日本の洋上風力は、ここから始まる。初の国産モノパイルが示した「産業化」への道
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脱炭素だけでなく、エネルギー安全保障の観点からも再生可能エネルギーへの期待が高まる日本。一方で、燃料の大半を輸入に頼る構造的な脆弱性は、2026年の中東情勢の緊迫化によって改めて露呈した。その中で、四方を海に囲まれた日本固有の地理的優位性を生かせる「洋上風力発電」は、次の主力電源となり得る存在として期待されている。
しかし、洋上風力発電の普及を支える基礎構造物「モノパイル」を製造できる企業は、これまで国内に存在しなかった。そこで、洋上風力基礎事業に参入したのがJFEエンジニアリングだ。同社は、海外メーカーへの依存、長い輸送期間、納期の不安定さといった課題を解決するため、国内初となるモノパイルの製造体制を構築した。
2026年8月20日、JFEエンジニアリングは「洋上風力基礎事業 第一期プロジェクト」を発表。国産モノパイル21本のうち13本がすでに完成し、9月7日の初出荷を目前に控えたタイミングだ。本記事では、発表会の内容をもとに、国産モノパイル製造の狙いと第一期プロジェクトの全貌、そして日本に洋上風力産業が根付く可能性をレポートする。

生成AIの普及で電力需要が急増、期待される洋上風力
発表会の冒頭で壇上に立ったJFEエンジニアリング 代表取締役社長の福田 一美氏は、開口一番、国産モノパイル完成の意義を次のように説明した。
福田氏「今回の21本のモノパイル完成は、単なる1つの製品の完成ではありません。日本の洋上風力発電を支える基礎構造物を、日本の技術と国内のサプライチェーンを用いて実現できた、非常に大きな一歩です」

洋上風力発電は、海底に基礎を固定する「着床式」と、風車を載せた浮体を海底に係留する「浮体式」の2つに大別される。

現在、日本の洋上風力発電の導入を支える中心は着床式であり、着床式の主要部材となるのが、鋼製の杭を海底に打ち込んで風車を支える「モノパイル」だ。
モノパイルはもともとヨーロッパ発の製品であり、日本には製造できるメーカーが存在しなかった。事業者はヨーロッパや中国のメーカーに発注せざるを得ず、地政学リスクや長い輸送期間、保管コストといった課題を抱えていた。一方で、政府は2040年までに、洋上風力のサプライチェーン全体の国内調達比率を65%とする目標を掲げている。モノパイルはその対象部材の一つであり、国産化は日本全体の課題でもあった。

さらに、生成AIの普及は膨大な計算処理を必要とし、その基盤となるデータセンターの電力需要は急増している。資源エネルギー庁の試算では、データセンター・半導体工場の新増設による最大需要電力は、2034年度に2025年度比で約13倍に達する見通しだ。安定した電力の確保は、エネルギー政策上の急務となっている。
こうした急増する需要を支える電力源として、燃料が不要で国内自給できる洋上風力発電への期待はますます大きくなっているのだ。
JFEエンジニアリングが、洋上風力基礎事業に参入したのは2021年。同社は製鉄・造船をルーツに持ち、100年以上にわたって橋梁・港湾・大型鋼構造物の設計や施工で技術を磨いてきた。「重くて大きく、分厚い鉄を扱う技術」と「海洋という過酷な環境で長期間機能する構造物を作る技術」、この2つが融合する点で、モノパイル製造は同社の強みが活きる領域だった。
福田氏「ただし、私たちが洋上風力基礎事業に取り組む理由は、過去の技術の蓄積を活かせるからだけではありません。洋上風力関連事業を、これからのJFEエンジニアリングの成長を担う重要な柱に育てていく。大きな覚悟を持ってこの事業に取り組んでいます。2035年のビジョンとして利益1,000億円達成を目指していますが、モノパイル事業はその実現を支える非常に重要な事業の一つと位置づけています」
会社の成長戦略と、日本のエネルギー安全保障への貢献。2つの軸が、JFEエンジニアリングを洋上風力基礎事業へと向かわせたといえる。
初の国産モノパイルプロジェクトの”現在地”
事業の具体的な内容を説明したのは、専務執行役員の戸田 伸一氏だ。JFEエンジニアリングがモノパイル製造の専用拠点として建設した、岡山県笠岡市の「笠岡モノパイル製作所」。JFEスチール西日本製鉄所の敷地内に立地し、敷地面積は20万平方メートルにも及ぶ。

製造能力は年間約10万トン(モノパイル50本相当)。最大で直径12メートル板厚130ミリメートル、長さ100メートル程度、重量約2,500トンという世界最大級の規模に対応する体制を整えた。
戸田氏「JFEスチールが洋上風力発電用に開発した『J-TerraPlate』は、これまでよりも約1.5倍大きく切り出せる鋼板で、モノパイルのような大型構造物の製造に適した素材です。今回、この鋼板が重要な役割を担っています。
また、工場の屋根には太陽光パネルを設置し、製造に使う電力の一部を再生可能エネルギーで補う仕組みも導入しました。再生可能エネルギーが新たなエネルギーのインフラを生み出す、そんな脱炭素サイクルを体現した取り組みです」

2021年の事業決定から工場建設、技術検証を経て2023年度末に完成し、2025年12月に最初の受注を得た。
受注したのは、「秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖洋上風力発電事業」向けモノパイル、全21本の製造・輸送だ。発表会時点ですでに13本 が完成しており、8月26日には笠岡モノパイル製作所で「洋上風力用モノパイル基礎 初品完成式典」を実施。9月7日に初回出荷を予定し、2027年3月までに全21本を秋田港へ納入する計画が示された。

製造だけでなく、輸送についても万全の準備を整えている。商船三井ドライバルクと輸送契約を結び、モノパイルを港まで運ぶ専用船「WIND WHALE」が、2026年7月末に完成。巨大なモノパイルを、安全に秋田港へ届けるための海上輸送体制を整えている。

戸田氏「日本では前例のない事業でしたが、受注後は順調に製造を開始できています。今後、国内各地で洋上風力発電が広がっていく中、モノパイルの国産化という選択肢を、業界全体に広げていきたいと思っています」
電力、雇用、産業。洋上風力が地域にもたらす経済インパクト
第一期プロジェクトのモノパイルを受け取る事業者側として登壇したのが、男鹿・潟上・秋田Offshore Green Energy(以下、OKAOGE)の代表職務執行者である由井原 篤氏だ。JERA Nex bp、J-POWER、東北電力、伊藤忠商事の4社で構成されるOKAOGEは、秋田県の洋上風力発電事業を推進している。
由井原氏「弊社として目玉となるこのプロジェクトは、2028年6月30日の運転開始を目指して進めています。アジアでも最大級の風車を21基配置する計画で、秋田県全体の電力需要をほぼカバーする、約24万世帯分の電力を供給する事業です」

OKAOGEが国産のモノパイルを選んだ理由は、コスト以上の価値を見出していたからだ。これまでモノパイルの国内製造拠点は存在せず、洋上風力発電所の建設コスト全体の約1割を占める基礎部材を海外に発注することは、スケジュールの不確実性と地政学リスクを抱えることを意味する。
由井原氏「社内や株主から不安の声もある中、JFEエンジニアリングさんはさまざまな課題を一つひとつ乗り越えて納入までこぎつけてくださいました。日本企業の底力を改めて感じました」
モノパイルの納入と並行し、送電線工事や秋田港の岸壁整備も着実に進んでいる中、地域との関係構築にも力を注ぐ。国の制度に基づく基金の創設を進めており、洋上と陸上それぞれへの具体的な活用方法について、現在自治体と議論中だと話す。
由井原氏「電気を作って売るだけでなく、地域の皆さんに実施してよかったと思ってもらえるプロジェクトにしたい。そのためにも地元企業との連携を積極的に進め、雇用を生み、人材育成でも秋田県の皆さんと一緒に前に進んでいきたいと考えています」
日本だからこそ、洋上風力のサプライチェーンをどう築くか
最後の質疑応答では「今回の完成で、洋上風力事業を登山に例えるなら何合目まで来たか」という質問が投げかけられた。
福田氏「この最初のプロジェクトに限れば、頂上に着いたところだと言えます。ただ、モノパイル事業全体だと、5合目くらいでようやく車から降りて登り始めるというところです」
コスト面では、中国製品との価格差が課題として残る。しかし福田氏は、調達リスクや輸送コストも含めてトータルで評価すれば国産の優位性は出てくると強調したうえで、国産化の意義を改めて次のように語った。
福田氏「自国のサプライチェーンで再生可能エネルギーを作り出す技術を持ち続けないと、日本のエネルギー安全保障は将来的に成り立ちにくくなります。今回の取り組みを通じ、エンジニアリング力は向上しました。着床式から浮体式への市場変化に対しても、これまで培ってきた技術や知見を生かして対応していきたいと考えています」

将来的には、三重県にある津製作所を中心に浮体式の基礎製造拠点の整備も計画する。「笠岡市」と「津市」の2拠点により、国内で唯一、あらゆる洋上風力発電の基礎を製造できる体制の構築を目指す。さらにO&M(運用・メンテナンス)事業も視野に入れており、洋上風力発電の製造から運転・保守まで、国内バリューチェーンを一気通貫でカバーする構想を描いている。
洋上風力発電を産業として根付かせるには、ヨーロッパの歩みが一つの指針になる。1991年に世界初の商業用洋上風力発電所が建設された、デンマークのことだ 。以降、イギリス、ドイツ、オランダなどの各国が導入目標を掲げ、国が主導して市場を育て続けた。こうした取り組みの積み重ねにより、2023年時点でEU加盟27カ国の再生可能エネルギー比率は平均44.3%に達し 、自然エネルギーによる発電が電力消費の半分を超える国も少なくない。日本の20%強 とは、大きな開きがある。
日本では2019年に洋上風力発電事業者選定の公募が開始されてから日が浅く、インフレや入札価格を巡る課題も残る。しかし洋上風力発電は数十年単位で育てる産業であり、目先のコストだけで判断すれば根付かせることはできない。
では、日本に洋上風力発電を産業として根付かせるためには何が必要か。
発表会の内容とヨーロッパの事例から見えてくるのは、理解者を増やすこと、国が長期にわたって支援し続けること、そしてサプライチェーン全体での連携の重要性だ。風車・基礎・ケーブル・港湾・O&Mのどれが欠けても洋上風力発電は動かない。今回の国産モノパイルの初出荷はサプライチェーンの起点となり、日本で洋上風力産業が根付くための大きな一歩だといえる。