仕事は家でできる。それでも会社に行く意味は? Z世代が問い直すオフィスの役割
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「リモートワークか、それとも出社か」。
コロナ禍以降、働き方はこの二択で語られることが増えた。企業は出社回帰を進める一方で、社員からは柔軟な働き方を求める声が上がる。オフィスに戻すべきか、それともリモートワークを維持すべきか。議論は今も続いている。
しかし、当事者である若い世代は、この問いを少し違う角度から見ているようだ。
イギリスのインテリアデザイン会社Diamond Interiors(ダイアモンド・インテリアズ)の調査では、Z世代の53%が「オフィスより自宅の方が生産性が高い」と回答した。
理由として挙げられたのは、騒音や中断が少なく、自分のペースで集中しやすいことだった。オープンプラン型のオフィスより、自宅の方が仕事に没頭できるというのである。
だからといって、Z世代が完全なリモートワークを望んでいるわけではない。いま問われているのは、「どこで働くか」ではなく、「職場で何を得られるか」なのだ。
「会社に来て」と言われても、理由が見えない
コロナ禍を経て定着したリモートワークだが、ここ数年は出社回帰の動きも目立つようになった。企業側は、対面でのコラボレーションや企業文化の醸成、若手社員の育成などを理由に、オフィス勤務の価値を改めて見直している。
実際、大手テクノロジー企業をはじめ、出社日数を増やしたり、オフィス勤務を基本とする方針へ切り替えたりする企業も少なくない。
しかし、若い世代は「出社かリモートか」という二択そのものには、あまり関心を持っていないようだ。
ダイアモンド・インテリアズの調査では、Z世代の53%が「自宅の方がオフィスより生産性が高い」と回答している。その理由として多く挙げられたのは、騒音や割り込みが少なく、自分のペースで集中できることだった。
仕事に没頭する環境という点では、自宅のほうが適していると考える人が少なくないのである。もちろん、これは「オフィスは不要」という意味ではない。
むしろ調査から見えてくるのは、「なぜ出社するのか」という問いの変化だ。クラウドツールやオンライン会議が当たり前になり、AIが議事録を作成し、共同編集ツールでリアルタイムに作業できる現在、「パソコンを開くために会社へ行く」理由は以前ほど明確ではなくなった。
だからこそ、「会社に来てほしい」というメッセージだけでは十分ではない。社員が知りたいのは、「何日出社するのか」ではなく、「出社することで、自宅では得られない何が得られるのか」なのである。
仕事は家でできる。それでも職場は必要なのか
資料作成やデータ分析、メールの作成など、こうした一人で完結する仕事は、自宅の方が効率的だと感じる人も少なくない。実際、オンライン会議やクラウドツール、生成AIの普及によって、多くの業務は場所を問わず進められるようになった。
しかし、仕事には「一人では完結しない時間」もある。
例えば、会議後の立ち話からアイデアが広がったり、隣の席の同僚に「これってどう思う?」と気軽に相談したり、偶然顔を合わせた他部署のメンバーとの雑談から新しい企画が生まれたりすることもある。こうした予期しないコミュニケーションは、オンラインでは意識的に場を設けなければ生まれにくい。
特に若手社員にとっては、先輩が仕事を進める様子を近くで見たり、ちょっとした疑問をその場で聞いたりする経験も重要だ。マニュアルには書かれていない知識や仕事の進め方は、日々の何気ないやり取りの中で身につくことが少なくない。
つまり、オフィスは「仕事をする場所」から、「オフィスでしか得られないものを得る場所」へと、その役割を変えつつある。
集中して仕事をする場所としては、自宅という選択肢がある。一方で、信頼関係を築き、学び、アイデアを生み出す場としては、リアルな空間だからこそ生まれる価値がある。
だからこそ、これから企業に求められるのは、「オフィスか、リモートか」という二者択一ではない。それぞれの場所が持つ強みをどう生かすかという発想なのである。
「来てもらうオフィス」は、どう設計されているのか
オフィスの役割が「仕事をする場所」から「人と関わる場所」へと変わるなか、海外ではオフィスそのものの設計も変わり始めている。
以前のように、全員が毎日同じ席に座ることを前提としたオフィスではなく、「オフィスでしか得られない価値」をどう生み出すかを重視する企業が増えているのだ。
その考え方を象徴するのが、「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」である。これは、「どこに座るか」ではなく、「どんな仕事をするか」に応じて働く場所を選ぶという考え方だ。
集中したいときは静かなブース、チームで議論するときはコラボレーションスペース、オンライン会議なら防音ブースへ――というように、仕事の内容に合わせて最適な環境を選ぶ。
背景にあるのは、「すべての仕事をオフィスで行う必要はない」という認識だ。一人で完結する仕事は自宅でも進められる一方、アイデアを生み出したり、人と信頼関係を築いたりするうえでは、リアルな空間だからこそ得られる価値がある。
だからこそ、海外ではラウンジやカフェのような交流スペース、フォーカスルーム、防音ルームなどを備え、「今日はオフィスへ行く意味がある」と感じられる環境づくりが進んでいる。
企業が目指しているのは、社員を無理に出社させることではなく、そこでしか得られない体験をどう設計するかということだ。こうした発想の転換とともに、オフィスの役割も大きく変わり始めている。
「どこで働くか」より、「どう働くか」
ここまで見てきたように、オフィスの役割は変わりつつある。では、その変化を最も歓迎しているのは誰なのだろうか。
Z世代は、しばしば「自由な働き方を求める世代」と言われる。しかし、それだけでは今回の調査結果は説明できない。もし本当に「自由」が最優先なら、自宅の方が生産性が高いと考える人の多くは、完全リモートワークを望むはずだ。
しかし実際には、多くのZ世代は出社そのものを否定しているわけではない。一人で集中したい時間もあれば、人と議論したい時間もある。
彼らが求めているのは、「どこでも働ける自由」ではなく、その日の仕事や目的に応じて最適な環境を選べることなのではないだろうか。
だからこそ、「働く場所」は以前ほど重要ではなくなり、「働く体験」が重要になっている。自宅でしか得られない集中があり、オフィスでしか得られない学びや刺激がある。どちらか一方を選ぶのではなく、それぞれの価値を使い分けたいという考え方が広がっているのだ。
企業にとっても、この変化は小さくない。出社日数を増やすこと自体が目的ではなく、「社員は、このオフィスでどんな体験を得られるのか」という問いに答えられるかどうかが、これからの職場づくりを左右していく。
オフィスは、何のためにあるのか
AIやクラウドツールの普及によって、「仕事をする場所」としてのオフィスの役割は以前ほど絶対的ではなくなった。
一人で集中して取り組む仕事は、自宅でも十分にできる。だからこそ、企業が社員に出社を求めるのであれば、「オフィスだからこそ得られる価値」を示すことが、これまで以上に重要になっている。
その価値とは、人と偶然出会うことかもしれない。立ち話から新しいアイデアが生まれることかもしれない。あるいは、チームの一員として信頼関係を築き、互いに学び合うことかもしれない。
つまり、オフィスは「仕事をする場所」から、「オフィスでしか得られないものを得る場所」へと、その役割を変えつつある。
だからこそ、これから企業が考えるべきなのは、「社員をどう出社させるか」ではなく、「社員がこのオフィスで何を持ち帰ることができるのか」という問いだ。その答えを示せる職場こそが、人を引きつける場になっていくのではないだろうか。
働く場所を選ぶ時代から、働く場で何を得るかを選ぶ時代へ。オフィスの役割が変わるということは、働き方が変わるだけではない。企業と社員の関係、そして組織のあり方そのものが、静かに変わり始めていることを示しているのかもしれない。
文:中井 千尋(Livit)