サステナブルな社会の仕組みを新興国が牽引していく未来は、そう遠くないかもしれない。