政府が教育YouTubeチャンネルを開設、学校閉鎖でもオンライン学習促進

日本では芸能人のYouTube進出が増加し、視聴者のテレビからYouTubeへのシフトが加速している。現在、世界20億人のユーザーを抱えるYouTube、海外でも興味深いトレンドが起こっている。

このほどTikTokなどの中国製アプリが全面的に禁止となったインド。そのインドでは今、ロックダウンによる学校閉鎖に対応するため、政府機関が続々とYouTubeに教育チャンネルを開設し、学校に行けない子供たちに教育コンテンツを配信し始めている。

インド南部カルナータカ州の初等・中等教育部門は2020年4月7日、教育チャンネル「Makkala Vani」を開設。国語、英語、数学、理科を教える動画の配信を行っている。毎日午前10時30分に新しい動画を配信、アップロードされた動画はすでに200本を超えている。登録者数は7万人、累計視聴回数は147万回以上。学校閉鎖が解除されるまで継続するという。

カルナータカ州の教育YouTubeチャンネル「Makkala Vani」

地元メディアTheIndianExpress(2020年8月1日)によると、カルナータカ州では8月から一般向けのロックダウン緩和措置が開始されたが、教育関連施設は8月末まで閉鎖されるとのこと。上記YouTubeチャンネルは少なくとも8月いっぱいは継続されることになる。

マハーラーシュトラ州では、4言語対応の教育チャンネル開設

インド中西部のマハーラーシュトラ州の政府系教育機関も自宅で学習する子供たちのために、7月15日に教育コンテンツの配信を開始。同州公用語のマラーティー語に加え、ウルドゥー語、英語、ヒンディー語に対応する計4チャンネルを開設した。対象は小中校の学生。

7月に開設された新チャンネルだが、投稿された動画の数はすでに200本を超えている。英語、数学、物理など学校で学習する範囲を網羅。1動画あたりの長さは30〜60分。

マハーラーシュトラ州の教育YouTubeチャンネル

グーグルのオンライン学習促進の取り組み、教師向けのチュートリアルなどを拡充

YouTubeを生かしたオンライン学習は、YouTubeを運営するグーグルの取り組みにより、一層加速する可能性がある。

グーグルはインド向けのブログポストで4月16日、オンライン教育環境の充実を図る取り組み「YouTube Learning Destination」のローンチを発表したのだ。

「YouTube Learning Destination」はYouTubeの教育コンテンツをまとめたチャンネルであり、当初は英語とヒンディー語にフォーカスしたコンテンツを表示。その後、タミル語、テルグ語、ベンガル語、マラーティー語などのコンテンツも同チャンネルで順次表示すると述べていた。

これにより、YouTube上に無数にあるコンテンツの中から、質の高い教育コンテンツを探し出すことが容易になった。同チャンネルでは、小中学生向けのコンテンツだけではなく、Pythonプログラミングやアプリ制作など大人も学習できるコンテンツが用意されており、幅広い層が活用できるようになっている。

またオンライン学習のエコシステムを補完するために、教師のオンライン学習シフトを促す「Teach from Anywhere」というオンラインハブも開設。グーグルとUNESCOが共同で構築した同ハブ、英語だけでなく、ヒンディー語でも利用可能となっている。

「Teach from Anywhere」

「Teach from Anywhere」では、ティップスやチュートリアル動画を参考に、自宅から教えられるオンライン学習環境を構築できる。

たとえば「ビデオコールによる授業」に関しては、4つのポイントが示されている。

1つ目は、自宅からビデオコールする環境を整えるというもの。WiFiシグナルの強さ、自然光が入る場所、クリアな背景の場所、などのティップスが記載されている。

2つ目は、Google Meetを使ったビデオコールの方法。どのようにビデオコールを行うのか、クラス全員を招待するにはどうすればよいのか、などのチュートリアルを動画で学ぶことができる。

3つ目は、授業の録画の方法。生徒がいつでも視聴できる事前録画の学習コンテンツの作り方を学ぶステップだ。

4つ目は、オンライン授業のライブ配信方法に関して。具体的にはGoogle Meetの操作方法に関するチュートリアルとなっている。

このほか、バーチャルクラスルームの管理、オンラインでの宿題管理、また難聴や視力が弱い生徒向けの授業配信方法に関しての情報が記載されている。

インド地元メディアBGR.inによると、グーグルとインドの教育関連組織FICCI Ariseは共同で、国内23州250校で教師らに対し「Teach from Anywhere」を活用したトレーニングを実施したとのこと。

若年層が多いインドでは、現在全国的に教師が不足している。フォーブス・インド(2019年9月)によると、セカンダリーレベルでは求められる教師の数に対して22%不足、ハイヤーセカンダリーでは27%不足している状況という。オンライン教育環境が整えば、この教師不足問題も幾分か緩和されるのかもしれない。

[文] 細谷元(Livit