世界一の製造国を目指す中国。2015年に政府が発表したイニシアチブ「中国製造2025 (Made in China 2025)」に沿うように、同国ではロボットや自動化システムを採用したサービスが続々と登場している。
現地のスタートアップSupermonkeyが中国各地に無人ジム網を広げるなか、書籍小売大手のXinhuaは3月に無人書店第一号をオープンした。さらに昨年には無人カラオケボックスまで登場。「ひとりカラオケ」でも恥ずかしくないと利用者からは好評で、すでに2万個以上ものカラオケボックスがショッピングモールなどに設置されているという。
おひとりさま用カラオケボックス(写真:Daniel Holmes/Sixth Tone)
これまでに自動化されたものを見ていくと、確かにオペレーションの効率を向上したり、24時間営業できるようになったりと、運営側・利用者どちらにとっても利点があるのは理解できるが、決済やセキュリティの自動化に主眼が置かれており、想像の範疇を超えたとまでは言いづらい。
しかし、もちろんここで終わりというわけではないようだ。中国四大商業銀行のひとつである中国建設銀行(CCB)が、4月に世界初となる無人銀行をオープンしたのだ。
最新の無人化テクノロジーが満載の店舗
CCBが上海に新しくオープンした支店の1階には、顔認識機能や人工知能など最新のテクノロジーを搭載したロボットが配備されており、口座開設や送金、外貨両替、金投資などを無人で完結できるようになっている。CCBによれば、この「窓口ロボット」は従来の銀行窓口サービスの約90%をカバーできるのだという。
さらに、最近CCBが長期住宅ローンの販売を開始したこともあり、VRルームでは椅子に座った状態で理想の家の中を探検できるサービスも準備されている。
初めてこの支店を訪れる利用者は、まずIDカードをスキャンする必要があるものの、一旦データが記録されれば、以後は顔認証だけで自分の情報にアクセスでき、入店すると微笑みを浮かべたロボットに迎えられ、自分の声やロボットが手に持ったタブレットを使って各サービスを利用できる。
利用者を笑顔で迎える窓口ロボット(写真:Maggie Zhang)
しばらくの間は人間のスタッフもトラブル対策で常駐しているが、近日中にはセキュリティスタッフ等を除き、支店内は完全に無人化するとのことだ。なお、資産運用など細かな相談を行いたい人は、電話会議システムを通じて他の支店にいる行員と話すこともできる。
CCBに先んじて、2016年にはベルギーの複数の病院にソフトバンクのPepperが導入されたが、現場が医療機関ということもあり、Pepperの主な仕事は受付業務だった。しかしCCBのロボットは実際に利用者と会話をしながらサービスを提供できる。
そのため今後は製造業や単純な応対だけでなく、接客やホスピタリティの分野でもロボットの導入が進む可能性がある。
移民受け入れの代わりにロボットを導入
このCCBの新たな試みの背景には、数々の無人サービスの核となっているWeChat PayやAlipayなど、いわゆるフィンテックの影響が考えられる。
Oracleが中国を含む13カ国・5,200人を対象に実施した調査によれば、対象者の81%がデジタルサービスを使って銀行サービスを利用していると回答したほか、69%が銀行サービスのすべてをデジタル端末で利用したいと考えているのだという。また40%以上が、支出管理や投資に関して銀行以外の企業が提供しているサービスを利用していると回答しており、従来の銀行に対する不満が感じられる。
つまり、もはや基本的な金融サービスであれば、消費者は対面ではなくデジタル端末経由で利用する時代になりつつあるということだ。
その証拠に、2016年には中国の四大銀行(中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行)が支店の統廃合などを通じて合計で1.9万人もの人員を削減すると発表。このことに関して、Capital Securities Corpのリー・ビン(Li Bin)氏は、「もはやこれまでほどの支店や行員は必要ない。消費者はあまり紙幣を使わなくなってきており、さらにインターネットバンキングもかなり進化したことで、銀行にはこれまでとは違う役割が求められている」とChina Dailyに語った。
日本でも、昨年末に三大メガバンクが組織のスリム化に向けた施策を発表し、合計3.2万人分もの労働力の削減に努めている。
また、高齢化に伴う労働人口の減少や賃金の上昇といった側面も見逃せない。特に注目したいのが、そのことと関わりのある移民の状況だ。国連のレポートによれば、2017年に外国から中国本土へ移住した人の数は100万人で、これは日本の230万人の半分以下にあたる。
言語の壁や環境被害への懸念、経済システムの違いなど移民にとってのハードルは高く、オランダ・ライデン大学のフランク・ピーケ(Frank Pieke)教授は、「日本や韓国同様、中国は国民国家の要素がとても強く、特定の人種や共通の文化を持った人びとが “純血” を守りながら、本当に必要なときにだけ移民を受け入れるような体制になっている」とニューヨーク・タイムズの取材に答えた。
中国では15〜59歳で構成される労働人口が毎年数百万人単位で減少しており、2030年には労働人口が8億3000万人と、2011年比で1億人以上減るのではないかという予測もある。つまり、現在中国は日本同様、労働人口の減少を自国民や移民ではカバーできなくなっているのだ。
このように政府主導の施策や消費者の利便性、さらには人口動態といった複数の要素が絡み合った結果、中国では現在ロボットブームが巻き起こっている。
ただし、これは中国に限った話ではなく、労働人口の減少やフィンテックの拡大は日本を含む先進国を中心に世界中で見られる現象であることを考えると、今後中国のロボット産業を注視する必要がありそうだ。
文:行武温
編集:岡徳之(Livit)