「商品発見の場」に変貌するインスタ

世界全体で10億人のアクティブユーザーがいると推測されるインスタグラム。日本国内でも3,000万人以上の月間アクティブユーザーがいるとみられており、国内外で人気のソーシャルメディアの1つとなっている。

インスタグラムといえば、かつての「インスタ映え」という言葉の広がりに見られるように、写真映えする画像が投稿される「美しさを求めるソーシャル空間」というイメージが強く、ショッピングをする場というイメージはあまりない。

「インスタ映え」

しかし、現在インスタグラムはユーザーが商品を検索する「商品発見の場」になっており、ショッピングハブのような存在に進化しつつある。

様々なデータや事例がそのことを示している。

Statistaのソーシャルメディアまとめ(2020年7月)によると、現時点で世界最大のソーシャルメディアはフェイスブックで、そのユーザー数は26億人以上。2番目はYouTubeとWhatsappがともに20億人で並んでいる。これにフェイスブック・メッセンジャーが13億人、WeChatが12億人と続く。ユーザー数10億人のインスタグラムは世界6番目に位置している。

英国のデジタルマーケティング会社Omnicoreのまとめ(2020年1月)によると、インスタグラムの1日あたりのアクティブユーザー数は世界5億人に上るという。

個人ユーザーの日常、旅行、ファッション、食事に関する画像投稿がほとんどのインスタグラムだが、企業のインスタアカウントや投稿は増加傾向にある。Omnicoreによると、インスタにおける企業アカウント数は2,500万件以上。

インスタウェブサイトによると、インスタのストーリー機能で発信され最も視聴されている画像の3分の1は企業アカウントが発信するコンテンツという。またインスタの企業アカウントのプロフィールを閲覧するユーザー数は、1日あたり2億人以上。60%のユーザーがインスタで商品を発見しているという。インスタ・ストーリーで商品を見た場合、その商品やブランドに対する興味が高まるとの回答割合は62%に上る。

HootSuiteのまとめ(2020年10月)では、2020年中にインスタにビジネスアカウントを開設する計画があると回答した企業の割合は75%以上だった。

商品発見の場としての利用が増えるインスタ。このトレンドは、インスタの広告収入からも見て取ることができる。2020年2月、ブルームバーグが情報筋の話として、2019年のインスタ広告収入が200億ドル(約2兆1,000億円)だったと報じたのだ。これはYouTubeの広告収入151億ドル(1兆5,855億円)を超え、インスタを運営するフェイスブック社全体の売上高の4分の1以上の額に相当するという。

インスタの変化がもたらしたフリーランサー市場への影響、「インスタ・キャプション」職人の需要増

インスタがショッピング空間として発展していることは、フリーランス市場における変化からも推察できる。

インスタ内でユーザーの注目を集める最も重要な要素はビジュアルだ。フィードに埋もれないために、工夫を凝らした写真や動画が必要になる。しかし、商品に興味を持ってもらうには、ビジュアルで注意を引きつけるだけでは十分ではない。写真や動画に目がとまったユーザーに、キャプション(写真説明)でそれがどのような商品/サービスなのか、端的かつ魅力的に情報を伝えなくてはならない。

このキャプション制作に関連するフリーランス市場が活況しているのだ。

非営利の国際ジャーリスト組織rest of worldによると、フリーランスプラットフォームの1つFiverrでは「インスタ・キャプション」と検索を入れると200件以上の結果があがってくるという。またFreelancerやUpworkなど他のプラットフォームでも同様のトレンドが散見されるようになっている。英語圏市場向けにキャプションを制作するフリーランサーが増えているとのこと。

相場はキャプション5つで5~10ドルほど。rest of worldの分析では、パキスタンやバングラデシュ在住のデジタルマーケティング経験者らがフリーランサーとして、欧米企業から仕事を請け負っている。たとえば、パキスタンの22歳の女性フリーランサーは、米国、英国、スペインなどの企業向けにインスタ・キャプションを制作。5キャプションで5ドル、8キャプションで10ドル、30キャプションで15ドルという値段設定だ。

重要視されるインスタのプロフィールやキャプション

インスタで1億2,000万人近いフォロワー持つ企業アカウント、今もフォロワー増加中

インスタで多くのフォロワーを持つビジネスアカウントの1つとして挙げられるのがナイキのアカウント。その数は、2020年8月3日時点で1億1,900万人に上る。2億3,000万人以上のフォロワーを持ち、個人として最大のフォロワーを持つクリスティアーノ・ロナウド氏を含めた全体で数えても、ナイキは16位に位置している。

このナイキのデータも、インスタのショッピング空間化を示唆するものである。すでに1億2,000万人近いフォロワーを有する同アカウント、フォロワー数の伸びは鈍化しそうな印象だが、2020年7月中だけでも350万人ほどの新規フォロワーを獲得しているのだ。Socialbladeの7月22〜8月3日までのデータを見ると、フォロワー数は1日あたり10万人ずつ増加、20万人を超えた日も記録されている。この期間フォロワーが減少した日はゼロとなっている。

商品やサービスを検索し発見する場となっているインスタ。ショッピングのかたちをどのように変えていくのか、気になるところだ。

[文] 細谷元(Livit