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Z世代はなぜ「マイホーム」より先に投資をするのか 20代で“未来の選択肢”を買う若者たち

「就職したら貯金をして、結婚して、いつかマイホームを買う」。

かつては、そんな人生の順番を思い描くことが、それほど難しくなかったのかもしれない。しかし今、そのロードマップは若い世代にとって当たり前ではなくなりつつある。

住宅価格は上昇し、生活費の負担も増している。結婚や子育てにも多くの費用がかかる。働き方も変化するなか、20代のうちから数十年先の人生を見通すことは難しい。

では、将来が見通しにくくなった若い世代は、未来への準備そのものを諦めているのだろうか。実際には、そうとは限らない。

アメリカでは、Z世代が住宅購入や子育てといった従来のライフイベントでは遅れを見せる一方、株式投資や老後資金の準備については、むしろ年上の世代より早く動き始めていることが分かった。アメリカの金融情報メディアInvestopediaは、この一見矛盾する動きを「Z世代は、老後資金の貯蓄を除く多くのマイルストーンで遅れている」と報じている。

若い世代は人生設計をしなくなったのではない。人生設計の方法そのものが、変わり始めている可能性がある。

「いつかマイホームを買う」が、人生の前提ではなくなった

Z世代がお金について考える背景には、まず、彼らが成人期を迎えた際の経済環境が影響している可能性がある。

Investopediaによると、アメリカの住宅価格は2000年から約210%上昇した。子育てに関連する保育・教育費も約190%上昇している。一方、賃金の伸びは約84%にとどまっている。

当然、人生の大きな決断にも影響する。アメリカの金融サービス企業Northwestern Mutualの2026年の調査では、Z世代の3割以上が経済的な理由から住宅購入を先送りし、4人に1人が子どもを持つ時期を遅らせていると回答した。

しかし、「若い世代がマイホームを欲しがらなくなった」「結婚や子育てに興味を失った」とは限らない。変わったのは価値観だけではなく、住宅購入や子育てを実現するために必要な経済条件でもある。

「何歳で結婚し、何歳でマイホームを買う」といった従来型の人生設計は、ある程度、未来が予測可能なことを前提としていた。しかし、大きな買い物のハードルが上がり、働き方や生活コストも変化するなか、その前提自体が揺らいでいる。

人生のゴールが消えたというより、あらかじめゴールと順番を決めることが難しくなっているのである。

それでもZ世代は、早くから投資を始めている

興味深いのは、こうした状況でも、Z世代が将来のお金について考えることをやめていない点だ。

アメリカの金融シンクタンクJPMorganChase Instituteのデータによると、2024年時点で25歳だった人のうち、22歳以降に当座預金から投資口座へまとまった資金を移した人は37%。2015年時点で25歳だった人では、わずか6%だった。

老後への備えも早い。アメリカの金融企業Bank of Americaの調査では、Z世代が老後資金の貯蓄を始める平均年齢は24歳となっており、ベビーブーマー世代より10年早いという。

つまり、住宅購入や子育てなど、従来「大人になること」と結び付けられてきたマイルストーンへの到達は遅くなっている。その一方で、金融資産をつくり始めるタイミングは早くなっている。

もちろん、すべてのZ世代が経済的な余裕を持っているわけではない。Bank of Americaの別の調査では、Z世代の57%が、収入が途絶えた場合などに備えた「3カ月分の生活費に相当する貯蓄」を持っておらず、30%は貯蓄に回せるだけの十分な収入がないと回答している。

だからこそ、この変化を「Z世代は投資に長けている」と単純に捉えることはできない。むしろ、経済的な余裕があるとは限らないなかでも、早くから将来を見据えた資産形成を意識している点が特徴的だ。

なぜ若いうちから「未来のお金」を考えるのか

では、なぜ若い世代はこれほど早く投資へ向かうのだろうか。Investopediaは、いくつかの背景を挙げている。

1つは、新型コロナウイルスのパンデミック期に支出機会が減り、政府による経済支援も重なって家計の手元資金が増え、その一部が投資に向かった可能性があることだ。

もう1つは、この10年間で株価が大きく上昇してきたことだ。また、住宅が手の届きにくい資産になるなか、貯蓄の行き先が不動産から株式へ向かっている可能性も指摘されている。

老後への不安もある。Z世代のうち、アメリカの公的年金であるSocial Securityを老後の主な収入源にすると考えている人はわずか5%。なお、1世代上のミレニアル世代では16%だった。

つまり、「将来は何とかなる」と考えているから投資を始めるのではない。むしろ、将来がどうなるか分からないからこそ、自分で備えようとしているとも読み取れる。

資産形成は、明確な人生のゴールに向けてお金を準備するものから、先の見えない未来に備えるための手段へと、その意味を変えつつあるのかもしれない。

Z世代が買おうとしているのは、「マイホーム」ではなく「選択肢」なのかもしれない

従来の資産形成には、比較的明確な目的があった。住宅購入のために頭金を貯める、子どもの教育費を準備する、定年後に備えて老後資金を蓄える、といったものだ。

しかし、人生の順番そのものが見えにくくなったとき、お金を持つ意味も変わる。転職や働き方の変更、別の地域への移住、新たなスキルの習得など、資産があれば人生のさまざまな局面で選択肢を持つことができる。予期せぬ出来事にも、柔軟に対応しやすくなる。

こうした観点から見ると、若いうちから資産を形成することは、特定の未来を実現するためだけの準備ではない。まだ決まっていない未来の「選択肢」を残すための準備とも捉えられる。

もちろん、Investopediaの記事が「Z世代は選択肢を買うために投資している」と結論づけているわけではない。だが、住宅などの大きなマイルストーンが遠ざかる一方で、より流動性の高い金融資産へ投資を始める時期が早まっているという対照的な動きは、お金と人生設計の関係が変化している可能性を示している。

「マイホームを持つ」という1つの未来に資産を固定するより、まだ見えない未来に対応できる余白を持っておく。その発想は、不確実性の高い時代には合理的なのかもしれない。

「人生設計ができない時代」の、新しい人生設計

かつて人生設計には、「何歳で結婚し、何歳でマイホームを買い、何歳まで働くか」を決めるという側面があった。

しかし、住宅価格も働き方も家族のあり方も変化する現在、20代で数十年先の人生を決めることは難しくなっている。だからといって、若い世代が未来について考えることをやめたわけではない。

むしろ、未来を決められないからこそ、あらゆる可能性に対応できる準備を早くから始めている。Z世代の早期投資という現象は、そういった変化の一端として捉えることができる。

「正解の人生」を実現するためにお金を貯めるのではなく、まだ正解の分からない人生で、自分が選択できる範囲を広げるためにお金を持つ。

そう考えたとき、住宅購入が遅くなり、投資開始が早くなっていることは、必ずしも矛盾しない。未来を決めることが人生設計だった時代から、未来を選べる状態をつくることが人生設計になる時代へ。

Z世代のお金の使い方から見えてくるのは、単なる投資ブームではない。不確実な時代を生きるための「備え」の意味そのものが、変わり始めているということなのかもしれない。

文:中井 千尋(Livit)

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