マッチングアプリにもうチャットはいらない? 若者の「アプリ疲れ」に応えるBreezeが急成長
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動画なら、視聴時間をできるだけ長くする。SNSなら、アプリを開く頻度を増やす。サブスクリプションなら、解約を防ぎ、継続利用を促す。
デジタルサービスでは長年、ユーザーの滞在時間や利用頻度、エンゲージメントを高めることが重視されてきた。しかし、ユーザーが本当に求めているのは、サービスを長時間使うことなのだろうか。
例えばマッチングアプリであれば、目的は毎日スワイプすることでも、何週間も知らない相手とチャットを続けることでもない。本来の目的は、その先にある「誰かと実際に出会うこと」のはずだ。
こうしたユーザー本来の目的を、ビジネスモデルそのものに組み込んだサービスがある。オランダ発のマッチングアプリ「Breeze(ブリーズ)」だ。
Breezeには、マッチした相手との通常のチャット機能がない。マッチすると、ユーザーは空いている日時を入力し、アプリが日程やデート場所を調整する。ユーザーは当日、指定された場所に行くだけでいい。
さらに特徴的なのが、その収益モデルだ。サブスクリプションも広告もなく、Breezeが収益を得るのは、ユーザーが実際にデートするとき。つまり、ユーザーをアプリに長く滞在させるのではなく、アプリの外へ送り出すことが売上につながるのだ。
「長く使ってもらう」から、「早く目的を達成してもらう」へ。Breezeの成長からは、デジタル疲れが広がる時代に求められる、新たなサービス設計のあり方が見えてくる。
「長く滞在してもらう」は、本当に良いサービスなのか?
デジタルサービスを運営する企業にとって、ユーザーがどれだけ頻繁にサービスを使い、どれだけ長く滞在するかは重要だ。利用時間が増えれば、広告を見る機会や課金につながる接点も増える。
しかし、ここでは、企業とユーザーの間に利害の不一致が生じる場合がある。企業は利用時間や利用頻度の増加を重視する一方、ユーザーはできるだけ早く目的を達成したいと考える。マッチングアプリは、こうした両者の目的の違いが顕著に表れるサービスの一つだ。
気になる相手を探してスワイプし、マッチした後はメッセージを送り、相手からの返信を待つ。会話が続けば、今度は相手を誘い、お互いの予定を確認し、どこで会うのかを決める。
もちろん、こうした過程そのものを楽しむ人もいる。しかし、実際に誰かと会うことが目的なら、それまでにいくつもの小さな判断や作業を繰り返さなければならない。
機能の豊富さや利用時間の長さが、必ずしもサービスの質の高さを意味するとは限らない。むしろ、目的達成までに必要な手間や負担をどれだけ軽減できるかが、新たなサービスの価値になり始めている。
マッチングアプリから人が離れ始めている
実際、オランダでは大手マッチングアプリの利用者が減少している。オランダの英語ニュースメディア「NL Times」が2026年8月に報じたところによると、同年7月の米国発のマッチングアプリ「Bumble(バンブル)」の利用者数は前年同月比9%減、同じく米国発の「Tinder(ティンダー)」は14%減だった。
背景の一つとして指摘されているのが、いわゆる「マッチングアプリ疲れ」だ。
NL Timesの記事では、技術哲学を研究するMarjolein Lanzing(マルヨレイン・ランジング)氏が、Z世代はテクノロジーに慣れているからこそ、マッチングアプリがどのように設計されているかにも敏感だと指摘している。
興味深いのは、マッチングアプリそのものへの需要がなくなっているわけではないことだ。
同じオランダで成長しているのがBreezeである。NL Timesによると、Breezeが設定したデート数は2025年7月の26,000件から、2026年7月には36,000件へ増加した。単純計算で約38%の増加になる。
大手マッチングアプリの利用者が減少する一方、Breezeでは実際のデート数が増加している。その背景にあるのは、アプリ内の機能拡充ではなく、ユーザーがデートに至るまでの手間や負担を減らすサービス設計だ。
Breezeは、ユーザーを「アプリの外」へ送り出す
Breezeの仕組みはシンプルだ。毎日、ユーザーと相性が良いと考えられる相手のプロフィールが提示され、双方が相手を選ぶとマッチングが成立する。ただし、一般的なマッチングアプリとは異なり、マッチング後にチャットでやりとりする機能は設けられていない。
ユーザーはデート代を支払い、希望の日時を入力する。Breezeが二人の予定を照合し、提携するバーなどのデート場所を手配する。公式サイトによると、Breezeは1,500以上のバーや飲食店と提携している。
一般的なマッチングアプリでは、「マッチする→チャットする→デートに誘う→日程を合わせる→店を決める→実際に会う」という流れになる。
Breezeが目指しているのは、その途中の過程をできるだけ省き、「マッチする→会う」へ近づけることだ。だからこそ、Breezeは自らを「オンラインでのやりとりをオフラインへ導くマッチングアプリ」と説明している。
一方、チャット機能がないことで、相手について事前に知る機会が限られるという懸念もある。そのためBreezeでは、ユーザーの本人確認や審査、スタッフが常駐する提携店舗でのデート、双方への事前の参加確認など、安全性を確保するための仕組みを設けている。
公式サイトによると、デート直前に双方の参加意思を再確認する仕組みなどにより、無断キャンセル率は1%未満に抑えられているという。
つまり、Breezeはサービスの機能を単に減らすのではなく、ユーザーが実際のデートに至るまでの手間や負担を軽減することに重点を置いているのだ。
「ユーザーが離れるほど成功する」ビジネスモデル
そして、Breezeで最も興味深いのがビジネスモデルだ。Breezeには月額サブスクリプションがなく、広告も表示しない。ユーザーデータの販売もしない。料金が発生するのは、マッチした二人が実際にデートへ進むときだ。
料金は国によって異なるが、通常は1回あたり10〜15ユーロ程度。マッチングやデートの手配に加え、提携店舗での最初のドリンクも含まれる。
Breezeは、この料金体系を採用する理由について以下のように説明している。
プレミアムプランへの加入や広告の閲覧を促すのではなく、実際のデートにつながる段階で収益を得る仕組みにすることで、企業とユーザーの目的を一致させられるという。この点が、利用時間や利用頻度を重視する従来のエンゲージメント型サービスとの大きな違いだ。
ユーザーがアプリ内にとどまること自体が収益につながるモデルでは、サービス側には「アプリ内での滞在時間を延ばす」というインセンティブが働く。しかしBreezeでは、ユーザーがマッチング後、何週間もアプリを眺めていても、それ自体は売上にならない。実際に会うところまで進んで、初めてビジネスが成立する。
つまり、「ユーザーがサービスを使う時間」ではなく、「ユーザーが目的を達成した回数」に近いものを収益化しているのだ。
Breezeが掲げる「ユーザーをできるだけ長くアプリにとどめるのではなく、デートへ送り出したい」という考え方は、単なるブランドメッセージではなく、収益構造そのものに組み込まれているのである。
次の競争は「滞在時間」から「目的達成までの時間」へ?
Breezeの事例が興味深いのは、この考え方がマッチングアプリ以外にも広げられるからだ。
デジタルサービスは長年、機能やコンテンツ、選択肢を増やすことで、アプリ内での滞在時間を延ばそうとしてきた。
しかし、選択肢が増えすぎた現代では、それらを減らすことにも新たな価値が生まれている。選択肢の比較やメッセージのやりとり、日程調整、予約といった手間を省くことで、ユーザーの負担を軽減できる。つまり、「何ができるか」だけでなく、「どれだけ手間を省けるか」もサービスの重要な価値になりつつある。
もちろん、すべてのデジタルサービスがユーザーの滞在時間を短くすればいいわけではない。動画やゲームのように、その時間自体がユーザーの求める体験であるサービスもある。
しかし、何かを達成するための「手段」を提供するサービスであれば、評価軸は変わる可能性がある。
Engagement(エンゲージメント)、つまり「どれだけ使ってもらったか」から、Outcome(アウトカム)、「ユーザーが何を実現できたか」へ。さらに、目的達成までにかかる時間をどれだけ短縮できるかも、サービスの価値を左右する重要な指標になり得る。
Breezeの事例は、ユーザーの利用時間を延ばすのではなく、目的達成までにかかる時間や手間を削減することが、新たな競争力につながる可能性を示している。
「サービスを使ってもらうには、何を追加すればいいか」ではなく、「目的を達成するまでに、何を省略できるか」。
デジタルサービスへの疲れが広がるなか、今後は利用時間の長さではなく、いかに短時間で目的を達成できるかが、サービスを選ぶ際の重要な基準になるのかもしれない。
文:中井 千尋(Livit)