健康やボディメイクへの意識の高まりによって、フィットネスに関心を持つ人が世界中で増えている。日本でもフィットネス熱の高まりを受け、暗闇系フィットネス、個室パーソナルジムなど、次々と新たな形態のジムが現れた。

一方、ジム通いが困難になった今年のコロナ禍で、急速に盛り上がっているのがホーム・フィットネス産業だ。

ホーム・フィットネスというと、まず思い浮かぶのは、エクササイズ動画の配信や訪問パーソナルトレーナー。しかし、このところ米国で人気を集めているのは、高機能センサーやAIといったテクノロジーを駆使したホーム・フィットネス関連機器とサブスクリションでの遠隔トレーニングを組み合わせたサービスだ。

有酸素運動から筋力トレーニングまで、自宅でのトレーニングの質を飛躍的に向上させているホームフィットネス・テクノロジーの最新動向をお伝えする。

ハイテク化するホーム・フィットネス

自宅でのトレーニングで効果を出すのは簡単ではない(Jonathan Borba on Unsplash )

仕事や子育てに忙しい世代を中心に、ホーム・フィットネスに取り組んでみたという人は多いだろう。有酸素運動も筋力トレーニングも、インターネットで少し検索すれば様々なトレーニング動画を簡単に見つけることができる。

しかし、トレーニングの成果を出すとなると話は別だ。モチベーションの維持に加え、正しい負荷、正しいフォームで自宅トレーニングを行うのはなかなか困難だ。インストラクターを自宅に定期的に呼べる人も多くないだろう。

「モチベーション維持」「正しい方法で行うこと」、この二点はホーム・フィットネスの大きな課題だが、そこに革命的な変化をもたらしているのが、スマート・サイクル「Peloton」やAIと高機能センサー搭載のスマート筋力トレーニング機器「Tempo Studio」、「JaxJox」といったテクノロジー企業だ。

エクササイズライブ配信とスマートサイクルが有酸素運動をサポート「Peloton」

エクササイズライブ配信とスマートサイクルが有酸素運動をサポート(PELOTONより)

スマート・ホーム・フィットネスといえばこれ、というほどの大ヒットとなり、時価総額370億ドルを超える企業となった「Peloton」。

スタジオ・バイクエクササイズのライブ配信やオンデマンド配信を受けられるスクリーンを備え、リアルタイムで心拍数やエクササイズの負荷を追跡しグラフ化、フィードバックを返したり、ゴール設定をしてくれる自宅用スマートサイクルを提供している。

スマートバイクは2,200ドル以上、かつ月額40ドルの会員費と決して安い買い物ではないが、同居人と共有も可能で、提供するクラスもメインのバイクだけでなく、ヨガや瞑想、ストレッチ、筋トレまでカバーするというコストパフォーマンスの良さが人気だ。

ライブクラスのメンバーとの交流を自宅にいながら楽しめるという点も、モチベーション維持に効果的なのだろう。

しかし、有酸素運動以上にエクササイズ内容の追跡が複雑であり、自己流のトレーニングでは怪我すら引き起こすのが「筋トレ」。「Peloton」ではカバーしきれていない筋トレのパフォーマンス追跡を可能にするのが「Tempo Studio」だ。

3D動作解析と人工知能で自宅筋トレをサポート「Tempo Studio」

3Dモーションキャプチャーシステムと人工知能で筋トレをサポート(TEMPOより)

「Tempo Studio」は、遠隔クラスが受けられる点は「Peloton」と同じだが、筋トレにフォーカスしたサービスだ。

ダンベルといった筋トレ機器と一緒に届けられる大型のスクリーンでは、エクササイズ動画を視聴できるがそれだけではない。赤外線センサーがユーザーの3Dモデルを生成し、25個の関節を追跡することで、筋トレのフォームを分析する3Dモーションキャプチャーシステムと人工知能を搭載している。

適切な負荷や反復数、正しいトレーニングフォームといった、これまで自宅筋トレでは分かりづらかった点に、人工知能からリアルタイムでフィードバックを受けることが可能。それに加えて、ライブクラスではインストラクターからもフィードバックが提供されるようになっている。

こちらもダンベルやスクリーンを含む機器一式が1,995ドル、メンバーシップが月額39ドルと気軽に購入できる価格ではないが、オンデマンドやライブクラスに無制限にアクセス可能であり、同居人と共有が可能な点を考慮するとコストパフォーマンスは良いといえるのではないだろうか。

孤独になりがちな自宅筋力トレーニングの継続も助ける「Tempo Studio」

孤独になりがちな自宅筋力トレーニングの継続も助ける「Tempo Studio」(TEMPOより)

目に見える効果が出るまで時間がかかり、なかなかモチベーションが保ちづらいのも、筋トレで成果を出すのが難しい理由のひとつだが、その点でも「Tempo Studio」を利用するメリットは大きい。

インストラクターが参加者の名前を呼びかけ、励ます遠隔ライブクラスの評価は高く、利用者のレビューでは涙ぐむほど感動したという声もある。自分の進捗状況を他の参加者と共有し、励まし合いながら、トレーニングを進めることもできる点も魅力だろう。

筋トレ以外にも、高強度インターバルトレーニング(HIIT)やモビリティ、カーディオ、リカバリーなど数百のオンデマンドクラスが配信されている「Tempo Studio」は、現在ホーム・フィットネスの総合スタジオともいうべき存在になっている。

埋め込みセンサーで筋力トレーニングを分析「JaxJox」

機器に内蔵されたセンサーで筋トレをサポート(JaxJoxより)

この「Tempo Studio」の競合として期待されているのが、埋め込み型センサーでトレーニングを分析する「JaxJox」だ。

「Tempo Studio」との大きな違いは、スクリーンではなく、ダンベルといったトレーニング機器に内蔵されたセンサーで、ユーザーのトレーニングの負荷や反復数を追跡すること。スクリーンの前に限定されず、好きな場所でトレーニングできる自由度の高さが売りだ。

現在のところ、アップルフィットネスなどと連動したエクササイズの記録が主な機能だが、今後はパーソナライズされたトレーニングプランをユーザーに提供することも目指している。

パンデミックで加速するスマート・ホーム・フィットネス

センサー搭載のスクリーンやウェアラブルデバイスを活用したスマート・ホーム・フィットネス機器は、ここ数年、日本を含めた各国で次々と新しいサービスや製品がリリースされている。

そこに、今年のパンデミックでのジムの封鎖、ステイホーム下でのエクササイズ熱の高まりが追い風となり、さらなる盛り上がりを見せている。

ジムの会員になったものの時間の制約で通い続けられていない、自己流のホームエクササイズで腰や膝を痛めてしまった、効果が感じられない、そんな人たちにとって朗報なのではないだろうか。

文:大津陽子
企画・編集:岡徳之(Livit