Z世代はなぜ「二日酔い」を隠さない? 完璧なウェルネスを求めない若者たち
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SNSで「理想の朝」といえば、早起きして運動をし、栄養バランスの取れた朝食を用意し、その日の予定を整える光景が、ひとつの典型として発信されている。
睡眠時間や心拍数を記録し、より健康に、より生産的に過ごすことも、現代のウェルネス習慣としてすっかり定着した。
ところが最近、TikTokやInstagramでは、それとは対照的な投稿が注目を集めている。オーバーサイズのスウェットを着てコーヒーを淹れ、キャンドルを灯しながら本を読む。ゆっくり散歩をし、「昨日は最高の夜だった」と振り返る。テーマは、飲み過ぎた翌朝、つまり二日酔いだ。
イギリスの新聞「The Guardian」は、この現象を「二日酔いをロマンチックに演出する(romanticizing hangovers)」トレンドとして紹介している。
ただし、若者たちは泥酔や過度な飲酒を称賛しているわけではない。投稿の中心にあるのは、飲酒そのものではなく、楽しい夜を過ごした翌日に、自分を責めず、ゆっくり回復する時間である。
この少し意外なトレンドから見えてくるのは、「健康であること」は大切にしながらも、常に完璧でいようとする空気から少し距離を置こうとする価値観だ。
本記事では、Z世代がなぜ「二日酔いをした自分」をあえてSNSで表現するのか、その背景にある新しいウェルビーイングの考え方を読み解いていきたい。
二日酔いは、「失敗」ではなく楽しい夜の余韻になった
これまで二日酔いは、「飲み過ぎた」「自制できなかった」という失敗として語られることが多かった。翌朝の体調不良は後悔の対象であり、できれば他人には見せたくないものだった。
しかし、SNSで共有されている二日酔いのイメージは少し違う。目の下にクマの残った顔やボサボサの髪でコーヒーを飲み、ソファでゆっくり過ごす。その姿は失敗の証拠というより、友人たちと過ごした楽しい時間の余韻として描かれている。
The Guardianの記事に登場するクリエイターも、「友達と楽しい夜を過ごしたからといって、翌日まで罪悪感を持つ必要はない」と話している。つまり、肯定されているのは二日酔いそのものではなく、楽しんだ自分を責めない姿勢だ。
「昨日は楽しかった。今日はゆっくりしよう」。効率や自己管理を重視する価値観とは異なる、新たな考え方として受け入れられているのかもしれない。
完璧なウェルネスを求めない
このトレンドの背景には、「健康であること」が1つのライフスタイルとして重視されるようになった社会の変化がある。
筋力トレーニング・グリーンスムージー・睡眠管理・瞑想・バイオハック。また、スマートウォッチやウェアラブル端末を使えば、睡眠や活動量、ストレスの状態まで数値として把握できる。こうしたツールや習慣の普及により、健康管理の選択肢は広がっている。
しかし、それらがSNSで「理想の暮らし」として繰り返し発信されると、健康は少しずつ「自分で正しく管理すべきもの」へと変わっていく。
よく眠り、運動し、栄養を取り、前向きで生産的に過ごす。どれも本来は人生を豊かにするための習慣だが、毎日続けることが前提になると、できなかった日が失敗に見えてしまう。
二日酔いの翌朝を美しく切り取る投稿では、健康的な暮らしを否定するのではなく、夜更かしをしたり、友人と酒を飲んだり、翌日は予定を入れずに休んだりする姿も描かれている。
こうした投稿からは、常に健康的な生活を維持することだけでなく、ときには休息や楽しみを優先する過ごし方もウェルネスの一部として捉える価値観がうかがえる。
Z世代が求めているのは、ウェルネスの放棄ではなく、完璧なウェルネスを求めすぎないことなのかもしれない。
「リアル」さえ美しく演出される時代
二日酔いの投稿には、整いすぎたSNS文化へのアンチテーゼという側面もある。クマのある顔や乱れた髪、ソファでだらだら過ごす姿を見せることが、「私はいつも完璧ではない」というリアルさや親近感につながっている。
一方で、こうした投稿には矛盾するような側面もある。トレンドとして紹介されている投稿では、嘔吐する姿や危険な飲酒ではなく、おしゃれなマグカップや柔らかなスウェット、キャンドル、読書、散歩といった、穏やかに演出された翌朝が描かれている。
つまり、このトレンドは「加工されていない現実」をそのまま見せているわけではない。二日酔いさえも、映画のワンシーンのように美しく編集されている。
それでも従来と違うのは、見せる対象が変わったことだ。健康的で活動的な自分だけでなく、疲れて何もしない自分も、発信する価値のある姿として受け入れられ始めている。
完璧さを手放す姿も、SNS上では美しく演出されている。こうした投稿では、二日酔いの翌日に無理に活動するのではなく、休息を取ることを肯定的に捉える姿勢が表現されている。
たまの夜だからこそ、特別な思い出になる
もう1つ、この現象を理解するうえで見逃せないのが、Z世代を取り巻く経済環境だ。「若者の飲酒離れ」は健康意識の高まりだけでなく、外食やイベントにかかる費用の高騰とも関係している。The Guardianが紹介した調査では、Z世代の75%が、金銭的な理由から飲酒を伴う外出を減らしているという。
飲みに出かける機会が減っているからこそ、友人と集まって楽しめた夜は特別な思い出になる。その翌日の二日酔いも、「やってしまったこと」ではなく、楽しかった時間の痕跡として受け止められる。
飲酒の機会が限られる時代だからこそ、その一夜と翌朝には物語が生まれ、SNSで共有したくなるのかもしれない。
休ませたいのは、「ちゃんとしている自分」なのかもしれない
もちろん、二日酔いが健康に良いわけではなく、このトレンドを飲酒の推奨として受け取るべきでもない。SNSに映る心地よい翌朝の裏には、アルコールが身体に与える負担や、過度な飲酒のリスクがあることも忘れてはならない。
それでも、この現象が多くの若者の共感を集める理由は考える価値がある。こうした投稿からは、二日酔いそのものを肯定するというより、予定や成果を意識せず、休息する時間を肯定的に捉える姿勢がうかがえる。
「ちゃんとしている自分」から一時的に離れることも、ウェルビーイングの1つの在り方として捉えられ始めているのかもしれない。
ウェルビーイングとは、毎日完璧に自分を整えることではない。健康的な日も、友人と夜更かしをする日も、その翌日に何もしない日も含めて、自分の生活を受け入れられることではないだろうか。
「昨日は楽しかった。今日は休もう」
二日酔いをロマンチックに演出する投稿から読み取れるのは、飲酒の魅力だけではない。完璧であり続けなくてもいいという、小さな許可なのかもしれない。
文:中井 千尋(Livit)