恋愛は「ドキドキ」より「安心」の時代へ 5,000人調査で見えた2026年の恋愛観とは
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恋愛に求めるものが変わり始めている。
刺激的な恋より、安心できる関係。プロフィール上の理想条件より、実際に話して感じる相性。そして、かつては恋愛とは別物と考えられがちだった「お金」の話も、今では信頼を測る重要な要素になっている。
アメリカのマッチングサービス「Match」とインディアナ大学のKinsey Institute(キンゼイ研究所)が2026年9月に発表した第15回「Singles in America」は、そんな現代の恋愛観を浮き彫りにした。
調査対象はアメリカの独身成人約5,000人。2026年3月から4月にかけて120項目の質問を行い、回答者の年齢・性別の構成比がアメリカの人口構成を反映するよう調整した。2010年の調査開始以来、累計8万人以上を対象としてきた大規模な継続調査でもある。
そこから見えてくるのは、若者が恋愛そのものから離れているという単純な物語ではない。ロマンチックな恋愛への期待は残したまま、その関係を成立させる条件が、より現実的になっているのである。
恋愛したくないのではない。「積極的に探していない」
まず注目したいのが、恋愛への意欲である。
調査では、独身者の72%が恋愛や交際に関心がある、あるいは機会があれば交際したいと回答した。一方、現在「真剣な交際相手を積極的に探している」のはわずか16%にとどまった。45%は積極的に相手を探していないものの、適切な相手と出会えば交際したいと考えている。
つまり、「恋愛したい」と「恋愛相手を探したい」は別なのである。
結婚への関心も回復傾向にある。Kinsey Instituteによれば、「将来結婚したい」と回答した人の割合は、2010年の33%から2026年には45%へ上昇した。
一方、「恋愛関係を望まない」と回答した人の割合は、2021年に32%まで上昇したものの、2026年には24%へ低下した。また、30%が結婚を前提としない長期的なパートナーシップも選択肢として受け入れている。
Matchを提供するMatch Groupのグローバル最高マーケティング責任者(CMO)のStephanie Danzi(ステファニー・ダンジ)氏は今回の調査結果を、「意図を持つことが、新しいロマンスだ」と表現している。恋愛への関心が消えたのではなく、人々は時間や感情を誰に投資するかについて慎重になっているという見方である。
「刺激」より「安心」が恋愛の価値になる
その変化を象徴する調査結果がある。
恋愛関係において「平穏と感情的な安心」と「情熱と刺激」のどちらを重視するか尋ねたところ、「安心」を選んだ人は34%、「刺激」は14%となり、安心を重視する人の割合が2倍以上となった。
女性では差がさらに大きく、安心を選んだ人が40%だったのに対し、刺激はわずか9%だった。では、恋愛における「安心」とは何を意味するのだろうか。
調査では、「尊重されていると感じる」が61%、「自分の話を聞いてもらえる」が56%、「批判されることなく自分の感情を伝えられる」が54%だった。
また、健全な恋愛関係に必要な要素として、53%が「相互尊重」、52%が「率直なコミュニケーション」、40%が「安全・安心」を挙げている。
現代の恋愛における「安心感」とは、刺激のない退屈な関係を意味するものではない。自分の話に耳を傾けてもらい、否定されることなく、安心して自分の感情を伝えられる関係を指している。
企業で「心理的安全性(Psychological Safety)」が重視されてきたように、恋愛関係においても同様の価値観が重視されつつあることがうかがえる。
条件検索では見つからない相手を、会話で好きになる

一方、恋愛相手を選ぶ際に重視する条件は、むしろ増えている。
長期的なパートナーについて「チェックリスト」を持つ人は2021年の25%から2026年には34%へ増えた。さらにZ世代の50%は、実際に会う前に相手をオンラインで調べると回答している。情報収集の方法としては、SNSが60%、Google検索が37%、身元調査が29%だった。
プロフィールやSNS、検索エンジン、マッチングアルゴリズムの普及により、会う前に相手の情報を収集し、条件に合うかどうかを判断することが容易になっている。
しかし、実際の恋愛は必ずしも条件だけで決まるわけではない。
調査では、49%が「最初は魅力を感じなかった相手を後から好きになった」経験があると回答した。2010年の30%から大幅に上昇している。
また、理想のパートナーに求める条件をまとめたチェックリストを持つ人でも、46%がその条件に当てはまらない相手を好きになった経験があると回答している。
相手への印象が変わった理由として最も多かったのは「良い会話」で47%、次いで「共通の興味」が41%、「価値観の共有」が35%だった。さらに、初回のデートで会話が盛り上がらなくても、2回目のデートに応じると回答した人の割合は、2021年の35%から2026年には41%へ上昇している。
Kinsey Instituteのエグゼクティブディレクター、Justin Garcia(ジャスティン・ガルシア)博士は、この結果について「何が自分にとって重要かを知ることと、誰を好きになるかを正確に知ることは同じではない」と指摘する。
ここには、現在のマッチングアプリが抱える矛盾も見えてくる。アプリは、実際に会う前に相手を選別するプロセスを効率化してきた。しかし、相手の魅力は、実際に会って会話を交わす中で初めて発見されることも少なくない。
写真や職業、年齢、趣味などの条件をもとに、スワイプ操作で相手を選ぶアプリの仕組みと、会話を通じて相手に魅力を感じるという恋愛の実態との間には、少なからずギャップが存在している。
「お金の話」はロマンスを壊すどころか、信頼をつくる
さらに2026年の恋愛観を象徴するのが、お金である。71%が「お金について率直に話すことは、パートナーとの信頼関係を深める」と回答した。42%は「大きく深める」と答えている。
話し合うべきテーマとしては、「将来の金銭的な目標」が49%、「お金の使い方」が46%、「貯蓄・家計管理」が45%だった。
さらに、70%が婚前契約などの金銭面に関する取り決めに前向きで、89%が「金銭に関する意思決定には、パートナー双方が対等に関与すべき」と回答している。
だからといって、経済観念が完全に一致していなければ恋愛できないわけではない。56%は、自分と異なるお金の使い方をする人でも好きになる可能性があると答えている。
つまり求められているのは「同じ年収」「同じ貯蓄額」といった条件の一致というより、お金について隠さず話し、二人で意思決定できる関係なのである。

現代の恋愛では、経済的な透明性も恋愛関係を支える要素になりつつある
背景には経済環境もある。調査では54%が日常生活における最大級のストレス要因として経済・お金を挙げ、56%が「もっとお金があれば生活がより幸福になる」と答えた。
さらに、経済状況が厳しいことで「人生を共有する相手を見つけたいと思うようになった」人は52%。2013年の27%からほぼ倍増している。
一方で、経済的不安は恋愛を遠ざけてもいる。一定の収入を得る、キャリアを築く、貯金する、借金を返す、家を持つまで長期的な関係を始めたくないと考える人も、2019年より増えている。
経済的不安は、パートナーと生活を支え合いたいという思いを強める一方で、自身の生活基盤が安定するまで恋愛を控えようとする意識も生み出している。
子どもを持つかどうかにも、経済状況が入り込む
その影響は家族形成にも及んでいる。18〜49歳の独身者のうち、「将来子どもが欲しい」と答えたのは38%。男性は42%、女性は32%だった。
また、子どもを持つかどうかを判断する際に重視する要因として、半数が「経済的な安定」を挙げている。さらに、40%が自身の経済状況、34%が「世界情勢」を理由に、子どもを持つ時期を遅らせていると回答した。
恋愛・結婚・住宅購入・出産をそれぞれ独立したライフイベントとして考えることが難しくなっているのである。
これはマッチングサービス業界だけの問題ではない。住宅購入、金融、保険、旅行、ウェディング、教育、福利厚生など、生活者のライフステージに合わせて商品・サービスを設計してきた企業にも関わる変化だ。
「20代で交際を始め、結婚し、住宅を購入し、子どもを持つ」という従来の直線的なライフプランが変化し、それを前提としたカスタマージャーニーの見直しが求められている。
それでも「運命の恋」はなくなっていない
ここまでの調査結果からは、現代の恋愛において合理的な判断が重視されるようになっていることがうかがえる。しかし、今回の調査では、そうした傾向とは対照的な恋愛観も明らかになっている。
76%が「ロマンチックな愛は永遠に続く可能性がある」と信じ、74%が「運命的な出会いや関係が存在する」と考え、61%が「誰にでも理想のパートナーや運命の相手がいる」と回答した。
さらに「一目ぼれ」を信じる人は、2010年の41%から2026年には62%へ増加。実際に一目ぼれを経験したという人も30%から47%へ増えている。
世代による違いも見られる。ベビーブーマー世代の70%が大がかりな演出よりも日常のささやかな愛情表現を重視する一方、Z世代の52%はサプライズなどの特別な演出を伴う愛情表現を好む。
こうした結果は、若者が恋愛に対して冷めた見方をするようになったという単純な説明では捉えきれない。
むしろ今回の調査から見えてくるのは、運命的な恋愛への憧れを持ちながらも、実際の関係には安心感や対話、経済的な透明性を求めるという、一見相反する恋愛観である。
恋愛相手に求める条件は細かくなり、実際に会う前にはSNSなどで相手の情報を調べる。それでも、会話を通じて当初の条件に当てはまらない相手に魅力を感じることもある。一目ぼれや運命的な出会いを信じる一方で、交際相手とは貯蓄や支出について率直に話し合う。
こうした変化は、恋愛への憧れが薄れたのではなく、ロマンチックな理想と現実的な判断を両立させようとする意識が強まっていることの表れといえるだろう。
恋愛に関わるサービスやブランドにとっても、重要なのは「条件に合う相手」を効率的に提案することだけではない。人間関係は、検索条件が一致するかどうかだけで決まるものではなく、実際に交わされる会話やコミュニケーションを通じて深まっていくものだからだ。
AIとアルゴリズムが人間の選択をますます効率化する時代だからこそ、その非効率で予測できない部分が、恋愛の価値として改めて浮かび上がっているのかもしれない。
文:岡 徳之(Livit)