AI時代、「スキルより人柄が重要に」は本当か 企業が求める人材の新潮流とは
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「AIに仕事を奪われないために、何か新しいスキルを身につけなければ」。AIの進化を前に、そんな焦りを感じている人もいるのではないだろうか。
資格の取得や専門知識の習得、プログラミングの学習、AIツールの活用など、変化の激しい労働市場では、「自分には何ができるのか」を証明することが、これまで以上に重要になっている可能性がある。
特に若い世代を取り巻く状況は厳しい。アメリカの金融・経済メディアMarketWatchが紹介したニューヨーク連邦準備銀行のデータによると、2026年第1四半期、22〜27歳の失業率は7.2%で、アメリカ全体の4.2%を大きく上回っている。
これまで若手が担ってきた定型的な業務の一部をAIがこなせるようになったことも、エントリーレベルの仕事を取り巻く変化の一つとして指摘されている。
ところが、そんなAI時代だからこそ、これまで履歴書では評価しづらかった能力に改めて注目が集まっている。
その変化を象徴する言葉の一つが、「Personality Hire(パーソナリティ・ハイヤー)」だ。
AIによって「できること」が増えるほど、人間に求められる能力はどう変わるのか。パーソナリティ・ハイヤーを切り口に、AI時代の「仕事ができる人」の定義を考えてみたい。
「AIに負けないスキルを身につけなければ」と焦っていないか
これまで採用では、専門知識や実務経験、技術力など、「何ができるのか」を示す能力が重要な評価材料とされてきた。もちろん、そうした能力の価値がなくなったわけではない。変わり始めているのは、「それだけで十分なのか」という部分だ。
AIはメールを書き、情報を整理し、コードも生成する。これまで個人の能力として評価されてきた仕事の一部を、AIが補助できるようになっている。
さらに、企業自身もAIによって数年後の業務がどのように変化するのかを正確に予測することは難しい。完成されたスキルを持っているだけでなく、知らないことを学び、状況の変化に対応できる人材の価値が高まる余地が生まれている。
「パーソナリティ・ハイヤー」とは
MarketWatchは、AI時代に注目される人材像として「Personality Hire(パーソナリティ・ハイヤー)」を紹介している。パーソナリティ・ハイヤーとは一般的に、スキルと同等、あるいはそれ以上にカリスマ性を評価される人材を指すという。
業績への直接的な貢献よりも、職場の雰囲気づくりや組織文化への貢献を評価される人材というイメージが強い。もともとSNSでは、「仕事の能力よりもキャラクターを評価されて採用された人」といった、やや自虐的な意味合いでも使われてきた。
しかし、MarketWatchが紹介する現在の「パーソナリティ・ハイヤー」は、単に「明るくて感じがいい人」という話ではない。
職場でのコミュニケーションやパフォーマンスについて発信するHenna Pryor(ヘナ・プライヤー)氏が新しい定義として挙げるのは、フィードバックや指導を受け入れて学べる力、好奇心、信頼性、不明点をためらわず確認できる姿勢、そしてミスをしたときに立て直せる力だ。
さらに企業は、正解が決まっていない状況での対応力にも注目しているという。具体的には、適切な質問ができるか、周囲の状況を把握して行動できるか、フィードバックを受け止められるか、変化に柔軟に対応できるかといった点だ。
つまり、AI時代に企業が評価する「パーソナリティ」とは、単なる性格の良さではなく、他者と協力しながら、正解のない状況でも仕事を前に進める力だという。
AIが「できること」を増やすほど、人間の価値が変わる
なぜ今、こうした能力が注目されるのだろうか。一つの理由が、AIとの役割分担だ。
文章やコードの作成、大量の情報の整理、アイデアのたたき台づくりなど、さまざまな作業でAIが人間を支援できるようになっている。
一方、実際の仕事では、必ずしも正解が明確でない場面も多い。例えば、クライアントが抱える課題を把握することや、意見の異なるメンバー間で調整すること、曖昧な指示に対して適切に質問すること、自身の失敗を認めて関係を修復すること、状況の変化に応じて従来のやり方を見直し、学び直すことなどが挙げられる。
プライヤー氏は、AI登場以前からこうした能力は重要だったものの、現在はその重要性が一段と増していると説明している。
これは、AIには人間性がないため、人間のほうが優れているという単純な話ではない。むしろ、AIが一部の業務を補完できるようになったことで、対人能力や柔軟な対応力など、人間ならではの能力の重要性が改めて認識されるようになっていると考えられる。
また、「何ができるか」に加えて、「分からないときにどう動くか」「人とどう働くか」が問われるようになっている。その変化は、パーソナリティ・ハイヤーという言葉への注目にも表れている。
「感じがいい人」を採用すればいいわけではない
ただし、パーソナリティ・ハイヤーが注目されているからといって、採用で「人柄」を重視すればいいという単純な話ではない。
MarketWatchの記事では、こうした人間的な能力の価値がAI時代になって新たに高まったという見方に対し、異なる意見も紹介されている。
技術系リクルーターのFarah Sharghi(ファラ・シャルギ)氏は、エントリーレベルの採用では、好奇心や成長する力は以前から重視されてきたと指摘する。そのうえで、仕事に必要な技術的能力は、その人が一緒に働きやすいかどうかよりも優先されるとの見方を示している。
確かに、「人柄」という曖昧な基準を重視しすぎれば、別の問題も生まれる。話が上手な人や外向的な人ばかりが評価されたり、面接官と似たタイプの人が「カルチャーに合う」と判断されたりするなど、採用する側の主観やバイアスが評価に反映されやすくなる。
だからこそ必要なのは、「スキルか、人柄か」という二択ではない。
例えば、「コミュニケーション能力」という曖昧な基準ではなく、必要なときに質問できるか、フィードバックを受けて行動を改善できるか、ミスをした際に適切に対応できるかなど、仕事上の具体的な行動を基準に評価することが重要だ。
AI時代の採用で問われるのは、専門性を軽視して人柄を重視することではない。専門性に加えて、これまで「人柄」とひとくくりにされがちだった能力を、仕事に必要な力としてどう捉え、評価していくか。パーソナリティ・ハイヤーという言葉は、そんな新しい問いを採用する側に投げかけているのかもしれない。
AI時代、「自分にしかない強み」は意外と身近にあるのかもしれない
AI時代のキャリアを考えると、「もっと高度なスキルを身につけなければ」と焦りやすい。もちろん、専門性を磨くことはこれからもキャリアにおいて重要だ。MarketWatchの記事も、技術力や経験が不要になったとは述べていない。
一方で、改めて注目したい能力もある。相手の話に耳を傾ける力や、分からないことを質問する力、フィードバックを受け入れる柔軟性、周囲との協調性、失敗から立ち直る力、変化に応じて学び直す力などだ。
いずれも履歴書ではアピールしにくく、一見すると当たり前のように思える能力だ。
しかし、AIが人間の知識や作業の一部を補完できるようになることで、こうした能力が仕事の成果を左右する場面は、今後さらに増える可能性がある。
AI時代に問われるのは、「AIより何ができるのか」だけではない。AIを使いながら、周囲の人とどう働き、変化のなかでどう学び続けられるのかが重要になる可能性がある。
パーソナリティ・ハイヤーという言葉は、AI時代に求められる人材像の変化を象徴しているのかもしれない。
これからの「仕事ができる人」には、専門的なスキルだけでなく、他者と協力する力や学び続ける姿勢、変化に柔軟に対応する力も求められるようになる可能性がある。
AIが担える業務の範囲が広がるなか、これまで「人柄」として捉えられてきた協調性や適応力、学習意欲などを、仕事の成果につながる能力として改めて評価することが重要になるだろう。
文:中井 千尋(Livit)