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既存インフラを活かしながらGXを進める ABB日本ベーレーのオートメーション戦略

生成AIの登場やデータセンターの増加によって、世界的に電力需要は増加を続けている。一方で、日本では2050年のカーボンニュートラル実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)が加速し、再生可能エネルギーの導入や既存インフラの高度化が急務となっている。

しかし現実には、「脱炭素化」だけを追求すればよいわけではない。安定供給・経済性・環境性——そのすべてを両立する「エネルギー・トリレンマ」への対応が、日本のGXにおける大きな課題となっている。

こうしたなか、エネルギー産業向けオートメーションを手掛けるABB日本ベーレーは、「実用主義」を掲げ、既存設備を活かしながら段階的にGXを進めるアプローチを推進している。

火力発電所やLNG基地など、日本の重要なインフラを長年支えてきた同社は、単なる設備提供企業ではなく、「エネルギー・トランスフォーメーションパートナー」として、日本のエネルギー転換を支えようとしている。

本稿では、ABB日本ベーレー 代表取締役 三浦 哲雄氏へのインタビュー取材を通じて、“止めない変革”を実現するために必要な視点と、日本のエネルギーインフラの未来について探る。

脱炭素だけでは進まない 日本のGXが抱える現実

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、日本のGXは加速している。再生可能エネルギーの導入と、既存インフラの高度化。この2つを同時に進めることが急務となっている。

2025年に閣議決定された長期エネルギー方針「第7次エネルギー基本計画」では、再生可能エネルギーが初めて「最大の電源」と位置づけられ、2040年度には電源構成の4~5割程度が目標に設定された。

また、同じく2025年に閣議決定された国家戦略「GX2040ビジョン」では、10年間で150兆円規模の投資を呼び込む方針も示されている。GXに向けた国の方針が定まり、いままさに各所で動きが進んでいる。

しかし、その実現は一筋縄ではいかない。

「難しさの根本には、エネルギー・トリレンマと呼ばれる構造があります。安定して供給すること、手頃な価格であること、環境にやさしいこと。この3つが求められています。しかしこれは、“安い・早い・うまい”を全て同時に、というようなもの。どれか1つを立てようとするとバランスが崩れてしまい、3つを成り立たせるのが本当に難しいのです。さらに、日本のエネルギー自給率は約12%とG7で最も低く、現時点ですでに構造的な制約を抱えています」

ABB日本ベーレー 代表取締役 三浦 哲雄氏

そしていま、この構造的な課題の上に新たな変数が重なりつつある。長らく減少傾向にあった国内の電力需要が、AIデータセンターや半導体工場の新増設により、2035年には増加へ転じる見通しなのだ。電力需要の増加へ対応しなけらばならない一方で、CO2排出量は削減しなければならない。本来であれば相反するこの2つを、同時に実現することが求められているのである。

一見すると矛盾するこの2つの両立は、理想論にも聞こえる。しかし、それを現実のものにすべく、ABB日本ベーレーが重視するのが、既存の設備を活かしながら新エネルギーを段階的に導入する「AND」の発想でのエネルギー転換だ。

「日本の発電所やLNG基地は、莫大な投資で築かれた資産です。新設するにはコストも時間もかかりますし、既存の設備を建て替えるにしても、一時的に運転を止め、その間の発電をどこかで担保しなければなりません。どちらも現実的な方法とはいえず、既存の設備を活かしながら新しくしていくほかないのです。

理想を一度に叶えようとするのではなく、現在ある設備を活かしてリスクを抑えながら一歩ずつ進める現実的な移行、いわば“止めない変革GX”が重要だと考えています」

そんな現実的なエネルギー転換が、すでに現場で始まっている。

「たとえば火力発電では、既存のボイラーで石炭にアンモニアを2割混ぜて燃やす『アンモニア混焼』が始まっています。これから徐々に混焼率を上げ、将来的にはアンモニアだけで燃やす専焼を目指す。こうした技術を使えば、設備を建て替えることなく、CO2排出量を減らしていくことができるのです」

一歩一歩、段階的に進んでいる脱炭素。ただしその歩みを支える現場には、相応の課題があるという。

「私たちが最も強く意識している課題は、“絶対に止めてはいけないインフラ”を守りながら、いかに最新の技術を安全に取り入れていくか、ということです。信頼性と革新の両立、と言い換えられるかもしれません。

電力供給は止められませんし、その電力を送り出す発電所の制御においては、0.1秒の遅れも許されません。一方で、AIやデジタル技術は急速に進化しており、次々と取り込まなければ現場の効率は上がらない。しかし、安定して動くシステムに新しいものを足すのは、非常にリスクが高い。当社はこの課題を、“分けて、つなぐ”という設計思想で解決しています。止めてはいけない制御は守りつつ、AIなどの新技術は安全に追加・更新できる仕組みを構築しています」

止められないインフラを支えるオートメーション技術

ABB日本ベーレーは、1971年の設立以降、50年以上にわたって日本のエネルギー供給における「制御」を担ってきた。国内大手電力会社を中心に「DCS(分散型制御システム)」や計装機器を供給。火力発電所やLNG基地など各地の施設で導入され、日本のエネルギー安定供給を支えてきた“縁の下の力持ち”である。

そのDCSとは、いったいどのような技術なのだろうか。

「DCSは、ひとことで言えば発電プラントの頭脳と神経系です。発電所には、ボイラーやタービン、ポンプ、バルブなど、無数の機器があります。それらを制御室からDCSによって束ね、リアルタイムで監視し、自動的に制御します。この仕組みがあってはじめて、プラント全体が安全に、安定して稼働できるのです」

こうして物理的な設備を動かす制御技術は、IT(インフォメーション・テクノロジー)と対比してOT(オペレーショナル・テクノロジー)と呼ばれる。そのOTがいま、DXの進展によってITとの融合を進めている。そして、そこで急速に重みを増しているのが、サイバーセキュリティだ。

「かつて制御システムは外部から切り離され、比較的安全な状態でした。ところがDXが進み、ITやクラウドとつなぐほど、攻撃の入り口も増えています。電力インフラへのサイバー攻撃は、一つ間違えれば社会全体の停電にもつながりかねない、極めて深刻なリスクです。だからこそ、“つなぐこと”と“守ること”は必ずセットで考えています。

万が一攻撃を受けても稼働を停止させない、あるいは速やかに復旧できるサイバーレジリエンスを確立する。攻撃を防ぐだけでなく、攻撃されても止まらない備えまで含めてはじめて、インフラを守れると考えています。この、攻めと守りの両立が、現代のOTに突きつけられた最大の課題であり、私たちが最も力を入れている領域の1つです」

こうして1971年の設立以来、半世紀以上かけて鍛えられてきた同社の制御技術はいま、水素社会の実現を支えるインフラにも活用され始めている。

液化水素を豪州から日本へ輸送するHESC(水素エネルギーサプライチェーン)の枠組みのもと、同社はHySTRAによるパイロット実証「Hy touch 神戸」に続き、神奈川県川崎市・扇島で日本水素エネルギー(JSE)が主導し川崎重工業が建設を進める、液化水素を実証段階から商用規模で扱う施設「川崎 LH₂ターミナル」においても、同社の制御装置が採用されたのだ。

「水素は液化すれば気体の約800分の1の体積になるので、大量輸送が可能になります。海外の安価な再生可能エネルギーで水素をつくり、液化して船で運び、日本で貯めて使う。このターミナルは、国際的な水素サプライチェーンの“玄関口”となるのです」

この施設が安定して運用できるようになれば、水素を安定かつ大量に受け入れることが可能になり、特定の資源やエネルギー源への依存度を下げることにもつながる。日本が目指す水素社会を、実験室の中の話から、実際に社会を動かすインフラへと引き上げる、その最初の一歩となる施設だ。

この取り組みは、社会にとってだけでなく、同社にとっても重要な意味を持っている。

「1つは、火力発電所やLNG基地で培ってきた当社の制御技術が、水素という次世代エネルギーでも役立つと示せること。もう1つは、実証から商用への流れに継続して伴走できることです。新しいエネルギーは“安全に安定して扱える”と確認されてはじめて社会に広がります。その最も難しい部分を陰で支えることが私たちの役割であるのと同時に、次の時代へ躍進するための成長の機会でもあるのです」

AIとデジタルを統合しGXを現実に変える

再生可能エネルギーの拡大により、電力の供給構造は複雑さを増している。そのなかで制御する際に求められるのは、変化に素早く対応する力だと三浦氏は話す。

「再生可能エネルギーは天候で出力が揺れ、廃棄物・バイオマス燃料は性質が一定でないため、不安定な条件のもとでも安定して設備を動かせる仕組みが必要です。鍵になるのは、燃料特性の変化に即応する燃焼制御です。

たとえば、廃棄物を燃やす発電では、ゴミの水分や燃え方が毎回異なります。それをAIと高度な制御で読み取り、常に安定した蒸気と電力を生み出す。水素やアンモニアの混焼においても、同様の技術が必要になります」

変化に対応する鍵となるのが、AIをはじめとするデジタル技術だ。では実際に、それらは設備の運用にどのように使用されているのだろうか。

「AIができることは、『見る』『予測する』『最適化する』の大きく3つです。設備の状態をリアルタイムで見える化し、故障を先回りして予測し、需給や消費を最適化する。当社ではこの一連の流れを、現場のデータを起点に回せる統合デジタルプラットフォーム『ABB Ability』を提供しています」

ただし、停止が許されないインフラの現場でAIの技術を使用するには条件がある。

「私たちが現場でAIを活用する際に強くこだわっているのが、“説明できること”です。最終的な判断を下すのは人間であるため、AIが『こうすべきだ』と答えを出しても、担当者は『なぜそうなるのか』を理解したうえで最終決定をしなければなりません。

そのためABB Abilityでは、ただ答えを示すだけでなく、『この温度ならこの圧力になる』といった物理現象の因果関係に基づいて判断の根拠を示します。ブラックボックスではなく判断の理由を説明できるからこそ、信頼性が最優先される現場でも安心して使っていただけています」

説明できるかたちでAIを取り込むことで、現場の効率は着実に高まっていく。ただし、ここで疑問が浮かぶ。電力需要を押し上げている大きな要因の1つであるAIを、GXの推進にも使う。それは矛盾しないのだろうか。

「AIは、電力需要の増加に対応するための効率化において、重要な役割を担っています。AIによる予兆診断で設備の突発的な停止を防いで保守を効率化したり、プラント全体のエネルギーの流れを最適化して、無駄な消費を減らしたり。AIは、電力需要を押し上げる一方で、その需要増を吸収する効率化の武器にもなるのです。ですから、この両面を上手に使いこなすことが、これからの業界の鍵であると考えています」

“止めない変革”へ ABB日本ベーレーが目指すエネルギー・トランスフォーメーションの未来

三浦氏はエネルギーを取り巻く環境が大きく変化する現在を、歴史的な転換期と捉えている。

「エネルギー政策と産業政策が一体となり、脱炭素を“制約”ではなく“成長の機会”として捉える時代に入ったと感じています。ただ、それは一足飛びではなく、着実に一歩ずつ進めるかたちになるでしょう。そのなかで私たちは“現実的な移行”を信じ、“完璧よりも前進”することを目指し活動しています。日本の強みである現場力と技術の蓄積をデジタルで広げていけば、世界に通用する移行モデルを日本から示せると信じています」

その一歩を積み重ねていくために、エネルギー業界には何が必要なのか。三浦氏が挙げたのは「3つのD」だ。

「3つのDは、『分散化(Decentralization)・脱炭素化(Decarbonization)・デジタル化(Digitalization)』の頭文字をとっています。発電が大きな拠点から各地の小さな電源へ散らばり(分散化)、CO2排出量を減らし(脱炭素化)、それらの仕組みをデジタルで束ねて賢く動かす(デジタル化)。この3つは互いに関わり合い、トリレンマを解く原動力になります。そのなかで大事なのは、いまある設備をデジタルで効率化しながら、新しいエネルギーも段階的に入れていく、『AND』の考え方です」

理想から逆算し、完璧を目指して大きく進んでいくのではなく、一歩一歩、確実に前へ進んでいく。同社が掲げる実用主義も、この延長線上にある。ただしそれは、理想を諦めることではない。

「日本は、止められないインフラを大量に抱えています。それら全てを置き換えることを待っていては、脱炭素も電力需要増加への対応も間に合いません。だからこそ、現実的なアプローチでしかエネルギー・トリレンマは解けないと考えています。実用主義は妥協ではなく、限られた時間とコストの中で最大の成果を出すための、最も合理的な戦略です。私たちはこの考え方で、“止めないGX”を現実へ力強く進めていきます」

そんなABB日本ベーレーが目指すのは、単なる制御装置のサプライヤーではない。日本のエネルギー変革を長期的に支え、ともに変化しながら歩んでいく「エネルギー・トランスフォーメーションパートナー」だ。既存のインフラを守りながら次世代技術を実装し、“止めないGX”を実現する。続けながら変えていく、継続性を伴うイノベーションを届けることこそ同社の大切な使命である。

私たちがいつでもどこでも、日常的に使っている電気。その背景には、こうした“止めない”ための技術の蓄積と挑戦がある。エネルギーがどこから来て、どこに届いているのか。その問いを持つことは、GXを自分事化して捉え、社会の変化を支える一助になるかもしれない。

取材・文:安藤 ショウカ
写真:水戸 孝造

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