フードロス削減を「頑張る」から「楽しい」へ 売れ残り食品を“新たな購買体験”に変えるToo Good To Goの取り組み
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現代の企業経営において、ESG(環境・社会・企業統治への配慮)やサステナビリティへの取り組みは不可避のテーマとなっている。
中でも「フードロス」は、世界的な規模で直面している重要な課題だ。しかし、企業側が環境配慮を訴えても、生活者の実際の行動を変えることは容易ではない。
日本の消費市場において、この「行動変容の壁」をいかに突破するのか。そんななか、環境への義務感ではなく「楽しい体験」や「経済的合理性」を入り口とした新しいビジネスモデルが台頭している。
今回は、サステナビリティを消費者の日常に溶け込ませる「無意識の環境配慮」のあり方について、デンマーク発のフードロス削減プラットフォーム「Too Good To Go」を提供するToo Good To Go Japanの代表取締役・大尾嘉宏人氏に話を聞いた。

日本のフードロスは年間約500万トン なぜ無くならないのか
世界では年間約25億トンの食品が廃棄され、日本においても年間約500万トン近くのフードロスが発生している。
一方で、日本市場の潮目は確実に変化している。事業系のフードロスは、2030年度までに50%削減するという目標を2020年に達成しており、政府主導で商慣習の見直しも進んでいる。
さらに、食品流通では、賞味期限の3分の1を過ぎると小売店が商品を受け取らない慣行である「3分の1ルール」の見直しが進んでいる。政府主導で納品期限を緩和する取り組みが広がるなど、フードロス削減を後押しする動きが加速している。
しかし、社会的な機運が高まっているにもかかわらず、日本の外食や小売の現場では依然としてフードロスが起き続けているが、大尾嘉氏は次のように話す。
「背景には、日本特有の『構造的課題』が存在します。日本の商慣習として、閉店間際まで商品を豊富に陳列する傾向が強く、店舗側は常に『廃棄コストの削減』と『売上機会の確保』という板挟みの状態に置かれているのです。
需要と供給のバランスを完璧に保つことは難しく、結果として、『まだおいしく食べられる食品』であっても、構造上どうしても廃棄されてしまうのです」
「値引きシール」との決定的な違い ブランド価値を守るマーケティングツール
この構造的課題に対し、Too Good To Goは既存の手法とは明確に異なるアプローチをとっているという。
「従来、店舗でのロス削減といえば『値引きシール』が一般的でした。しかし、値引きシールはその時間に店内にいる既存のお客様に向けたアプローチに留まります。
それに対してToo Good To Goは、『まだお店に来ていない方』や『その店を知らなかった方』を新規顧客として店内に呼び込む、「マーケティングツール」として機能します。
さらに、商品を個別に値引きするのではなく、中身が分からない福袋形式の『サプライズバッグ』として提供することで、店舗がブランドイメージを維持しながら食品ロスの削減に取り組める仕組みを採用しています」
もともと日本には「福袋」を楽しむ文化が根付いており、この文化との親和性を踏まえ、「宝探しのような体験」や「賢い選択」として提案している。
環境への配慮を前面に押し出すのではなく、純粋な「体験価値」や「お得感」を入り口とすることで、結果的に社会課題の解決につながる設計となっているのだ。
この点について大尾嘉氏は次のように語る。
「日本の消費者に『環境のためにこれを選んでください』と配慮だけを訴えても、一時的なブームで終わってしまいます。
大切なのは、日常の消費行動の中に、ユーザーが純粋に『面白い』『得をした』と思える体験を設計すること。そのワクワク感の先に、結果として環境配慮が組み込まれているという構造を作らなければ、本当の意味での大衆の行動変容は起きないと考えています」

求められる“無意識の環境配慮”と、新たなマーケットプレイスの可能性
この“無意識の環境配慮”とも言えるアプローチは、日本市場でも確かな反応を示しており、2026年1月にアジアで初めて導入されてから1週間でユーザー数は25万人に達し、3ヵ月半で50万人に上っているという。
参画店舗は多岐にわたる。クリスピー・クリーム・ドーナツ、ローソン、かっぱ寿司、スーパーバリューといった大手飲食・小売チェーンに加え、街のパン屋やカフェ、惣菜店などの個人経営店舗にも参画の動きが広がっている。

大尾嘉氏は、規模の大小を問わず参加できるToo Good To Goを通じて、日本の消費者の「日常の購買行動」をどのようにアップデートしていきたいのかについて、次のように語った。
「私たちが目指しているのは、フードロス削減を『環境のために頑張ること』ではなく、毎日の暮らしの中で自然に選ばれる『おいしい選択』にしていくことです。
アプリでは、お気に入り店舗の新しい出品をお知らせする機能などを通じて、消費者が日々の買い物の中で『今日は近くにおいしい選択肢があるかな』と気軽にチェックできる体験を提供しています。
そうした体験を積み重ねることで、『必要なものを買う』だけではなく、『まだおいしく食べられるものを選ぶ』という選択肢が日常の購買行動に自然と加わっていくはずです。
私たちは、フードロス削減を特別なアクションではなく、例えば毎日天気予報をチェックするように、”まずはToo Good To Goで何かないか見てみる”といった行動として、当たり前の選択肢にしていきたいと考えています」

「ゴミ箱」から「食卓」へ サステナブルを“当たり前の選択”にする社会
「環境配慮」という文脈だけでは動かなかった消費者が、「楽しさ」や「経済的メリット」に惹かれて自発的に参加する。こうした取り組みは、これからの日本市場におけるサステナビリティ・トランスフォーメーションの1つの方向性を示している。

Too Good To Goが目指すのは、「行く必要のないゴミ箱」から「食卓」へ、流通の最終工程を根本から変革することだ。
本来であれば廃棄されてしまう食品を、商品として新たな価値を持たせ消費者へ届ける。そうした仕組みは、食品の価値を最後まで食卓へとつないでいく新たな選択肢の1つといえる。
Too Good To Goの取り組みは、環境負荷の低減だけでなく、企業・消費者双方にメリットのある仕組みとしてフードロス削減を進めようとする事例である。サステナビリティへの取り組みを社会に広げるうえで、こうしたアプローチは今後も注目されそうだ。
持続可能な仕組みが日常の購買行動に組み込まれることで、フードロス削減は「特別な取り組み」から「当たり前の選択」へと変わっていく可能性がある。新たなマーケットプレイスの台頭は、私たちの消費行動そのものをアップデートしていく試金石となるだろう。