デジタル分野の成長とともに、広告もまたその成長を共にしてきた。そしてWebの変遷に伴って広告の形態も見合った形に変容を遂げてきた。

その一つである動画リワード広告が注目を集めている。動画リワード広告とは、ユーザーに、配信先であるアプリ媒体内で使用可能なポイントなどの報酬をインセンティブとして付与する代わりに、予めユーザーの承諾を得た上で、全画面で配信される動画広告を表示する広告フォーマットのことだ。

株式会社VOYAGE GROUPの連結子会社で、広告配信プラットフォーム事業を展開する株式会社flucは、株式会社デジタルインファクトと共同で、国内動画リワード広告市場に関する調査を行った。

その結果、2018年の国内動画リワード広告市場は前年比約2.4倍の170億円、そして2022年には2018年比約2.2倍の378億円規模に拡大すると予測している。

アプリ市場の成長や動画フォーマット需要が拡大の要因

この調査では、拡大の背景にあるのはアプリ市場の成長だとしし、ユーザーサイドにおいては、プロモーションにおける動画フォーマット需要の急成長が大きく影響しているとしている。

また広告運用が自動化された大手広告プロダクト、つまりGoogleやFacebook、AppLovinなどから、一定の広告費が自動的に動画リワードに流入していることも一因だとしている。

これまでの経緯を見ると、UnityAds、AppLovinなどの海外事業者が日本に展開した後、maioなど多くの国内事業者が参入、2016年にはAdMob、2017年にはFacebookといったグローバル大手事業者の参入が続き、業界形成が進んだ。

そして、2016年後半頃からメディエーションツールの登場により媒体の収益性がより担保されるようになり、導入に弾みがついた。

一方、ユーザーサイドではスマートフォンでの動画視聴が当たり前となり、同時に動画広告への接触も習慣化されつつあることが影響しているようだ。

これにより、コンテンツ消費の対価として動画広告を視聴することへの抵抗が薄れている傾向にある。このため、動画リワード広告に対するユーザーの許容度は、他のフォーマットと比べて高いという調査結果も出ているとしている。

今後は大手アプリへの導入が進み配信先の裾野が広がる

この調査では動画リワード広告を掲載する主なアプリデベロッパーの動向を分析。それによると、まずこれらデベロッパーが最も早期に動画リワードを導入したのがカジュアルゲームアプリだとしており、このアプリのその後の普及が市場の基盤を作ったとしている。

また大型タイトルを取り扱うゲーム会社が、動画リワードによるマネタイズに興味を持ち始めていることも挙げている。これにより、中規模以下のソーシャルゲームタイトルにおいても導入が進んでいる。

ただ、個人開発者が多いカジュアルゲームに比べ、組織で開発されているソーシャルゲームは導入の意思決定までに時間がかかることが多く、急速な普及には至っていないという結果になった。

2017年の後半以降は大手マンガアプリでの導入が始まり、現在市場の成長を牽引。2018年には配信量が拡大し、市場成長を牽引することが期待される。

その他、課金制を敷いているアプリやライブ動画配信サービスへの導入機会があると見込んでおり、今後は、ソーシャルゲームアプリやライブ動画配信サービスアプリなど、新たに大手アプリへの動画リワード広告導入が進み、配信先の裾野が広がることが市場成長を後押しすると分析。

動画リワード広告は、アプリプロモーション広告市場の運用型広告費が流入するチャネルが出来あがっている。そのため、引き続き良質な広告枠が増えることで、アプリプロモーション需要の継続的な拡大を背景に、中期的に市場は拡大すると予想している。

Nikeが生み出した画期的な報酬設定とは

しかし、この調査結果のように市場を拡大していくには、リワードは多すぎても少なすぎても、頻度が高すぎても低すぎてもいけないだろう。また、最適なタイミングで提供することも大切だ。このリワードデザインは、近年増加するサブスクリプション型のサービスにおいても重要視される。文脈的にはカスタマーサクセスの一部ともいえるだろう。

企業側は、自社が提供するサービスを継続的に使用してもらうために、また他社との差別化を図るためにも、ユーザーの関心を継続的につかむリワードデザインが求められる。

ここで、Nikeの例をみてみよう。

Nikeは、同社が提供するアプリ「Nike+ Run Club」や「Nike Training Club」ユーザーに向けた画期的な報酬設定を生み出した。

Nike+ Run Clubは、ランニングに特化したアプリで、実際に走った距離・ペース・心拍数などのランデータを記録してくれるのはもちろん、自分が設定した目標や運動レベルに見合ったパーソナルプランも提案してくれる。

Nike Training Clubは筋トレやダイエットに効果的なフィットネスアプリだ。個人の目的とレベルに沿ったトレーニング方法を動画・タイマー付きで指導してくれるため、初心者でも簡単に取り組めるものだ。

新しい報酬設定では、これら二つのアプリ上でユーザーが設定した目標やルーティーンを達成することで、他社アプリ・サービスのディスカウントを受けられるという。

具体的には、音楽配信サービス「Apple Music」や瞑想アプリ「Headspace」、アメリカで人気のフィットネスサービス「ClassPass」などで無料トライアルメンバーシップやディスカウント、限定プレイリストの配信などを受けられるというものだ。

これまで、Nikeが提供するスポーツアプリの報酬はシンプルなもので、自分が完走した距離や、完遂したトレーニングのレベルに応じて仮想トロフィーをもらえる仕組みだった。トレーニングの種類や実施曜日によって、もらえるトロフィーの種類が異なるため、全種類を集めようと躍起になるユーザーも多かった。

仮想トロフィーは、自分が頑張った分だけ目に見える形でたまっていくが、それは「自分の頑張りの証明が可視化される」以外の価値を生まなかった。

Nikeが報酬設定の見直しを図ったのは、個人の頑張りが可視化されるだけでは、ユーザーのモチベーション維持に限界があると考えたからではないか。目標の達成度に応じてトロフィーがもらえるとはいえ、それだけではいつか飽きが来てしまう。そこで、適切な報酬制度を適切なタイミングで用意することで、ユーザーとの継続的な関係性構築を促すことにつなげる狙いだ。

現時点で、同様のリワード設定は日本では未対応のようだが、導入が決まれば高い人気を博しそうだ。

スマホで動画広告を観ることが当たり前の時代に

この調査結果のように、我々は確実にスマホでの動画広告への抵抗がなくなりつつある。かつて動画広告はTVや映画館で観ることが当たり前だった。そんな時代は、歩きながら動画広告を観る時代が来るとは夢にも思わなかった。

トランシーバーのような形態から出発して二十数年。携帯電話は大きな進化を遂げ、もはや携帯電話の域に止まらず、エンターテイメントの受容や情報収集に決済、地図、ヘルスケアなど、実に様々な形で私たちの生活を支援してくれるなくてはならないツールへと変貌してきた。

それとともに、広告の在り方も大きく変わろうとしている。その中でも動画全盛のこれからの時代、動画リワード広告のさらなる拡大が予測される。マーケッターや広告担当者はこういったトレンド予測によって、今後のデジタルマーケティングの波を乗り切っていく必要性がある。

img: ​@Press