自宅で運動、関心高まる「VRフィットネス」、注目は「Supernatulal」

家から出ない/出れない状況が続く中、多くの人々は自宅で運動する方法を模索している。海外では、YouTubeのヨガ・インフルエンサー動画やインストラクターによるZoomライブストリーミングが人気を集めているようだ。

一方、パンデミックをきっかけに、VRを活用したエクササイズにも再び注目が集まり始めている。VRフィットネスとも呼ばれる分野。VRは依然ニッチ市場といわれているが、自由に外出できない今、バーチャルに外の世界を体感し、同時に運動もできるとして関心が高まっている。

VRフィットネス分野の注目株の1つはOculus Questでプレイできる「Supernatural」。米ロサンゼルスを拠点とするVR企業Withinがこのほどローンチした新作だ。英語圏のテックメディアの間では、今後のVRフィットネスの方向性を指し示す試金石として捉えられているようだ。

「Supernatural」ウェブサイト

「VRフィットネス」と呼ばれるコンテンツは多数存在するが、それらと何が違うのか。これまでのVRフィットネスコンテンツとは、もともとゲームとしてデザインされたが、その性質上、結果的に体を動かすことになり、カロリー消費につながるものを指すことが多かった。

たとえば、日本でも人気となった「Beat Sabar」。音楽に合わせて飛んでくるブロックをライトセーバーで切っていくリズムゲームだが、主に腕など上半身を動かすことが求められ、結果かなり良い運動になるとして、「VRフィットネス」の文脈でも取り上げられることが多い。

Beat Sabarのカロリー消費、1分あたり6〜8カロリー

米国のVR起業家や大学研究者らが運営する「ヘルス・エクササイズVR研究所」という組織がある。運動科学の観点から、VRゲームが一般的なスポーツと比較し、どれほどの運動量になるのか分析している組織だ。

Beat Sabarも分析対象になっている。それによると、同ゲームのカロリー消費量は1分あたり6〜8カロリーと、テニスと同水準になるとのこと。他の多くのVRゲームの1分あたりのカロリー消費量は、1〜2カロリー、2〜4カロリー、4〜6カロリーの3カテゴリに分類されている。Beat Sabarは数あるVRゲームの中でも、比較的運動量が多いゲームに分類されるようだ。

Oculus「Beat Sabar」販売ページ

ただし、そんなBeat Sabarもフィットネスの観点から見ると弱点がある。もともとリズムゲームとして開発された同コンテンツ、ゲームに慣れてくると、少ない動きで高得点を狙えるようになってしまうのだ。

これはゲームの観点からいうと効率化といえるが、フィットネスの観点からいえば非効率化になってしまう。限られた時間のなか、できるだけ多くのカロリーを消費する。これが、フィットネス観点からの効率化となるからだ。

Supernaturalを「VRフィットネス」たらしめる工夫

Supernaturalも、音楽に合わせて飛んでくるブロックをヒットして得点を稼ぐという点でBeat Sabarと同じであるが、主眼がフィットネスに置かれている点が大きな違いだ。ゲームへの慣れと運動の最小化を防ぎつつ、時間内のカロリー消費最大化の工夫が施されている。

たとえば、ブロックをヒットするときの強さが得点に影響するようにデザインされている点やバーチャルインストラクターによる運動量を最大化するアドバイスなどが挙げられる。

Supernaturalのバーチャルインストラクター

音楽によって、プレーヤーの運動量やモチベーションを高める工夫が施されている点も特筆すべきだろう。

Supernaturalは、Spotifyと同様の音楽ライセンスを取得しており、プレーヤーは自分がよく聞く有名曲をプレイリストに加えることが可能だ。誰も知らないような曲ではなく、良く知っている好きな曲で、運動モチベーションを継続することが可能となっている。

しかし、この音楽へのこだわりが、Supernaturalの強みとなっている一方で、弱みにもつながっている。

Supernaturalで利用される音楽ライセンスは、開発企業であるWithinが継続的に支払う性質のものと想定される。

そのコストをカバーするために、Supernaturalはサブスクリプション制になっているのだ。一般的にVRゲームは買い切り型のものが多い。上記Beat SabarのOculus Quest版は29.99ドル。一度支払えば、それ以上のコストはかからない。一方、Supernaturalは月額19ドル(約2,000円)のサブスクリプション制。年間換算では228ドル(約2万4,000円)となる。一般的なゲームと比べると高コストになってしまう。

開発チームは、このコストについて、音楽の豊富なライブラリに加え、アップデートの頻度をカバーするものと説明。

Withinの共同創業者であるクリス・ミルク氏はThe Vergeの取材で、Supernaturalの開発にあたり、フィットネスバイクのPelotonを参考にしたところ、そのアップデートの頻度がフィットネスコンテンツとしての成功につながっていることを突き止めたと語っている。毎日同じ景色や音楽では飽きてしまうが、新しいセッションを用意することで、モチベーション継続の助けになるだろうと説明している。

くしくも、Supernaturalがリリースされた2020年4月23日の数カ月前から、Oculusプロダクトの売り上げは増加しており、Supernaturalをプレイするためのハードウェア的条件は整いつつある。

現在、Supernaturalの販売は北米市場に限定されているが、欧州やアジアでリリースされたとき、市場はどのような反応を示すのか、またVRフィットネスの世界をどう形づくっていくのか、今後の展開・動向から目が離せない。

[文] 細谷元(Livit