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本番に弱いのは「自分のせい」? オランダの“緑の試験会場”が示す環境を変えるという選択肢

面接の前、プレゼンの直前、試験開始の数分前。頭が真っ白になるほど緊張した経験はないだろうか。

そんなとき、多くの人はこう考える。「もっと自信があればよかった」「自分は本番に弱い」「メンタルが弱いからだ」。うまくできなかった理由を、自分自身の問題として受け止めてしまうのだ。

しかし、その緊張は本当に自分だけの問題なのだろうか。オランダでは、試験会場に植物を設置し、受験者が少しでも落ち着いて試験に臨める環境づくりを行う取り組みが注目を集めている。

興味深いのは、「緊張しない人を育てる」のではなく、「緊張しにくい環境をつくる」という発想に立っていることだ。この視点は、試験だけでなく、私たちの働き方や生き方にも通じているのかもしれない。

オランダで始まった“緑の試験会場”

この取り組みを始めたのは、オランダの花き業界団体であるPlants & Flowers Foundation Holland(以下、PFFH)だ。PFFHは、オランダ国内の4つの学校の試験会場に植物を配置し、受験者が少しでも落ち着いて本来の力を発揮できる環境づくりを試みた。

もちろん、植物を置いたからといって試験が簡単になるわけではない。能力が突然上がるわけでもない。しかしPFFHは、植物がストレス軽減や注意力の回復に寄与する可能性に着目し、この取り組みを実施。会場には、受験者の視界に入りやすいよう植物を配置した壁面が設けられ、受験者が緑を感じられる空間がつくられた。

この事例で注目すべきなのは、植物そのものの効果だけではない。むしろ、「試験本番で緊張するのは本人の問題だ」という前提を問い直し、環境を整えることで受験者の力を引き出そうとしている点だ。

私たちはつい、「できる人」と「できない人」で物事を考えがちだ。しかし実際には、空間や音、光、温度、周囲の雰囲気といった環境要因も、人の集中力やストレスに影響を与える。

つまり本来の力を十分に発揮するためには、本人の努力だけでなく、それを支える環境にも目を向ける必要があるのだ。

私たちは、自分を責めすぎているのかもしれない

この発想が新鮮に感じられるのは、私たちがあまりにも「個人の努力」を原因としてとらえる考え方が慣れすぎているからかもしれない。

現代社会では、物事がうまくいかない理由を自分自身に求めることが多い。学業の成績や仕事の成果、面接、人前で話す際などにうまくいかないと、多くの人は「努力が足りなかった」「準備不足だった」「自分が弱いからだ」と考える。

もちろん努力は大切だ。しかし、その一方で私たちは「環境の影響」を過小評価しているのかもしれない。興味深いのは、私たちが「環境の問題」を「自分の問題」として受け止める場面が増えていることだ。

例えば、集中力が低下した際、その原因を周囲の騒音や自分に合わない環境ではなく、自身の集中力不足に求めてしまうことがある。

仕事がつらいときも同じである。長時間労働や曖昧な評価制度、過度なプレッシャーが原因かもしれない。それでも、「もっと頑張れたはずだ」「自分が弱いからだ」と自分自身に原因を求めてしまう。

背景には、長年語られてきた自己責任の考え方がある。努力すれば結果は出る。成功できないのは努力不足だ。そうした価値観は、多くの人の背中を押してきた一方で、「環境の影響」を見えにくくしてきた側面もある。

特に現代の若い世代は、受験や就活だけでなく、SNSによる比較やキャリア不安のなかで生きている。SNSでは、他者の成功を目にする機会も多い。気づけば、「もっと頑張らなければ」という感覚が積み重なっていく。

その結果、「うまくできないのは自分のせい」という思考に陥りやすくなる。しかし本当にそうなのだろうか。人は完全に個人の力だけで成果を出しているわけではない。学校・職場・家庭・社会といった環境は、私たちの行動や感情に影響を与えている。

それにもかかわらず、「うまくいかないのは自分のせい」と考え続けることは、時に人を必要以上に追い詰めてしまう。

パフォーマンスは“能力”だけで決まらない

環境心理学では、人のパフォーマンス良し悪しは、個人の能力だけでなく騒音や照明、温度といった周囲の環境にも左右されると考えられている。

例えば、同じ人であっても、静かで落ち着ける場所と、騒音が多く緊張を強いられる場所では、集中のしやすさは変わる。照明、音、温度、座席の配置、視界に入るもの——そうした一見小さな要素が、緊張や安心感に影響することがあるのだ。

ここで重要なのは、環境が単に「気分」を左右するだけではないという点だ。人は不安や緊張が強い状態では、普段できることも発揮しにくくなる。逆に、安心できる環境では、考える余裕が生まれやすく、集中力が高めやすい。

つまり、パフォーマンスとは「能力そのもの」ではなく、能力を十分に発揮できる状態にあるかどうかにも左右される。

近年、企業でウェルビーイングや心理的安全性が重視されるようになった背景にも、同じ考え方がある。人は、常に強いプレッシャーのなかで最大限の力を出し続けられるわけではない。

安心して話せること、失敗しても過度に責められないこと、落ち着いて考えられる空間があること。そうした条件が揃うことで、人は本来の力を出しやすくなる。

これまで私たちは、「努力できる人になる」ことばかり求められてきた。しかし個人の努力だけに目を向けるのではなく、「力を発揮できる環境をどうつくるか」という視点も必要なのかもしれない。

「もっと頑張る」の前にできること

私たちは長い間、「より強くなること」を求められてきた。より努力する、より勉強する、より自信を持つ。もちろん、それも大切だろう。しかし、自分を責め続ける前に、「今いる環境は、自分が力を発揮しやすい場所だろうか」と考えてみてもいいのかもしれない。

安心できる環境は、人を甘やかすためのものではない。むしろ、自分の力を発揮できたという経験を積み重ねるための土台だ。人は一度も成功体験がないまま、自信を持つことは難しい。しかし、自分らしく力を発揮できた経験は、「自分にもできるかもしれない」という前向きな感覚につながる。

そして、その小さな自信が、新しい挑戦やより難しい環境へ踏み出す力になることもある。だからこそ重要なのは、最初からどんな環境でも成果を出せる強い人になることではない。まずは、自分が安心して力を発揮できる場所を見つけることなのかもしれない。

受験や仕事で思うように力を発揮できないとき、自分自身の努力や能力だけに原因を求めるのではなく、周囲の環境に目を向けることも一つの選択肢になる。

私たちはつい、「もっと強くならなければ」と考えてしまう。しかし時には、「もっと安心できる環境を選べないか」という問いの方が重要なこともある。

変えるべきなのは、自分自身だけとは限らない。環境を整えることで本来の力を発揮でき、その経験が新たな挑戦への自信につながることがあるのだ。

文:中井 千尋(Livit

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