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新型コロナウイルスの影響により、私たちの働き方や働く場所は大きく変化した。
スタートアップや中小企業のみならず、大企業もリモートワークを積極的に活用するようになり、オフィスではなく自宅で働く光景も珍しくなくなった。緊急事態宣言が解除された今年5月から6月にかけては特に、様々なメディアで「オフィス不要論」も叫ばれていた。
だが、本当にオフィスは不要なものなのだろうか。働く時間や場所がフレキシブルになることで、必要となるオフィスの姿も変化していく、というのが正確な捉え方ではないだろうか。今多くの企業には、ニューノーマルな働き方の実現に向けて、オフィス環境の再編成が求められている。
AMPではこれまで、小規模企業向けクオリティ スモール オフィス「H¹O(エイチワンオー)」を中心に、野村不動産が展開する事業について触れてきた。
成長戦略から逆算してオフィスを選べ。投資家・有安伸宏氏が見出す野村不動産のオフィス「H¹O」の価値(2020年3月30日掲載)
「H¹O」が体現する、新時代のワーキングプレイスとは(2020年7月8日掲載 )
今回は2020年10月にオープンした「H1O渋谷神南」にて、株式会社Kaizen Platform 代表取締役の須藤 憲司氏(以下、須藤)と野村不動産の桑原 利充氏(以下、桑原)との対談を通して、野村不動産が提唱する「オフィスポートフォリオ」の考えと共に、新時代のオフィスと働き方の最適化について語り合う。
コロナは私たちの働き方とオフィスをどう変えたか
ーーコロナによって私たちの働き方は大きく変化しました。コロナ前はどのような働き方をされていましたか。
須藤:私たちは2013年の創業以来からリモートワークを実施していて、自分自身、日本とアメリカを行き来しながら仕事をしていました。
コロナ前は40〜50人ほど社員がオフィスに来ていたのですが、今は日に5人くらいですね。言ってしまえば、オフィスって何だっけという状態です。
一方で、皆が集まる重要性も同時に感じていて、例えば入社した方のオンボーディングやカルチャー作りなどですね。そうしたニーズに対してオフィスは、重要なファクターとなっていたんじゃないかと思っているところです。
桑原:私は現在週に1〜2回ほど会社に出社するのですが、コロナ前は当たり前のように毎日オフィスに行っていました。働き方に合ったオフィスというより、オフィスに働き方をアジャストしていたという感覚があるかもしれません。
コロナ禍でリモートワークを経験して、その良い面も不便な面も体感しましたが、今は特に、企業のビジョンの浸透や、事業を進めていくうえでの社内・チーム内の意思疎通などにおいて、難しさを感じています。
須藤:オフィスを見直す、という動きも出てきていますよね。
桑原:そうですね、経営の合理化が進んでいるなと感じます。これまでは、数十名~数百名が入る中・大規模のオフィスが人気でした。皆で1か所に集まって働く、というスタイルがスタンダードであり、それについて疑問を持つような機会やきっかけがなかったからです。ですが今回のコロナ禍の経験がきっかけで、オフィスについて真剣に考え始める企業や人が増えているように感じますし、「H1O」のようなサービス付きのクオリティスモールオフィスや、サテライト型シェアオフィスの「H1T」に注目が集まっているのも、それが関係している気がします。
ーーコロナ禍の影響による経営上のコスト意識の変化という部分では、いかがでしょうか。
須藤:他の会社さんでも同じなのか分からないですが、交通費が経費に占める割合がこんなにも大きいとは思ってもみませんでした。本当にどれだけ使っていたのかと(笑)
また、やはりオフィスについて考える機会が増えました。オフィスを構えている以上、そこにどんな意味があるのか。どんな仕掛けを作ったら人に来てもらえるかを考えるようになりました。
社内の議論の中では、「集まること」の価値や重要性を見直すようになっている、というのが大きなところです。また、自分たちが使わなかったとしても、誰かに貸して利用してもらう方がいいんじゃないか?といった、床活用のアイデアも生まれています。
桑原:縮小経済と言われている中で、オフィスの固定費は人件費に次いでインパクトが大きいものです。
私たちのお客様は、須藤さんと同じように、「そもそもオフィスって何だっけ?」という議論からスタートして、どうしたらコスト効率を最適化できるか、その中でどうしたら働きやすい環境を作れるかを考えている方が多いです。そんな、オフィスの見直しをしたいという方に提案しているのが、「オフィスポートフォリオ」という考え方です。
オフィスポートフォリオ戦略とは何か
これまでオフィスワークと言えば、一つの場所に集まって仕事をするのが通例だった。しかし、「自宅で働く」「サテライトオフィスを活用する」というワークスタイルの考え方が浸透し、業種や職種、属性や立場によって、場所や時間に縛られずフレキシブルに働きたいという個人レベルの意識の変化や、「出社率が低いので面積を効率化したい」「固定費であるオフィスのコストを削減したい」「BCPの観点から拠点分散したい」といった企業レベルでの要望など、ワークスタイル・ワークプレイスに関するニーズの多様化はますます顕著になっている。
そこで野村不動産が提唱するのが、「オフィスポートフォリオ戦略」だ。オフィスポートフォリオ戦略とは、企業のニーズに合わせて、複数の拠点を最適な形で“組み合わせる”こと。
野村不動産が展開するオフィスブランド「PMO(ピーエムオー)」、「H1O(エイチワンオー)」、「H1T(エイチワンティー)」と、現拠点を掛け合わせた最適な組み合わせを提案する。
PMO:中規模ハイグレードオフィス
H1O:小規模企業向けクオリティスモールオフィス
H1T:法人向けサテライト型シェアオフィス
▼大規模企業向け オフィスポートフォリオの例
例えば、100人以上の規模の企業なら上記のような組み合わせが考えられる。企業の社員にとっては、一つの場所に集まるという形ではなく、大規模オフィス、中規模オフィス、小規模オフィス、サテライトオフィスをその時の状況によって使い分けられる、選択肢が豊富に用意されている状況だ。もちろん企業側にとっては面積の効率化はもちろん、社員の生産性や満足度の向上につながる可能性を秘めている。現場では、企業のニーズに合わせた組み合わせの提案、そしてコストシュミレーションまで行っているという。
ーーオフィスの在り方を見直す企業がますます増えてきた、ということですね。
桑原:KAIZENさんのように、コロナ以前からテレワークを推進している企業は少なからずありましたし、「必ずしも皆が同じ場所にいなくても良いのでは?」という、緩やかな変化は従来から生じていたと思います。それが今回一気に表面化して、全員が一か所に集まらなくても案外仕事は回っていくのではないか、と。その中で、オフィスの在り方を見直すべきではないか、という議論が活発になっているのは、ある意味自然な流れなのかなと思っています。
新型コロナウイルスの影響で、お客様からの要望も多種多様になり、私たちが持っているオフィスブランドを、をそれぞれの企業ニーズに照らし合わせて体系化したものを、「オフィスポートフォリオ」と呼んでいるというわけです。
上記は小規模企業向けのオフィスポートフォリオの一例。自宅やSOHOをベースにしている企業の、働く環境の改善、成長に合わせた新規拠点開設・拡張時などに提案している組み合わせだと言う。
須藤:テレワークと聞くと家でやるものと想像しがちですが、個人的には、テレワークとワークフロムホーム(在宅勤務)は全く違うものだなと思います。
私の娘は7歳なのですが、正直なところ娘が声をかけてくれるので嬉しいんですけど、家にいると全く仕事にならないんですね(笑)
要するに、家で落ち着いて仕事が出来る人は意外と限られるのではないかと。独身の方の場合は、ずっと家で仕事をしているとメンタルのコンディションが悪化しやすいという特徴も多々見られます。そのような中でたまに社員がオフィスに来ると、「オフィスってめっちゃ仕事しやすいですね」と。それは働くことを目的とした場所なので当たり前なんですが(笑)でもそのことに改めて気づけましたね。
また経験上、特にアーリー、ミドル期にあたる、ごく少人数で奮闘しているスタートアップ企業などは、対面で顔を突き合わせて色んなことを議論していった方が、企業として前に進んでいくことが多いです。ワークフロムホームを否定はしませんが、スタートアップだからこそ、ワークスタイルとワークプレイス、そしてその組み合わせをしっかり考えて欲しいなと思います。
桑原:仰る通りです。当社のオフィスビルブランドの一つであるH1Oは、資金調達や人材採用を見据えてグレード感のあるビルに入りたい、高セキュリティの環境を作りたい、会議室スペースはシェアして必要なときに必要な時間だけ費用化してコスト効率を高めたい、様々な雑務を受付スタッフに一任したいといったニーズを持つスタートアップ企業に好評を頂いていますね。
ーー今お話に出たH1Oについてお聞きします。H1Oには、どのような特徴を持つ企業がフィットするのでしょうか。
桑原:H1Oでは、ベンチャー、スタートアップといった企業やライセンサー(弁護士や会計士など)はもちろんのこと、大企業のプロジェクトチームのような既存の会社組織からはあえて離れて働く方々など、少数精鋭チームで新しい価値を生み出し事業を成長させようとしている方々にご利用いただいているオフィスです。
須藤:今日取材で「H1O 渋谷神南」に来て、中も見させてもらいましたが、私もまさに、大きな組織の中の小さなチームに、H1Oは向いているんじゃないかと思いました。
CVCやオープンイノベーションなどが流行している昨今、本社とは別の場所に拠点を持ちたいけど、一方で企業としての信用の面からセキュリティの基準は落とせないし、ブランディングや人材採用の面でグレード感や見栄えも担保したいというニーズは、大企業の中で増えてくるはず。そういう意味で、サービスとしての機能が充実していて、ハイグレードなデザインのH1Oは最適なのでは、と率直に感じます。
桑原:ありがとうございます。たしかにセキュリティ面をご評価いただいて契約していただけるケースは多いですね。特徴の一つが3D顔認証を使用したキーレスの多重セキュリティ設計です。1階エントランス、各部屋前に3D顔認証端末を設置、さらにエントランスには受付スタッフが常駐しています。しっかりと情報セキュリティが守られている空間で仕事がしたい、取引先に情報管理の厳重さをアピールしたいといった場合にも適していると思います。
桑原:オフィスの提供側としては、「どこでも働ける今の時代だからこそ選ばれる、最も働きたい場所をつくりたい」という想いがあります。自宅やカフェなど場所を選ばず働ける中で、あえて来たくなるようなオフィスを提供しなければいけないなと。
H¹Oは、企業にとって従業員の「一番働きたい場所」と「どこでも働ける場所」のどちらの性質も持ち合わせている特徴があります。
今回新しく開業したH¹O 渋谷神南には、ワークスペース、イベントスペース、カフェなど様々な形でご利用頂ける「HUMAN FIRST SALON」というものを新しく作っており、入居企業の皆様同士の交流を深めていただけるような仕掛けを用意しています。
一方で、感染対策の機能も充実させました。抗菌・抗ウイルス製品の導入、室内の換気対策、生体認証端末によるビル入館、入館ログと連動した自動呼出・行先階指定が可能なスマートフォンアプリ上でのエレベーター操作や空調・照明の操作、建物内の混雑状況の見える化など、テクノロジー活用によって共用部での密集回避や接触機会低減が可能となる仕組みを取り入れています。
働く環境はリアルとオンラインのハイブリッドになっていく
ーー今後、働く環境はオンライン化がさらに進んでいくのでしょうか。
須藤:そのあたりは私も気にしています。例えば、これまで会社の歓迎会といえば飲み会を開こうという発想になっていたのですが、コロナ後ではコミュニケーションの場を注意深く設計して調整しないといけなくなりました。
桑原:ちょっとした飲み会で上司のことをよく理解できたり、それがひいては会社への帰属意識といったものに繋がったりすることもあるので、今このタイミングで入社してきた人にとっては、OJTから会議まで、オンライン上のコミュニケーションだけだと中々やりづらいというのはあるだろうなと思います。
須藤:一方ですごい良かったなと思うのは、以前はフルリモートの社員も採用していたのですが、そういったこれまでマイノリティ側だった人たちも普通に入ってこれるというか、意識に差が無くなってきている。
大阪で働いていますとか、離島で働いていますとか、働く人の属性が良い意味でフラットになっていく感覚です。逆に言えば、働き方が自由になったからこそ、何をケアするべきか、これまで画一的にやっていたことは本当に正しかったことなのか、考え直すタイミングにきているなと感じます。
桑原:オンラインだけの人がいてもいいし、オンライン・オフラインをうまく使い分けてハイブリッドに仕事の成果を上げる人もいる。本当に働き方の選択肢が増えてきているなと私自身も感じます。
ーーオンラインとオフラインの具体的な使い分けは、どのようにしていけばいいのでしょうか。
須藤:オフラインで会うことの肝は、信頼関係の構築だと思います。やはりオンラインで話すのと実際に会って話すのとでは、人との適切な距離感やここまで言っても大丈夫かな、といった温度感の把握に違いが出る。企業で働く社員にとって重要な、心理的安全性を醸成する役割も果たすと思います。上司と部下との関係ならなおさら重要になってくるのではないでしょうか。
桑原:分かります。たまにオフィスに行って同僚と話すと、情報量が圧倒的に違うと感じます。「そんなことやってたの!?」といった驚きが毎回あります。これはとてももったいないことだと思っていて、極端な話、ビジネスの機会損失をしている可能性が十分にある。オフラインのみで不便なところをオンラインで補い、オンラインで足りない部分をオフラインで補う、相互補完の考え方が大切なんでしょうね。
オフィスは働き方を最適化するためのツールにすぎない
ーーオフィスポートフォリオの商品を提案する際、どのような視点をお持ちですか。
桑原:オフィスはあくまでも働き方を最適化するためのツールでしかないと思っています。私たちはまず、お客様の働き方の相談に乗る。コンサルティングをするということが大切だと思っていて、商品説明をしただけでは、お客様にとって最適な働き方は実現できない。
オフィスの在り方も、お客様のニーズも日々変化していくなかで、私たちはそれに見合った提案をしていくしかないと思います。
須藤:そういう意味でも、オフィスポートフォリオという考え方は、組み合わせによってコスト面でも合理的であり、かつユーザーが働き方を主体的に選べるという良さがありますね。
桑原:そう思っていただけたら嬉しいですね。
ーーこれから先の変化が全く見えない時代ですが、オフィスの在り方は今後、どのように変化していくと思われますか。
須藤:企業側がオフィスに求める役割というのはとても多様化していますし、これまでのように普通にただオフィスに来て働いてもらう、いわゆる事務処理の場という側面だけでは難しくなってくるのではないでしょうか。
私は一つのヒントとして、コミュニティがあると思っています。一つの組織の中でも色々なラベルが付く多層なコミュニティです。例えば、ヨガ部というものを作ったとしたら、早朝の誰もいないオフィス空間をフル活用できて、社内の交流も深まります。私はサウナが好きなのでサウナ部を作ったとしたら、仕事でなかったとしても自分が好きなコミュニティに属することによって信頼関係をつくることができます。
これは一例ですが、オフィスを無駄と簡単に切り捨てず、自分たちのパフォーマンスや成果を上げるためのツールとしてどう活用できるかを考えると楽しいと思います。
桑原:その通りです。当社では、オフィスは「事務処理の場」から、「価値創造の場」へ変わっていくと考えています。だからこそ求められるのは、生産性やイノベーション、また社員のモチベーションやエンゲージメントが上がる場所であるということです。また先ほども言ったように、オフィスはITと同じようにツールの一つです。なので、それぞれの業務において掲げたビジョンに沿って戦略を考え、それに最適化したかたちでオフィスの場所や使い方も変化していくのではないかと思います。
今後、私たちはハード面はもちろんのこと、ソフト面である働き方の最適化を実現していくためにサービスを強化して、実際に困っているお客様のサポートをしていきたいと考えています。
これからは、在宅勤務やサテライトオフィスの活用をはじめとするリモートワークが広く定着していくだろう。ここで重要なのは、働き方の選択肢が増えたということだ。これから多くの企業には、従業員一人ひとりに向き合って、「一番働きたい場所」と「どこでも働ける場所」を設計し、マネジメントすることが求められるだろう。
企業、ユーザー個人によって最適な働き方やオフィスの在り方は異なるからこそ、それぞれがしっかりと成果を上げるための方法を考えていく必要がある。
野村不動産の提案するオフィスポートフォリオはまさに、在宅勤務、サテライトオフィス、そして本社オフィスと、働く場所に縛られないハイブリッドな働き方を模索するためのヒントとなるのではないだろうか。
H1O 渋谷神南 基本情報
今回取材場所として登場したH1O渋谷神南。様々な個性が集まる渋谷という街の中でも、アパレルストリートとして有名な神南エリアは、代々木公園や明治神宮など、緑が多い場所でもある。都市の喧騒と良い距離感を保ちながら、まるで公園にいるような緑豊かな空間設計を実現した一棟開発型のオフィスビルだ。
開業日:2020年10月16日
面積:全62区画(11.26㎡〜52.58㎡)
アクセス:
東京メトロ 「渋谷」駅 A6出口 徒歩7分
JR線 「渋谷」駅 ハチ公口 徒歩9分
募集中区画有
・野村不動産が提案する『Work Place Innovation』(オフィスポートフォリオ)
・H1O(エイチ ワン オー)
取材・文:花岡 郁
写真:西村 克也