近年、世界の都市部で暮らす若年層を中心に、人びとのエコ意識はますます高まり、レジ袋の削減や水筒の活用など日常レベルでエコ志向な習慣が根づき始めている。さらに、最近ではもう一歩踏み込み、「パッケージ・デザイン」にもエコの波が到来している。

その背景として、環境に配慮した食材をネット販売するニューヨーク拠点の「Grean Leaf」によると、平均的なアメリカ人が年間に排出する廃棄物の量はおよそ680Kg。しかし、そのうちの「69%」がパッケージで占められているというのだ。

これを踏まえ、2018年5月にニューヨークで開かれたパッケージに関するトレードショー「Luxe Pack New York」では、環境に配慮した材質やアイデアに焦点が当てられ、盛り上がりを見せた。パッケージ・デザイン業界の最新動向をお伝えするーー。

時代は「目に見えないサステナビリティ」

「もはやサステナビリティは目に見えません」と語るのは、Luxe Packのゼネラルマネジャー、Nathalie Grosdidier氏。ひと昔前なら、リサイクルの材質で作られたパッケージは灰色がかっていてザラザラしている外観から一目でリサイクル品だと分かり、使用用途は限られていた。しかし今では、技術の発達でその見た目は大きく変化している。

カリフォルニアに本拠を置くパッケージングメーカー Golden Arrowが自社の最新技術を駆使し、業界にイノベーションを起こしている。

ハイエンド製品向けのカスタムパッケージに定評があり、その生産過程もゼロ・ウェイスト、印刷に使用するインクも植物由来のソイインクを使用するなど「グリーン企業」として知られる彼らの大口顧客は、アップルやグーグルといった世界的企業。

「アップルウォッチ」や「ピクセルフォン」の箱を手掛けるメーカーと言うと、ピンとくる人が多いかもしれない。


Google Pixel Phoneのパッケージ(Golden Arrowウェブサイトより

2018年5月15日、アップルは不必要なプラスチック包装を省き、廃棄を減らす目的からGolden Arrowと2019年7月までの長期契約を結んだ。他の企業も後に続くことが予想されており、ビッグネームが踏み出した一歩の意味は大きい。

約10年前には単なるトレンドの一つとして扱われていた「サステイナビリティ」は今や、業界を挙げて本腰を入れて取り組んでいくべき重要課題へと昇華された。

ラグジュアリーとエコの融合

トレードショーの期間中、声高に叫ばれていたのが「これからはラグジュアリーパッケージの時代」だという点。これまでならラグジュアリーブランドの買い物をした際、たいていは豪華で過剰な包装がなされていた。しかし、ブランドも消費者も過剰包装に疑問を持ち始め、環境に配慮し始めようとしている。

ショーで行われたパネルディスカッションでは、今後ラグジュアリーブランドこそスマートでサステイナブルな工程を組み込んだデザインのパッケージが必要だという議論がなされた。

この分野をリードしているメゾンとしてよく例として挙げられるのが、ルイヴィトン。オーストラリアのプロダクトデザイナーMarc Newson氏によるデザインの香水瓶はリサイクル素材を使用しているが、その透明度の高いガラス瓶はスタイリッシュなデザインも手伝い、リサイクル素材だと気づく人は少ないだろう。


ラグジュアリー感を損ねない洗練されたデザインの香水瓶
LOUIS VUITTON公式ウェブサイトより

さらに、この香水は使い終われば店舗で新しい中身を詰め替えてもらい、半永久的に使い続けることができる。これまで隔たりのあったラグジュアリーとエコ、その垣根を越え、両立することは可能であると示したこの香水瓶は、他のブランドの良き見本となるはずだ。

パッケージレスの生鮮食品店が提案する身近なエコ

食品業界ではどうか。食事は毎日のことだからこそ、排出する包装ゴミも多い。

米国スターバックスによると、年間約6億もの紙皿とプラスチックが廃棄されているという。しかし紙コップの構造は漏れを防ぐために薄いプラスチックが何層も重なっていることから紙とプラスチック部分の選別が難しく、リサイクルするのが困難だという。一方、消費者は環境への影響にますます関心を寄せており、各企業の環境に対するアクションは今後の業績を左右する大きな要素となってきている。

スターバックスはようやく次世代への取り組みと銘打ってカップの一部をプラントベースの素材のものに置き換える研究をスタートさせたが、米国マクドナルドはいまだカップを選別できるゴミ箱を設置するのみに留まっている。

そんな中、イニシアチブを握ろうとしているのが、ニューヨークにオープン予定の「The Wally Shop」。100%パッケージレスを謳う生鮮食品店だ。


The Wally Shop

現在世に出回っているプラスチック製パッケージのほとんどは一度しか使われず、また2017年に報告されたScience Advanceのレポートによると91%のプラスチックはリサイクルされないという。

The Wally Shopの創始者Tamara Lim氏がJWT Intelligenceに語ったところによると、「私のビジョンは『サステイナブル・ビジネスとはこうあるべき』という固定観念を壊すこと」。

このようなパッケージレスの生鮮食品店は、欧米の都市部を中心に近年増えてきており、主にミレ二アル世代に支持されている。

オンラインショップで扱う商品は野菜やフルーツなど生鮮食品からコーヒーやパスタの乾物などで、厳選されたローカルの食材を販売。さらにバルクで販売することで価格を下げることに成功した。全ての商品は再利用可能な容器に入った状態で宅配され、空の容器は次回の宅配時に回収される仕組み。

The Wally Shopを始めるきっかけとなった出来事は、Lim氏がAmazonに勤務していた時代にまで遡る。梱包と配送業務に携わっていた時に訪れたパッケージングのトレードショーでサステイナビリティが最も大きなトピックとして挙がっていたのを目にし、問題意識を持ち始めた。

まだオープン前にも関わらず、The Wally Shopに対する反響は大きく、同店のコンセプトが街の住人、特に環境意識の高いミレ二アル世代の共感を呼んでいるという手ごたえを感じているという。

これまでは「環境には良いが割高」というエコ商品が多かった中、The Wally Shopは従来のスーパーマーケットより安く高品質なものを提供する。消費者にとってもメリットがある上に、エコに協力するハードルが低いのはありがたい存在だ。

Lim氏はサービスを通じて、「環境によいアクションを取るのは難しいことじゃない」と、伝えたいのだという。世界的企業や若き実業家たちが牽引するエコなパッケージ・デザインの今後に引き続き注目していきたい。

執筆:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit