なぜ若い世代は「高い年会費」を払うのか? プレミアムクレカ人気に見る“節約と贅沢”の新常識
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物価が上がれば、なるべく安いものを選ぶ。不要なものは買わない。セールや割引を活用する。そんな節約志向が強まるのは、ごく自然なことだ。
実際、若い世代も価格に無頓着なわけではない。アメリカのコンサルティング企業McKinsey & Company(以下、McKinsey)の調査では、Z世代は価格を抑えた商品に切り替える「トレードダウン」を積極的に行う一方、自分が価値を感じるものには奮発するという、一見矛盾するような行動も見られる。
2025年の調査では、あるカテゴリーで節約しながら、別のカテゴリーではお金をかける消費行動が広がっていることも示された。
つまり、「節約する人=高いものは何も買わない」とは限らない。そのことを象徴するような動きが、意外なところで起きている。年会費のかかる「プレミアムクレジットカード(以下、プレミアムクレカ)」だ。
アメリカのクレジットカード大手American Express(アメリカン・エキスプレス、以下Amex)が2026年3月に公表した「2026 Chairman’s Letter to Shareholders」によると、ミレニアル世代とZ世代が新規個人顧客の約65%を占めているという。さらに、アメリカの「Gold/Platinumカード」に限れば、新規顧客のおよそ75%がこの2世代だ。
節約する一方で、年会費のかかるカードを選ぶ。一見すると矛盾するこの行動から見えてくるのは、「安いか、高いか」だけでは測れない、新しいコストパフォーマンスの感覚なのかもしれない。
節約したいが「安いもの」が欲しいわけではない
「節約」と「贅沢」は、反対の行動のように思える。しかし、最近の消費者行動を見ると、その境界はそれほど単純ではない。
McKinseyが2025年に中国・ドイツ・英国・米国の消費者を対象に行った調査では、Z世代はほかの世代と比べて経済的な余裕が小さい一方、「奮発したい」という意向も強かった。
また、カテゴリーをまたいだ「トレードダウン」が広がっているとも分析している。ある分野では安い商品を選ぶ一方で、別の分野では奮発するという行動だ。
アメリカでも同様の傾向が見られる。2025年末の調査では、消費者の75%が少なくとも一つのカテゴリーでトレードダウンしていた一方、39%は何らかの商品やサービスに奮発する意向を示した。特にZ世代は、美容、ファッション、外食などで奮発する傾向が見られた。
ここから見えてくるのは、「できるだけお金を使わない」という一方向の節約ではない。支出を抑える一方で、自分にとって価値のあるものには積極的にお金を使う傾向が見られる。
価格そのものより、「その金額を払って、何が得られるのか」を見極める。そんなメリハリのある消費傾向が広がっているのだ。
若い世代が“プレミアムクレカ”の主要顧客に
こうした消費傾向を踏まえると、Amexの顧客データからも興味深い動きが見えてくる。
Amexによると、2025年には世界で1,250万枚のクレジットカードを新規発行した。そのうち、年会費のかかるカードが新規契約の70%超を占めたという。
なかでも成長しているのが若い顧客だ。世界の新規個人顧客の約65%をミレニアル世代とZ世代が占め、アメリカでは、すでにこの2世代が個人顧客によるカード利用額の最大の割合を占めている。
さらに、アメリカの「Consumer Gold/Platinumカード」では、新規顧客の約75%がミレニアル世代とZ世代だった。2025年のカード別の新規顧客の平均年齢を見ると、Platinumは33歳、Goldは29歳となっている。
Amex自身も、ミレニアル世代とZ世代を最も成長率の高い顧客層と位置づけ、「プレミアムな価値提案が特に若い消費者に響いている」と説明している。
「若年層には低価格の商品が支持される」という従来の考え方だけでは、こうした傾向を十分に説明できない。
なぜ若者は、高い年会費を払うのか
では、なぜ若い顧客がプレミアムカードを選ぶのだろうか。ここで重要なのが、現在のプレミアムクレカが単なる「支払いのためのカード」ではなくなっていることだ。
Amexは自社のビジネスモデルを「Membership Model」と呼び、ポイントなどのリワードだけでなく、提携企業による特典やサービス、特別な体験へのアクセスなどを組み合わせて提供している。
2025年にはアメリカのPlatinumカードを刷新。その価値を支える重要な要素の一つが、20を超える主要ブランドとのパートナーシップだ。提携企業と共同で特典を開発し、旅行、飲食、ライフスタイルなどの領域でカード会員にとっての価値を高めている。
Goldカードでも同様だ。2026年4月には、ホテル予約でのポイント還元を引き上げ、レンタカーの上級会員資格を追加したほか、飲食店で利用できるクレジットの対象店舗を更新するなど、特典を強化している。
つまり、年会費だけを見れば「高いカード」でも、普段利用する旅行や飲食などのサービスを組み合わせて考えれば、利用者によっては違った評価になる。
ここでいう「コスパ」は、単純な安さではない。「支払った金額に対して、どれだけの価値を得られるか」というコストパフォーマンスだ。
もちろん、Amexの資料だけから「Z世代は元を取るためにカードを選んでいる」と断定することはできない。ただ、Amexは、特典やサービスなどの付加価値が若年層から支持されていると説明している。
こうした動きと若い世代の選択的な消費傾向を踏まえると、購買判断において価格だけでなく、得られる価値も重視されていることがうかがえる。
「節約」と「贅沢」が、同時に成立する時代
こうした消費傾向を踏まえると、節約志向の若い世代がプレミアムカードを選ぶことも、必ずしも矛盾した行動とはいえない。
例えば、日常の買い物では低価格のプライベートブランド商品を選び、不要なサブスクリプションサービスは解約するなど、支出を抑える。一方で、旅行や外食、ライブなど、自分にとって価値のある体験には積極的にお金を使う。
実際、McKinseyは現在の消費者について、一つのカテゴリーで節約しながら別のカテゴリーでは奮発する行動が広がっており、従来の消費者像では捉えにくくなっていると分析している。
重要なのは、支出の金額だけでなく、何にお金を使うかという点だ。
節約と贅沢は必ずしも相反するものではない。限られた予算の中で支出に優先順位をつけ、自分にとって価値の高い商品やサービスにお金をかけることも、合理的な消費行動といえる。
若い世代によるプレミアムカードの選択も、こうした消費傾向の一例と捉えられる。
Z世代に売るなら、「高い理由」を説明できるか
この変化は、クレジットカード業界に限った話ではない。
ホテル、旅行、飲食、ファッション、サブスクリプションサービスなど、さまざまな業界で「若年層には低価格の商品・サービスが支持される」という従来の考え方だけでは、若い消費者の購買行動を十分に説明できなくなっている。
アメリカのコンサルティング企業Deloitteが2025年に実施したアメリカの消費者調査でも、「価値」は価格だけで決まるものではないことが示されている。
Deloitteの分析によると、消費者が感じるブランド価値の10~40%は、価格以外の要素から生まれている。単に低価格を提示する企業より、品質や信頼といった「価格以上の価値」を提供できる企業のほうが有利になる可能性を指摘している。
価格の安さが必ずしも購買の決め手になるわけではなく、高価格の商品・サービスであっても、提供される価値によっては消費者から支持される。
企業に求められるのは、価格に見合う価値を提供するとともに、その価値が消費者自身のニーズに合致していることを伝えることだ。
Amexが若い世代を取り込んでいる背景にも、カードそのものではなく、その周囲にリワード・サービス・体験・アクセスを組み合わせ、会員であることの価値をつくり続ける戦略がある。
実際、Amexは2025年の好調な業績について、「Membershipの価値を継続的に高める戦略」が成果につながったと説明している。
「できるだけ支出を抑える」から、「価値を感じるものにお金を使い、価値を最大化する」へ。
プレミアムカードを選ぶ若い顧客の増加から見えてくるのは、単なる高級志向ではない。「安さ」だけでは測ることができない価値を見極め、自分のお金をどこに配分するかを選ぶ、新しい消費感覚なのかもしれない。
文:中井 千尋(Livit)