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コロナ禍でネットショッピングが好調だ。商品の流通量が増加し、物流の重要性が益々叫ばれている。一方で、日本最大の社会課題である少子高齢化による影響から、労働人口の減少が著しい。
しかしながら、労働人口の減少により発生する問題の多くは、テクノロジーで解決することができるだろう。デジタル化による業務効率の向上が、その最たる例である。そこで活用が期待されるのがブロックチェーンだ。
物流業界が抱える4つの課題
物流業界には、主に次のような課題が存在する。
①小口配送の増加による積載率の低下
②労働人口の減少によるドライバーの人手不足
③運送量の増加による環境汚染
④再配達の増加による業務効率の低下
これらを解消すべく、国土交通省は2016年2月に改正物流総合効率化法案を閣議決定した。目玉となる施策は次の3つである。
●モーダルシフト推進事業:トラックによる配送ではなく鉄道や船を活用することで、環境問題とドライバー不足を解消。
●地域内配送共同化事業:複数の企業が連携することで、輸送や保管などの業務を効率化。
これまでは、同じ届け先に異なる企業が配送する場合、別々のトラックで配送が行われていた。これを一度共同の倉庫へ商品を配送し、その後1つのトラックで配送することにより、積載率の向上が見込める。
●輸送網集約事業:共同配送の輸送網の中央拠点として輸送連携型倉庫(特定流通業務施設)を設置し、効率化された倉庫システムや商品管理のデジタル化を図る。
物流課題を解決するブロックチェーンの可能性
これらを実現するための基盤システムとして、ブロックチェーンの活用が期待できる。
ブロックチェーンは、インターネットを性悪説から性善説へとアップデートする技術だ。現在のインターネットないしデジタルデータは、性悪説を元に活用されている。
例えば、メールやSNSを利用する際に、サービスごとにアカウントを作成したりIDとパスワードを記憶しておかなければならない。契約書を作成するシーンでは、偽造されないよう印刷してから印鑑を押さなければならない。
ブロックチェーンを活用すると、デジタルデータの一意性が担保されるため上述のような作業が全て不要になる。なお、ブロックチェーンの詳細な仕組みについては、こちらの記事を参照いただきたい。
ブロックチェーンは、不特定多数の人物によって管理される分散型の帳簿だ。従って、広義のデータベースであるともいえる。帳簿に記録されるデータは、いつでも誰でも閲覧することができるが、誰にも編集・改ざんすることができない(厳密には、編集・改ざんされたことを瞬時に検知できる)。つまり、ブロックチェーンに記録されたデータは真に正しいデータだといえるのだ。
いつでも誰でも閲覧可能なため、過去の記録を遡ってトラッキングすることも容易にできる。特定のデータがいつどこで作成され、誰の手に渡り何に活用されているのか全て透明な状態なのである。
これがブロックチェーンの特徴であるが、最近はこの特徴を特定の人物間でのみ共有できるようカスタマイズされたブロックチェーンも登場している。データが全て筒抜けになってしまう帳簿では、取り扱えないデータも存在してくるからだ。
コンソーシアムチェーンが物流業界の課題を解消
特定の人物間でのみ共有できるブロックチェーンを、コンソーシアムチェーンと呼んでいる。物流業界では、このコンソーシアムチェーンの活用が大いに期待されているのだ。
コンソーシアムチェーンは、特定の人物間で共有されるデジタルデータに一意性をもたらすことができる。この特徴により、次のような課題を解消できる可能性があるだろう。
・サプライチェーンの追跡
デジタルデータの入口から出口まで、全て1つの帳簿で管理することができる。異なる企業間で別々の帳簿を持つ必要がなく、データの整合性を取るために不要な作業を行う必要もない。このコストカットによる経済的インパクトは相当なものがあるだろう。
・オペレーションの自動化
ブロックチェーンには、スマートコントラクトという仕組みが搭載されている。これは、予め設定した条件に従って自動で実行されるプログラムを意味する。これまで人間の操作に依存していたオペレーションは、全てこのスマートコントラクトが担ってくれるだろう。
最大の特徴は、そこに恣意性が含まれないことだ。故意の改ざんなどが排除されることで、不要なセキュリティ対策などを施さなくて済むようになる。
・社外との連携
コンソーシアムチェーンでは、通常のブロックチェーンとは異なり管理者を自由に設定することができる。つまり、輸送網に関わる事業者にだけ管理権限を付与することが可能だ。
既存データベースと同じく、閲覧・記録・編集・削除の権限を設定できる。例えば本社機能には全ての権限を、現場の配送企業には閲覧と記録の権限を設定するイメージだ。
国内外の物流業界におけるブロックチェーン活用
上述のように、物流業界とブロックチェーンは相性が良い。ここからは、既にブロックチェーンの活用を進めている企業の取り組みを紹介する。
物流最大手FedExは、物流業界でいち早くブロックチェーン活用に乗り出している。2018年2月からは、ブロックチェーン・イン・トランスポート・アライアンス(BiTA)に加盟し、物流業界におけるブロックチェーンの標準化を進めてきた。
BiTAは、物流業界におけるブロックチェーン技術の開発・浸透を目指す団体である。その中で、「origin trail」という物流業界に特化した独自ブロックチェーンの開発が進められている。
また、同年9月にはLinux FoundationのサポートするコンソーシアムチェーンHyperledgerプロジェクトへの参画も発表している。
FedExは、物流業界でブロックチェーンの活用を義務化すべきと発言している。企業が独自のシステムから脱却し、業界全体で共通のシステムを使用することにより、効率化される業務が膨大にあるという。
特にグローバルな航空輸送の場合、製品の原産地証明書や取扱免許、輸送ルートなど膨大な量の情報が必要になる。そのサプライチェーンは、もはや1社だけで完結することはなく複雑化の一途を辿り続けているのだ。
これらの情報をデジタル化するだけでなく、ブロックチェーンによって共通管理することで、配送効率を劇的に上げることがFedExの狙いだ。
2020年8月に、コカ・コーラのボトルサプライヤー12社の参画するパートナー団体「Coke One North America(CONA)」が、業務効率化を目的としたブロックチェーン活用の取り組みを発表した。
CONAによるとバイヤーとサプライヤーの間には、注文、請求、配送、支払いといったプロセスが生じており、それぞれが異なるシステムで連携しているという。そのため、書類の改ざんや発注ミス、支払い遅延といった問題が生じているのだ。
この取り組みでは、サプライチェーンにおける注文書の改ざんや人的ミスの防止、流通経路のトラッキングなどをブロックチェーンで実現する。また、ボトルサプライネットワークの内部業者の業務効率化に加えて、ネットワーク外部業者にも恩恵が出るようコンソーシアムを組んでいくという。
ネットワーク外部の業者に対しては、サプライチェーンにおけるデータの閲覧権限のみを付与し、情報システムへのリーチを可能にする予定だ。
オーストラリアの海運業界を中心に設立された、物流ブロックチェーンコンソーシアムが「The logistic blockchain consortium」である。同コンソーシアムはEYによって運営されている。物流における全ての書類をデジタル化し、ブロックチェーンに記録する取り組みだ。
EYによると、このコンソーシアムチェーンによって物流企業は年間約7,500万ものプロセスを自動化し、約1,200万枚もの書類を削減できる可能性があるという。
国内からも、「製造物流小売業」をビジネスモデルに掲げるニトリグループが、物流子会社のホームロジスティクスを通してブロックチェーン事業への参入に力を入れている。
ニトリがブロックチェーンを活用する目的は主に次の3つだ。
・書類の撤廃
・社外との連携
・積載率の向上
書類の撤廃
デジタル化の波が進む中でも、物流業界の受発注には未だに電話やFAXが使われている。紙の伝票や注文書が当たり前であるため、書類の紛失や記載ミスなどが課題になっているのだ。
これらの情報をデジタル化した上で全てブロックチェーンで管理することにより、物流現場の従業員にも正確な情報管理プロセスを提供することができるという。
社外との連携
ニトリの強みは、大型家具などを2人1組で輸送し家庭内での組み立てまで提供する配送方法にある。しかしながら、委託先の担当者がどういったスキルを有しているのか把握するのは難しい。
そこで、提携企業全体で管理できるブロックチェーンを開発し、最適な人員配置を目指すという。
積載率の向上
ニトリは、他社の荷物も共同で配送することで積載率を高めていきたいと考えている。2つ目の狙いと同様、提携先との共同管理が可能なブロックチェーンを活用することで、共同配送が実現できるとしている。
なお、この新システムは2020年の下半期に稼働予定だ。
課題解決のための大きな障壁
世界中で取り組みが進んでいることからも、物流業界とブロックチェーンは非常に相性が良いといえるだろう。一方で、まだまだ実用化とは程遠いのが現状だ。
物流業界の課題をブロックチェーンが解決するために、いくつかの大きな障壁が存在している。その中の1つが、現実世界のアセットをどうやってブロックチェーンに記録するかだ。
当然ながら、ブロックチェーンにはデジタルデータしか記録することができない。そのため、そもそもデジタル化されていないアセットをブロックチェーンで管理することは不可能なのだ。これには間違いなく、IoTの普及が必要になるだろう。
まずは昨今バズワード化しているとも感じるDXを推進することで、その先にブロックチェーン活用が現実味を帯びてくるのかもしれない。
文:田上智裕