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「電子国家」といえばエストニアをはじめとする北欧の国々が有名だが、先日驚くべきニュースが飛び込んできた。
OECD(経済協力開発機構)による2019年電子政府調査レポートによると、第3位に南米の「コロンビア」がランクイン。欧米諸国や日本、韓国などが上位を占める中、堂々3位に食い込んだ。
日本ではあまり知られていないが、近年ラテンアメリカでは急速にデジタル化が進んでいる。テックスタートアップが続々と名を挙げ、世界中の投資家から「スタートアップ新大陸」として、熱い視線が注がれている。
世界トップクラスのインターネット利用時間
ラテンアメリカのデジタル化は、人々のネットに対する意識も関係している。
英国のSNSマーケティング会社We Are Socialは、「Digital in 2019」で世界40カ国における1日のインターネット利用時間を調査した。その結果、2位にブラジル(9時間29分)、4位にコロンビア(9時間00分)がランクイン。
トップ5の他3カ国は、フィリピン(1位)、タイ(3位)、インドネシア(5位)と、上位を中南米と東南アジアが独占した。中南米の大国アルゼンチンとメキシコもトップ10入りしている。ちなみに世界平均は6時間42分で、日本はランク外の3時間45分であった。
この結果からわかるように、中南米地域のインターネット利用率は圧倒的である。ネットに対する親和性の高さは、行政や企業によるオンラインサービスへのハードルが低いことを意味する。
“成長マーケット” 東南アジアとの類似性
ラテンアメリカは、ネットの利用時間以外にも東南アジアと多くの共通点がある。
中南米の人口は約6億5,200万人で、東南アジアの6億5,500万人とほぼ同等である。また、両エリアとも総人口に対する若年層の割合が高く、デジタルネイティブが多数を占めている。
銀行口座の保有率が低いことも共通している。東南アジアは国の経済格差によりバラつきがあるが、平均すると47%程度だ。一方、中南米でも金融機関の口座所持率は約50%であり、全体的に見ると同程度と言っていいだろう。両地域は都市圏でのモバイル普及率が高いことも共通している。
東南アジアでは、脆弱な金融インフラの上に携帯電話が爆発的に普及して、ここ数年でフィンテックは一気に加速した。携帯電話ひとつでどこからでも簡単に送金できるサービスは、都市部で働く家族と農村部をつなげる手段として、今やなくてはならない存在である。
同様の現象は中南米でも期待できる。フィンテック市場を狙う新興企業にとって、中南米は “おいしい” マーケットであることは間違いない。
コロンビア政府の国家デジタル化計画「ViveDigital」
話をコロンビアに戻そう。人口約5,000万人、実質GDP成長率2.6%(2018年)のコロンビアは、中南米で4番目の経済大国である。コロンビア政府の「DX」が高い評価を受けた背景を探ってみると、10年前まで遡る。
2010年、コロンビア政府は国家デジタル化計画「ViveDigital」を発表。「ViveDigital」は、2010年から4カ年に渡る包括的なデジタル技術開発計画であった。国全体のインターネット普及とデジタルエコシステムの構築を目指して、政府が主導してデジタル化を進めた。
ネットの普及は、雇用の創出や貧困の削減と密接な関係がある。コロンビア大学の調査によると、チリではネット普及が10%増加するたびに失業率が2%減少するという結果が出た。デジタル化は社会問題の解決にもつながるのである。
目指すは「ラテンアメリカのシリコンバレー」
2020年、コロンビアのドゥケ大統領は同国を「ラテンアメリカのシリコンバレーにしたい」と言及した。
同政権解散の2022年8月までに、国民の70%が高速インターネットにアクセスできるようにすることを目指している。
またコロンビア政府は、教育、医療、不動産、税制等のデジタル化をさらに進め、貧困層を含めた国民全体のデジタルリテラシーを高めたいとしている。
ソフトバンクも10億ドルを投資。テックユニコーン「Rappi」
現在、コロンビアには300を超えるテックスタートアップがある。中でも突出しているのが、デリバリープラットフォームの「Rappi」である。
2015年に3人のコロンビア人起業家が始めたRappiは、瞬く間にユニコーンへと成長。あらゆるタイプのモバイルデバイスに適応させ、シームレスなサービスを提供することでユーザーを獲得していった。
次第に外国人投資家の注目も集めていき、2019年ソフトバンクは同社に10億ドルを出資した。いち早く中南米市場に目を光らせていたソフトバンクは、50億ドルのファンド(うち10億ドルはRappiへ投資)を設立している。
Rappiユーザーは、アプリを通してレストラン、スーパーマーケット、薬局などから、さまざまな商品を購入することができる。自社のモバイル決済「RappiPay」も導入し、オールインワンのサービスを展開している。
注目すべきコロンビアのテックスタートアップ4社
ここからは、コロンビアの注目テックスタートアップ4社を紹介する。
コロンビアはスタートアップエコシステムも充実しており、特に首都ボゴタは多くのスタートアップが集まるハブシティとして賑わっている。ボゴタはニューヨークから直航で5時間とアクセスがよく、米国からのさらなる投資も期待されている。
ラテンアメリカ初の非接触型レストランを開業「MUY」
必要食品量をAI予測することで、フードロス問題を解決しようとするフードテックスタートアップ。
現在コロンビア、メキシコでクラウドキッチンを展開しており、ブラジルでもパイロット運転を行っている。2019年、メキシコのベンチャーキャピタルALLVPの資金調達ラウンドで1,500万ドルを調達した。
2020年7月、ボゴタにオーダーから支払いまですべてを無人で済ませられる、ラテンアメリカ初の「コンタクトレス・レストラン」を開業して話題を呼んでいる。
企業向けオンライン学習プラットフォーム「Ubits」
企業向けオンライン学習を提供する、ラテンアメリカ最大のビジネストレーニングプラットフォーム。
中南米全体を網羅しており、マーケティング、販売、接客、カスタマーサービスなど、ビジネスに関するさまざまなコースを用意している。
現在のコース数は200以上で、1万人以上の受講生が在籍している。
レストランと生産者のB2Bマッチングサービス「Frubana」
ボゴタ拠点のアグリテックスタートアップ。飲食店や小規模小売業者と生産者を直接つなぐ、B2Bプラットフォームを開発した。
Frubanaは、Monashees、GE32 Capital、Kairosからの投資により、2回の資金調達ラウンドで総計1,200万ドルを調達。同社は2018年の設立からわずか1年足らずで100人を雇用し、月平均50%の成長を遂げている。
現在コロンビアのほかメキシコ、ブラジルに事業拡大し、1,000を超えるクライアントを抱えている。
スペイン語の“方言”をAIが通訳「Vozy」
ラテンアメリカのほとんどの国がスペイン語圏だが、国によって表現やアクセントの違いがあり、商談に手間取ることも多い。
Vozyが開発したAI搭載の音声アシスタント「Lili」は、8つの地域の“方言”を通訳して、企業とクライアントのコミュニケーションをサポートする。
現在はチリ、メキシコ、プエルトリコ、コロンビアなど中南米15カ国で運用されている。
文:矢羽野晶子
企画・編集:岡徳之(Livit)