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親指・首・目まで不調に? 「スマホ親指症候群」から考え直す、デジタルデバイスとの付き合い方

親指が痛い。スマートフォンを持っているだけで違和感がある。そんな症状に、「スマホ親指症候群(Texting Thumb)」という名前が付けられ、海外で話題になっている。きっかけは2026年7月、AP通信が配信し、複数の海外メディアが報じた記事だ。

ビジネスパーソンの一日は、メール・Slack・Teams・SNS・ニュースチェックから電子決済まで、スマートフォンなしでは成り立たない。だからこそ、「どのようにスマートフォンと付き合うか」を知ることが重要である。

「スマホ親指症候群」とは何か

まず押さえておきたいのは、「スマホ親指症候群」は正式な病名ではないという点だ。英語では「Texting Thumb」と呼ばれ、スマートフォンの長時間操作によって生じる親指や手首の痛み、炎症、しびれなどを総称する俗称である。

AP通信の記事でコメントを寄せた医師Eugene Tsai(ユージン・ツァイ)氏は、「私たちの手は一日中スマートフォンを持ち続けるようには設計されていない」と説明している

症状は単なる親指の痛みにとどまらない。親指を動かすとズキッと痛む。物をつまみにくくなる。ボトルのふたが開けづらい。スマートフォンを持っているだけで違和感がある。さらに悪化すると、手首の腱に炎症が起こるドケルバン病や、ばね指につながるケースもある。

University of Kentucky HealthCare Hand Centerの整形外科医Maureen O’Shaughnessy(モーリーン・オショーシー)氏は、「近年、スマートデバイスの普及とともに、こうした症状で受診する患者を診察する機会が増えた」と述べている

最新研究は何を示しているのか

「スマホ親指症候群」は俗称ではあるが、このテーマに関する医学研究も進みつつある。

2026年には、42件の研究、延べ約67,000人を対象としたシステマティックレビューが発表された。システマティックレビューとは、複数の研究結果を体系的に分析し、現時点で得られているエビデンスを総合的に評価する研究手法である。

このレビューでは、スマートフォンの長時間使用と、ドケルバン病や手根管症候群、腱炎などとの関連を検討した研究が数多く報告されていることが整理された。

一方で、レビューの著者らは、スマートフォンの使用がこれらの疾患の直接的な原因であると結論づけたわけではないことも強調している。

つまり、現時点で言えるのは、「長時間・反復的なスマートフォンの使用は、親指や手首の不調と関連する可能性が示唆されている」ということである。

医師が勧める予防法は意外とシンプル

では、専門家はどのような対策を勧めているのだろうか。Tsai氏とO’Shaughnessy氏が共通して挙げるのは、スマートフォンを「使わない」のではなく、「使い方を変える」ことである。

例えば、片手だけで長時間操作するのではなく、両手を使う。音声入力を活用する。スマートフォンを握り締めたままスクロールを続けない。短時間でも休憩を入れる。

O’Shaughnessy氏は、症状が軽いうちはストレッチやサポーターの使用、市販の消炎鎮痛薬の服用によって改善する場合もある一方、数週間たっても痛みが続く場合は整形外科や手の疾患を専門とする医療機関を受診すべきだとしている。

特にリモートワークでは、スマートフォンだけでなくノートPCやタブレットも併用する人が多い。朝から晩までデジタルデバイスを使い続ける生活では、親指だけを守ればよいわけではない。

むしろ、本当に注目すべきなのは、「スマホ親指症候群」の背景にある現代人の身体の使い方そのものである。

親指だけではない、「テックネック」という新しい現代病

スマホ親指症候群と並んで近年よく耳にするようになったのが、「テックネック(Tech Neck)」である。

これは正式な病名ではなく、スマートフォンやパソコンを長時間使用することで起こる首や肩の不調を指す総称だ。その代表例が「ストレートネック」である。

本来、人間の頸椎はゆるやかなカーブを描いている。このカーブが頭の重さを分散し、首への負担を軽減する役割を果たしている。しかし、スマートフォンをのぞき込む姿勢が長時間続くと、首が前方へ突き出た状態となり、首や肩の筋肉に大きな負荷がかかるという。

ニューヨークの脊椎外科医Kenneth Hansraj(ケネス・ハンスラージ)氏は2014年、頭部が前方へ傾くほど頸椎周囲にかかる負荷が増えるとする力学モデルを発表した。頭部を約60度前傾させた場合、約27キログラム(約60ポンド)相当の負荷がかかると試算している。

この数値は、姿勢によって首周囲にかかる力学的な負荷をモデル化した推計値である。研究では、頭部を前に傾けるほど、首への負荷が大きくなることが示されている。

ビジネスパーソンであれば、PCを用いた作業の合間にスマートフォンでメールを確認し、移動中はSNSやニュースを閲覧し、帰宅後も動画を見るという生活になりがちだ。このような生活の中で、首が休まる時間は驚くほど少ない。

その結果として、首こりや肩こりだけでなく、頭痛や腕のしびれ、集中力の低下につながるケースもある。スマホ親指症候群とテックネックは別の症状ではあるが、「同じ姿勢を長時間続ける」という共通の原因がある。

「スマホ老眼」は本当に老眼なのか

もう1つ、スマホ時代を象徴する言葉が「スマホ老眼」である。こちらも正式な医学用語ではない。本来の老眼は、加齢によって水晶体が硬くなり、近くのものにピントを合わせる力が低下する状態を指す。

一方、「スマホ老眼」と呼ばれるものは、近距離を見続けることでピント調節に関わる目の筋肉(毛様体筋)が疲労し、一時的にピント調節がうまくできなくなる状態を意味することが多い。

スマートフォンを何時間も見続けた後、遠くを見るとぼやける。あるいは、PCからスマートフォン、スマートフォンから会議室のスクリーンへと視線を移した際に、ピントが合うまで時間がかかる。こうした経験に心当たりがある人は少なくないだろう。

もちろん、加齢に伴う一般的な老眼とは異なるため、休息を取ることで改善するケースも多い。しかし、眼精疲労やドライアイを悪化させ、生産性を下げる要因になり得る。

ビジネスの現場では、情報処理能力そのものよりも、「集中力をどれだけ維持できるか」が成果を左右する場面が増えている。目や首、手の疲労は単なる身体の問題ではなく、業務のパフォーマンスにも直結するのである。

問題は「スマホ」ではなく、「使い方」である

ここまで紹介してきたスマホ親指症候群、テックネック、スマホ老眼には共通点がある。

問題はスマートフォンそのものではなく、「特定の筋肉を繰り返し使う」「同じ姿勢を長時間続ける」「十分な休憩を取らない」といった、使い方や生活習慣にある。

実際、Tsai氏も、「スマートフォンは現代生活の一部であり、使わないという選択肢は現実的ではない」と話している

だからこそ重要なのは、デジタルデバイスとの距離感を見直すことだ。スマートフォンは片手ではなく両手で持つ。親指だけで操作し続けず、人差し指も使う。音声入力を活用する。30〜60分に一度は立ち上がり、肩や首を動かす。PCの画面は目線に近い高さに調整する。

いずれも特別な器具を必要とせず、日々の使い方を少し見直すことで、身体への負担を軽減することができる。

テクノロジーは私たちの働き方を大きく変えた。だからこそ、これからの時代に求められるのは、デジタルデバイスを使いこなすスキルだけではない。自分の身体を守りながら、テクノロジーと長く付き合っていくための知恵なのである。

文:岡 徳之(Livit

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