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インドに続く国が出てくるのか?TikTok禁止を巡る情勢
このところ中国関連ニュースの増加に応じて、TikTokに関する話題も増えている。
直近で大きく報道されたのは、インドにおけるTikTokを含めた中国製アプリ禁止令だろう。2020年6月29日、係争地での衝突を受け、インド当局は、主権と安全保障への脅威であるとして、TikTokなど59個の中国製アプリを利用禁止にした。
中国国営メディアGlobal Times(2020年7月1日)は、インドにおけるTikTok禁止で、同アプリを運営するByteDanceは、60億ドル(6,420億円)以上の損失を被る可能性があると報じている。ByteDanceに近い情報筋によると、この数年同社はインド市場開拓に10億ドル(約1,070億円)以上を投じてきたとのこと。
インドでは2019年に、TikTokの不適切動画や子供の性的被害拡大の懸念から同アプリが一時的に禁止される事態になったこともある。
インドに続き、米国やオーストラリアでもTikTok禁止を検討しているとの報道もある。また人口2億人を超えるパキスタンがTikTokの卑猥動画を強く非難し、内容の取り締まりを要求する「最後通告」を出したともいわれている。オーストラリア紙ABC Newsは2020年7月8日に、TikTokが世界中で反発を受けているとの記事を出しているが、7月末時点、その動きは強まっているような印象だ。
この動きにともない、ポストTikTokの座を巡る競争が起こりつつある。
先陣を切るのはインスタグラム。独自の新機能「Reels」をインド市場に投入し、ユーザーの拡大を狙っている。Techcrunchなどによると、インドにおけるTikTok利用者数は2億人だった。TikTok不在により生まれた2億人分の空白を埋めに行く算段だ。
Reelsはインスタグラムの短編動画シェア機能。CNNによると、インスタグラムは2019年11月から、同機能をブラジルで試験投入し、その後フランスとドイツに拡大したという。この新機能では、音楽に合わせて15秒の動画を記録し、インスタグラムのストーリーでシェアできるもの。インスタグラムを提供するフェイスブック社は、インスタReelsに注力するため、フェイスブック機能として開発していた短編動画シェア機能「Lasso」を閉鎖するという。
CNNの7月8日時点の情報では、インスタReelsのグローバルリリース日程は未定とのこと。まずは、TikTokがいなくなった市場でユーザーベースを広げる計画のようだ。
ちなみにインドの2019年におけるネットユーザー数は4億5,100万人、全人口13億人のうち33%にとどまる割合だ(インド・ネット・モバイル協会調べ)。Cisicoによると、インドのネット普及率は2023年に64%に拡大し、利用者は9億人に達する見込み。同国は若年層が多く、ソーシャルアプリ利用率も他国に比べ高いことが想定され、動画シェアアプリの伸びしろは非常に大きな市場だ。将来的な機会損失を考慮すると、TikTokの損失はGlobal Timesで指摘されるもの以上なのかもしれない。
YouTubeも短編動画シェア市場に参入?
短編動画シェアアプリ市場はTikTok一強といわれてきたが、インスタの参入により、状況は大きく変わる可能性が見えてきた。また、世界で20億人以上のユーザーを抱えるYouTubeも短編動画シェア市場に参入との憶測も広がっており、ポストTikTokの流れは加速しつつある。
YouTubeの対TikTok策として検討されているのが「Shorts」という機能。英語メディアThe Infomation誌が2020年4月に情報筋の話として、グーグル社がTikTokに対抗するためYouTubeモバイルアプリに新機能Shortsを2020年末までにリリースすることを検討していると伝えたのだ。
YouTubeは膨大な音楽ライブラリーを有している。動画クリエイターはそのライブラリーを活用し、短編動画を作成・アップロードできるような仕組みという。
Shortsに関する詳細は現時点でも明らかになっていないが、インスタReelsのように、リリース初期でインド市場がフォーカスされることは十分にあり得る。
視聴回数と登録者数で見る国別のYouTube市場規模。世界最大の市場は米国だが、それに急速に迫っているのがインドなのだ。
Channel Meterのデータによると、2019年3月時点における国別YouTube累計再生回数は、米国が9,160億回でトップとなった。これに続いたインド、その数は5,030億回。注目すべきは伸び率。2013年、米国の累計再生回数は1,250億回、6年で約7倍の伸びとなった。一方、インドにおける累計再生回数は2013年の150億回から2019年の5,000億回と約33倍の伸びを見せたのだ。累計登録者数でも、米国がトップで21億600万人だが、これにインドが10億4,500万人と続く形だ。
上記でも指摘したとおり、インドのネット普及率や若年層の多さを考慮すると、インド市場の伸びしろは大きく、累計再生回数と累計登録者数で米国を抜くのは時間の問題と思われる。実際、2020年に入り、それまでYouTube登録者数で世界最多を誇ったスウェーデンの「PewDiePie」チャンネルをインドの「Tシリーズ」が追い抜くという交代劇があったばかり。2020年7月23時点、Tシリーズチャンネルの登録者数は1億4,600万人に達している。
TikTok禁止、1時間で50万人の新規ユーザー獲得も、躍進するインド国内アプリ
インスタグラムやYouTubeだけでなく、インド国内アプリの躍進にも関心が寄せられている。
地元メディアNDTVによると、インド発の短編動画シェアアプリ「Roposo」は、TikTok禁止後ユーザー数が急増。ピーク時には1時間に50万人も登録者が増える事態になったという。TikTok禁止前、5,500万だったユーザー数は、7月末には1億人に達する見込みだ。
Roposoのほか「Chingari」「Mitron」「Bolo Indya」などの国内動画シェアアプリにも関心が広がっている。
Chingariの共同創業者スミス・ゴッシュ氏はNDTVの取材で、中国製の動画シェアアプリの多くは、ユーザーの注目を集めるために、性的な動画が拡散するような仕組みになっていると指摘。一方、Chingariでは、保守的といわれるインド社会の中でもサービスが根付くよう、性的・暴力的な動画がトレンドにのったり、拡散したりしないためのアルゴリズムを開発・導入していると語っている。Chingariのユーザー数は、TikTok禁止前の350万人から、7月15日時点には1,750万人以上に拡大したとのこと。
インドにおける短編動画シェア市場。今後は不適切コンテンツに依拠しない公正な競争が繰り広げられることになるのだろう。
文: 細谷元(Livit)